【46】皇王カイルゼン(2)
前回の続き。少し短いです。
「護衛の二人。面を取り顔を見せよ」
降ってきた声に、ピクリとメイベルの肩が揺れた。
カイルゼン皇王が選ばれた十八年前の儀式の場に、ローゼスは居たという。つまりは皇王他の王族達や神殿関係者に面識があるということだ。しかも、魔法人形である彼は老いがないため、当時から外見が変わっていないはず。
素顔を晒すのはまずいとナザレが用意してくれた白銀面を付けてもらっていたのだが、顔以外に何か感づかれたのか、それとも単に護衛の二人が面で顔を隠していること自体に不信を抱いたのか。いずれにせよ、呼び止められてしまったからには仕方ない。
緊張しながらメイベルはアルフレッドと目を合わせ小さく頷き合うと、再び玉座の方に向き直り揃って首を垂れた。
「この者共は、戦場での負傷などでそれぞれ顔に酷い傷を負っており、此度のように貴人の目に触れる警護役を務める場合などにはこのように白銀の面で顔を隠すことにしておるのです。
奇異に映るやもしれませんが、どうかご容赦を……」
「構わぬ、取れ」
「……」
カイルゼン皇王は、アルフレッドの言葉に被せるように、しかも有無を言わさぬ口調で再度面を取るように命じてきた。ずっと感情の乗らなかったその顔が、心なしか強張っているようにも見える。
アルフレッドは二人の護衛に静かに声を掛けた。
「ヴィーゴ、ローゼス、面を」
「はい」
アルフレッドの命を受け、二人の護衛はそれぞれ左手で白銀の面を押さえながら後頭部にもう片方の手を回し、カチリと小さな音をさせて面を固定していた紐の留め具を外した。
二人の様子を凝視していた者達の間に動揺が広がる。
白銀の面の下から現れた彼らの顔は、ヴィーゴの方は頬に大きな切り傷が、ローゼスの方は額の中程から口の上付近までの広範囲におよぶ熱傷の痕が覆っていたからだ。
カイルゼン皇王が、玉座から問いかけた。
「右の護衛の傷は剣によるものか。
もう一人の、灰色の髪の護衛……その熱傷は、いつ頃のものだ?」
ローゼスは直答していいものかとアルフレッドの方を窺い見た。壇上から「許す」という声が掛かったので、顔を上げて説明を口にした。
「幼少時に魔法の訓練をしていて、誤って大火傷を負いました」
「幼少時……魔力暴走、か?」
「左様です。幸い、視力は失わずに済みましたが、それきり魔力は喪失いたしました。
失った魔力の代わりに、今は剣で身を立てております」
「その紫がかった目は、生来のものか?」
「この身を授かった時からのものでございます」
「そうか……」
「先ほども申しましたように、両名共、実力は折り紙付きです。
どうか、面の着用をお許し願いたく」
「……わかった。面を付けることを許そう」
「有難う存じます」
アルフレッドとともに護衛二人が首を垂れ、あらためて白銀の面で顔を隠した。
皇王から下がってよいと声が掛かり、一行は揃って謁見の間を後にする。
閉まった扉により、重苦しい空気と一緒に背中に集まってきていた様々な思惑を含んだ視線が途切れた気がして、メイベルは静かに息をついた。
(念のためにって言ったアルの予想が的中したわね)
白銀の面は付けてもらうことにしたものの、万が一外すよう言われる可能性がなくはないからと、アルフレッドの提案で彼が護衛二人の顔に傷の幻影魔法を施していたのだ。
幼少期の脱走癖のために変装に使えそうな魔法は得意だと豪語するだけあり、アルフレッドは大した魔力も手間暇もかけることなく、二人分の傷の擬装を行った。
おかげでローゼスの素顔を皇王や神官長たちに知られずに済んだわけだ。
「褒めてくれてもいいんだよ?」
同じことを考えていたのだろう、アルフレッドが囁くように言った。
「そうね」と肯定しようと視線を向けた先には得意げな王弟殿下の笑顔があって。その通りだと内心認めてはいてもなんとなく癪に障ったメイベルは、微妙な面持ちになって「考えとく」とだけ答えていた。
このところ、アルフレッドに対してどうも素直になれず、態度が変になっている自覚がある。けれどそうなる理由も自分の中ではっきり分かっておらず、メイベルは態度を改めるきっかけを掴めずにいる。
(とにかく、白い妖精のいる場所への立ち入ることは決まったのよ)
この謁見での一番の目的は、無事達成したのだ。
胸にわだかまる余計なもやもやはとりあえず横に置き、メイベルは顔を上げ前を向いた。




