第一章:蜜の味3
蜜を求め彷徨う狼女の物語
アジトへ戻ると、
薬を投入され人心地。
初めて連れて来た
若い男女の品定めをする兎に、
「おぉ初めてにしては上出来だ!
一切のぬかりなく事を進めたそうだな。
それはもう見事ととしか言いようがないと
蛙が報告した」
「蛙は監視役でもあるのか」
「当然だろ?
そこそこの知性を持ち合わせていて、
私の命は絶対だ。
よく覚えておけよ?
お前が何かやらかそうものなら即、
その体が2つになる。
ふはははははは。
だが見事な歯車具合で関心した。
今日与える薬は純度が高く、
もっと俺に貢献したくなるはずの褒美。
ぐわははははははははは」
いつもの気持ちの悪い笑い顔。
そして私は連れて来た若いふたりを見て、
彼らは速攻薬を盛られ、
騒ぐことも、
泣くことも、
逃げようともせず、
ユラユラと彷徨い、
若い女は自ら先住どもの輪に飛び込み、
若い男は2人の女を追いかけ回し、
すぐに養殖場の住人となっていた。
『入ってそうそうこれか…
人間も魔物だな』
その様子をぼんやりと見て、
自分にもいつか来るその日を
夢想していたがすぐにその情景は、
『あれはいったい…誰…
赤ずきん?』
あの女を思い、
考えて考えてどんなに過去を思い出そうとしても
思い出せず、
いつの間にか眠ってしまった赤ずきん。
すると船を漕ぐうち懐に忍ばせていた
あのチラシが落ち、
「なんだこれ…」
拾った兎はじっくりと見て、
「ほほぅこの似顔絵こいつにそっくりだな。
まさか捜索人が居るとは。
ここまでする所を見るとかなり親密。
しかも女医?
どういう関係なんだ。
医師の脳髄はさぞかし旨いだろう…な。
でもババァは俺は願い下げ、
喰いたくない!
ふふふっ。
こいつに喰わせて、
真の忠誠を見させてもらおうか…な。
喰うとそいつの能力が、
自分の物になるのは正しい…が、
人の場合で確率は1割以下、
魔物で3割くらいだけど…な。
俺も大元の蛙男爵を殺って喰ったら
運良く授かったんだ。
蛙の下僕と脚力。
二つも習得出来た!
男爵様も俺の理念に乗っかってたら、
良かったもののクフ…
明日一番に命令しよう、
この女医を喰ってこいって…な!
グフフ…
グヘヘヘヘヘ」
兎はその思い付きが素晴らしいと、
ピョンピョン跳ね、
「任務が達成したら、
お前は我が手中に本当に落ちたとみなし、
軍師にでも昇格させるか、
薬漬けの軍師だけど…なー!!
そして最後はお前も俺の餌。
さてどんな能力が授かるのか~
楽しみだー
きゃっほー」
今度は踊りながら跳ねまくっている兎。
翌朝早々にトンネルへ向おうとする私を
兎は呼び止め、
違う命令が下された。
人さらいではなくこのチラシの場所へ行き、
そこの主を喰い殺せという事らしい。
「お前は街では顔バレしてるだろう?
夜の闇に紛れろよ?」
「分かった。
成功したらまた極上をもらえるか?」
「心配するな最高級をやる。
これ以上無い蜜の味」
「蜜?蜂蜜、甘いのか」
「…いや。物の例えだ。
お前は何だろう、
どっかスコーンと抜けてるな
そこが面白くもある…が」
「………で、
この女を喰う意味は?」
「医術修練が出来るかもしれん。
多分外科医療かな?
お前はもっと頭が良くなり、
その抜けた部分が補えるはずだ。
夜の時間まで適当に遊んでろ」
「わ、分かった」
私は突然の暇が出来、
するとなんか、
後ろ首がムズムズしふいに触ると、
少し飛び出ている箇所があり、
『出来物?』
ボリボリ掻き、
モートルを探し虐めて
暇を潰そうと思ったが、
奴は仕事が休みの日にしかここに居ない、
玉をちょん切られ大人しくなり過ぎ、
ナヨっとし始めて笑える。
養殖所の人間は、
暇を潰せる相手では無いが、
赤子を見に行き頭を撫でると、
母親が抱けと赤子を差し出すので、
不慣れだが抱くと赤子は
ダァダァとニッコリ笑い、
「こんな場所でもお前は笑むのか…
私に笑ってくれるのか…」
するとまた、
幼少の記憶が蘇り、
床に置かれている私を
誰かが見つめてる。
それは父だった者?
ーーーーーーーーーー
「無理だ…
連れてなど行けないのだ。
ここで…召されて」
ーーーーーーーーーー
情景がかすかに広がるが、
それ以上何も分からず、
「街はいつでも影ばかりですよ?」
私はすぐ城下町へ向かっていた。
死角の壁向こうにぶら下がり屋根を伝い、
狼の柔らかい足で静かに駆け、
チラシの住所に行き当たると
二階からの窓をこじ開け侵入。
いきなり寝たきり爺さんと目が合い、
『あ。番う…』
思わず微笑んでしまったが、
その目は白内障で見えてないと安堵。
『やばー』
隣だったと気を取り直し急ぎ、
やはり二階の窓に手をかけ、
鍵はかかっておらず中へ体を滑らせる。
入るとそこは酒臭く、
本がたくさん書棚に押し込められ、
山積みになっている寝室。
テーブル上の灰皿は
タバコの残骸まみれで、
1本抜くと崩れそう。
何本もウィスキーの空ビンが転がり、
脱ぎ捨てられた衣服も散乱。
洗濯せず放置し、
人を殺せそうな硬い何かもあり、
『きったねーここも豚小屋…
掃除したろか?
え???
対象はどこだ?』
壁に耳を当て家に聞く。
木材の鳴る音。
空間のざわめき、
鳥がどこかに巣を作っている音。
暫く聞き耳を立てるが
生活音も会話も一切無く、
『不在だ…まぁ仕方ない、
帰るのを待つか…
腹が減った食い物はあるか?』
張り詰めた気が一気に緩んだが、
狼の足で音も立てず階下へ。
キッチンへ行くとシンクは
使ったままの汚れた食器と
蝿のたかる食残しで溢れ、
コンロ周りに置かれた鍋の蓋を取ると、
『ぐぇえええええ』
ウジが湧きカビだらけ。
私は鼻を摘んだまま片付けようと…
『水はさすがに出るよな??』
蛇口をひねり、
シンクから始めようとしたそして、
『うわぁああああ~~~!!
何やってる~~!
片付けしてる~なぜだ~!
体が勝手に動いてるぅううう。
どういう事だ』
私は驚き椅子に屁垂、
辺りを見回し収納棚を開けまくり、
診察室にもある棚と言う棚、
開けられる物は全部開き、
待合室に行くと、
『ん?油臭い』
そしてソファにどっと座り込み、
『どこに何が有るか全部知ってる…
なぜ知ってる…
これって…』
暫く頭を抱え悩み、
すごい勢いで二階の汚部屋へ向かい、
折り重なる物の中から、
ある探し物を見つけようとしたが、
『無い?無いのか!
どこだーそうだ、
まだ入ってない部屋!』
急ぎそこを開けようとしたが、
鍵がかかり、
扉の上の梁上に手を伸ばす。
カチャッ
鍵はそこに隠され、
扉を開ける。
そこは他の部屋とまるで違い、
他の部屋とは雲泥の差で
掃除もされていて、
机に置かれた
当時は高価で珍しい写真。
探し物はそこにあり、
ふたりが正装で凛として写っている。
1人は私そして、
『なぜ私が』
私は過去を全て思い出すため
もう一人を見つめ。
「女医?
…ここの主…
あぁまさかあの時、
赤ずきんと叫んだ女!
あぁあああああ良かった。
良かったよぉおおおおおお!
ここに居たら殺してたよぉおおお!」
私は写真立てを抱えて泣き、
泣くのは初めてで、
大号泣し息も絶え絶え。
居ても立っても居られず
医院の玄関まで走り、
「あの人を探さないと、
この人を守らないと、
この人喰い狼の赤ずきんが!
今!!」
ドアノブに手をかけたが、
彼女を見たあの街道以来、
居そうな場所にあてなど無い、
困り果て、
床につっぷし倒れ込み、
「私は私は全てを思い出した!!
私はここの住人だった!
殺そうとしてる相手は、
別れに泣いてくれた先生。
私はまた帰って来たんだ!
この家に!!
ぐわぁああああああ』
自分のやってる事が悲しくて
叫んだその瞬間、
首裏の出来物が突然痛みだし、
触ると腫れていて、
ジンジンと脈動している。
『これは奴に仕込まれた安全装置だ!
私の行動を逐一記録、
あるいは通信…
ぐぬぅうううううう
取れるか!』
それを掴み力を込め、
ゆっくりと引き抜きにかかる。
抜こうとすると体が痺れ、
「ハァハァハァハァ」
息が出来なくなり、
『あぁ…これもしや髄に喰い込んでる?
抜くと死ぬかも…
くっそぉおおおおおおおお』
絶望の瞬間脂汗が滲み、
『もしバレてたらすぐに
追ってが来る?
だが奴らの中でまともに
動けるのは兎だけ、
奴が来るのか…
奴は人に化けれるのか?!
でもま、
どっちみちここでじっとしてても
薬が抜けて死ぬ目に会う…
いっぺん死んでみるか…
私に主たる大義など無いが、
ささやかな思い、
蜜の相手とすら出会えなく…
どこに居るかも分からない相手』
ブシュッ!
そして引き抜いていた。
『ぐぅ』
声も出せず血の気は引き体は痺れ、
ガクガクと震え出し、
足先から体温が急激に低下、
心臓に到達。
ドクンドクン…ドクン…ドッ…クン…
生体反応が止まりかけ、
それは現れた。
「グフッ
グフフフゥ」
そして、
「ゲロゲロゲロゲーロ」
鳴き出し、
引き抜いたのは小さな蛙。
ただ完全には抜かれてはおらず、
いまだ細い糸のような神経で
彼女の首裏と繋がっている。
ベロベロベロ~ン
小さな蛙は本来の巨体に変化し、
赤ずきんの死んだような顔を舐めている。
「お前殺せるか?
ゲロゲロゲーロ
殺してくれる?
おぃ聞こえてるか?」
ベロベロベロ~ン
「殺っててくれるなら助けるゲロォ
ワシは男爵の大元の蛙男爵。
兎に喰われ能力も吸われ、
今はただの奴隷だが、
お前に貼り付いていたおかげなのか、
自由が戻ってきている。
魔物に死などないのは知ってるか?
一片の肉塊からでも生き返れる。
お前を1度喰うぞ?
お前からの返事はないが、
お前に猛烈な兎への恨みを
ずっと感じていた。
復讐だ!
復讐の時は来た!
その体に盛られた薬毒もわしの毒で
なんとか中和してやろう。
いいな約束だ!
お前の望みはわしと同じ。
奴を殺せ!!」
巨大な舌で赤ずきんは大きく太く
ネットリした舌に巻き取られ、
大き過ぎる口にゴクリ丸呑みされ、
大きな腹がたぷんとまた一段と
でかくなり揺れ、
両手で腹を擦る蛙男爵に
消化されているようだった。
「そしてお前が兎を喰らえば、
上手くゆけば!
わしは今度は…
永遠…にお前」
蛙の眉間に力が入りウンウン唸り始め、
全身が蒼くなると、
ガマの油が尋常じゃ無い量垂れ出し、
床はぬらぬらと光る
油溜まりになっていく。
体の周りで飛び跳ねる鳥がうざく払うと
数羽のカラスは私を啄むのを止め、
速攻バタバタと飛んで行き、
どうやら私は夢を見ていたようで、
顔を上げ辺りを見渡すと、
どこかの草原に転がっていて、
起きようとするとふらつき、
顔や体が粘液に塗れ、
口の中もべっとり。
『うぇぇえええええ』
ベッベッベッ
とても気持ち悪く気分も悪い、
起き上がろうとしても体は言う事を効かず、
うつ伏せからやっと仰向けになるので精一杯。
『ここがあの世?』
ぼんやりと考えていると、
また眠ってしまったようだった。
次に目覚めるとそこにあの女医さん。
私は信じられないと、
わんわん泣き彼女にしがみついていた。
彼女はメイドの娘が、
食用の草摘みで
お前は発見されたと言い、
泣く私と一緒に泣いていた。
「私は若い頃結婚していて、
初めての子を医療ミスで流され、
子宮ごと持っていかれてね。
子供が産めなくなった私に
旦那は用はないと
離婚され今も独身。
女の子が1人は欲しくて、
お前が本当の娘みたいに思えてね。
赤ずきん。
いい名前だ」
そう言われてまた泣き、
とても大事な事を思い出した。
「あ。先生ここはいったいどこ?」
「ここはー」
先生は場所を教えてくれ、
ここは私にとってとても都合の良い、
警ら課の森の右拠点だった。
「先生!隊長に伝えて、
私は犯人を知っている。
アジトを教えるって。
だから少し待っててくれって。
だーけーど、
その前に特急で、
しないといけない事があって、
すぐまた会えるから。
ちょっと行ってくる!」
風のようにベッドから抜け出す赤ずきん。
「えぇえええええ?!
あっこらまだ寝てろ、
まだ安静にしてろー!」
赤ずきんは、
すぐさま奴の所在を聞いて回り、
街道を走り森の左拠点へ突入し、
やっと見つけた、
何も知らないモートルを、
物陰から襲い失神させ、
リヤカーを一台を拝借。
真実をこの男の背に仕込むと、
また右の拠点へと一目散に戻って行く。
「気分爽快!
うわはははははは
わっはっはっはっはー」
笑いは止まらず、
右拠点に付くとそのまま
隊長のテントまでモートルを運び、
皆が何事かと見守る中、
隊長に突き出し、
「なんなんだいったい。
さっき先生から聞かされたが、
どういう事なんだ?!
こいつが犯人なのか??」
私は何も言わず、
モートルの背中を見せてやると、
オクマ隊長は驚き、
その裸の背には奴の持っていた。
初めて会った時に見せてくれた、
ぶっとい針と糸を
まだしっかり持ってやがったので、
それでしっかりと、
ス パ イ
と縫こんだでやっていたのだ。
そして静かに事を運べと
メモ帳で筆談を始めると隊長も応じ、
ーーーーーーーーーー
隊長:なぜ筆談?
私:この男の首にスパイ装置が
仕込まれてる。
『なっ?!』
ゴクリ喉を鳴らす隊長。
隊長:アジトを知ってるのか?
私:木の上に穴の扉。
大きな幹にあるはず、
そいつが詳しい。
隊長:犯人は誰だ!
私:魔物!!!
隊長の顔が青ざめる。
私:16人は生存。
隊長:俺達も行くぞ!
私:強力な催淫薬でみなやられる。
隊長:なぜお前は助かってる!
私:後でね。
ーーーーーーーーーー
そして私は上級職向けの
ギラギラしたカッコ良いサーベルを、
「ちょと借りて…いやぁ
特別報酬でもらっていくー」
刀置き場から二刀抜き、
「あ、おぃお前!
体はもういいのかー」
消えるように去る私の後を追い、
テントから出た隊長は、
「特に腕の立つのを招集しろ。
今重要な証言があり、
犯人のアジトへ、
森へ捜索に入る。
ガスマスクと二股槍を多数用意!
下級員は出来るだけ多くの縄梯子、
その他ロープを!
出発は2時間後!
犯人は魔物だ!
抜かるなよ!!」
部下に激を飛ばし、
「あ。それと、
中で拘束してるスパイを事情聴取しろ。
魔物の手下だ慎重に行え」
グギュゥ
音がなるほど拳を握り締める隊長だった。
私は兎をどう
やって殺やろうか考えていた。
奴の本来の能力など一切不明。
だが兎魔神は、
自分を元々ただの兎だと確かに言い、
『それなら弱点は耳だろ?』
単純にそう踏んでいる私だったが、
『魔術…は本物なのか?
薬はただの経口投与剤。
ただの蛙をどうやって男爵に、
配下にしてる?』
私は首の後ろのアレをそっと触り、
『これ外したはずだったんだが、
元に戻ってる…
おかげで死なずに済んだ?
奴のなんらかの装置のはずだが、
薬の効果が、
副作用もなく一切消えてる…
いったいこれは…
どうやって森まで来れた…
謎だらけだ』
判断は付かず森の扉を探しあて、
侵入する赤ずきん。
『人間は助けたいでも、
頭が完全に薬漬けの奴ら…
連れ帰って薬が切れようものなら
死ぬだろう。
だがあの若い2人と赤子だけは…』
長いトンネルを走ると声がした。
「限界だ…
お前の殺害を開始するしかない…
命には逆らえないのだ。
だから早く早く早く兎を殺せ!
復讐を成せ!
わしはお前の自爆装置!!」
「なんだ?誰だー!
誰か居るのか?!」
背後を見て代わり映えのしない
トンネルのどこにも誰も居ない、
そしてすぐ出来物が脈動する。
ゲロッゲロッゲロッゲロッ
「ぐわぁああ」
痺れが全身に走り、
壁伝いによろめき歩くしかない状況に、
「何してる走れ!
わしの意思がかろうじて爆弾を止めている間に」
ふいに体が元に戻る。
「おぉおおお前がぁ出来物の正体ぃいいかぁ?!
ハァハァハァハァ」
「指示をするから言う通り進め。
話すな走れ!」
交差し、
上下し、
深く長く、
粘液まみれで臭い
複雑に絡まるトンネルを、
男爵の指示で駆け、
途中途中脈動が始まり、
足は止まり、
体はねじれ痺れ動けなくなり
これまでかと思ったが、
そのつど男爵に叩き起こされ進むと、
本拠地に近いのか他の男爵たちが、
ゾロっと見え始め、
私は手を狼にし、
長くしなやかな凶器の爪を伸ばし臨戦態勢。
だが、彼らはその長い舌で私を包み、
離れた所に居る別の男爵に、
舌で届け始めた。
ビュグッ ビュルッ ビョィーン
「うわっうわっうわぁああああ」
私は蛙の舌で次々に運ばれる、
リレーバトンのようになっていた。
そして降ろされ、
その先に光の漏れてる所が主要なアジトの入口。
中をそっと覗くと、
誰も居ない。
『奴は私の事に気づいてるはず。
慎重に、慎重に』
部屋を進むと、
相変わらずウロウロしてる人間共が見え、
テーブルの下へ潜り込むと、
みんな面白そうに私を追いかけ、
覗き込んで来るので、
隠密行動の意味はないと
立ち上がると、
『兎!』
奴がそこに、
広い養殖場の奥に、
私が囚われていた檻の中の椅子に、
どっかり腰を据え座わり、
こっちを見ている。
「こそこそするな。
堂々と早くここへ戻れ。
麗しき雌狼…
いや赤ずきんか?
びびらなくて良い、
遠慮なんかするな、
俺とお前はもう仲間なのだ。
だから、
色々知りたいのだ。
薬からは脱却したのか?
自爆装置をどう解除した?!
どうやったらそれが出来たのか、
だから喰わない
知るまでは…な」
不敵な笑みの兎。
「そんなとこで何してる?
自ら檻に入り命乞い?
立て籠もってるのか?
すぐに鍵をかけ閉じ込めてやるが、
その前にズタボロに引き裂いて喰ってやる!
で、あとなもう少ししたら、
人間の法務執行官がぞろぞろ来て、
このアジトごと壊滅させるはず!
人々は救出され、
ついに人さらい事件は解決。
そして犯人はなんとただの兎!
おどろおどろしい事件の割りに、
間抜けな新聞記事になりそうだな」
二刀のサーベルがガチャガチャ鳴り、
私は奴との間合いを詰めていく。
「何を言ってるのかさっぱりだ…
早く来いここへ、
早くお前の巣に戻り、
この枷に自分の四肢を通せー!!」
兎は叫び、
「喰い殺す!!」
ビュン
超絶な跳躍と狼の腕で奴に襲いかかる私。
奴は檻の扉をすぐに締め錠をかけ、
私の動きを封じたが、
鉄の檻の格子状の隙間から、
逆に囚われの身となった奴を
サーベルで刺しまくり威嚇し
勝ちは目前だった。
だが、
「お前に俺は殺せない」
指をパチンと鳴らす兎。
すると、
赤ずきんの動きは急に止まり、
思考も止まり、
兎の赤い目の罠に落ちていた。
「良い子だ良い子だなぁ
赤ずきんちゃん。
また催眠の効果を強くするよ~
あなたは私の命令には絶対です。
あなたは私を手にかけません。
あなたがまたおかしくなった時は、
檻に入り自分で拘束します…よ。
お返事は~?」
「はーい!」
元気に答える赤ずきん。
パッチン。パッチン。
今度は指を二回、
それは魔法ではなくただの催眠術だった。
「1番と3番の防護を解除出来て
やばーとか思ってたが、
2番目の暗示の枷までは
分からなかったんだな…な?
戻って来てくれてありがと…な。
ちょいビビったが…
ほら入って来い!」
ガチャン
檻の扉は開かれ、
抗おうともせず進み、
「ほらほらちゃんと枷かけて
拘束するんだぞ?」
ガシャン ガシャガシャ ガッチャン
鉄の枷を自ら、
四肢に嵌めていく赤ずきん。
「そうそうそうだ偉ぞぉ~
また美味しいお薬が待ってるぞー。
でもま、
人間如きががドカドカ来るのも面倒。
さっさとここから離れないと。
養殖場候補地はまだまだあるし…な」
兎は監禁室の壁にある隠しスイッチを押すと、
天井の隠し扉が空き、
牢の檻そのものが昇降機となり、
ふたりは伴い上へ昇って行く。
すると、
アジトに緑色のガスが充満し始め、
狂った人間共は涎を垂らし、
更に狂い始めた。
昇降機が止まり、
「ここが昇降機になっているなど、
当分は見つからないはずだ!」
安堵した兎は、
赤ずきんのそこを
じっくり見ようとしたが、
暗くて見づらく、
蛙の装置を取り外すと、
長い神経線が首元からするすると流れていき、
このアジトで1番需要な製薬室へ、
光の注ぐ部屋まで持って行き、
「おい男爵起きろ!!
俺様の命令が通じなくなったのか?
主の言う事が聞けないなど、
もってのほか!
仲間を皆殺しにするぞ。
いいのか…な~!!」
「あぁあああそれだけは、
お止め下さい兎魔神様ぁ~」
「おっ?まだ忠誠心は残ってると
思っていいのか?」
「当たり前です!
わしは狼の善なる血にさらされ過ぎて、
動作不良を起こしていたようなのです。
もう限界です再開です!」
「善なる血?再開?」
兎がそう呟いた途端、
ドカーーーーンッ!
蛙爆弾は爆発し、
兎は吹き飛び胴と体の二つになっていたが、
まだどこかしらピクピク動いていて、
「ぐぅぬぬぬぅうう」
口が微かに動こうとしてる。
蛙男爵は言っていた。
【魔物は不死。その欠片一片でも復活する】
ただしこれにも確率があり、
復活出来る割合は低く、
どれほどの能力、
力の保持者であるかで決まっていた。
ふらふらと赤ずきんはその惨状に、
血まみれの場所に、
ゆらゆらと歩き立ちすくんだ。
赤ずきんは蛙男爵のその話を
知る由も無かったが、
「男爵ありがとうな。
何から何まで…助かった。
さぁ兎さんお前まだ生きてるよな?
ある意味、
生きていてくれてありがたい。
お前がそうなってくれたおかげで、
催眠効果は取れてないが、
命令する本人が居なければ、
聞く耳持たなくていいしなぁ」
赤ずきんはサーベルで兎の頬を叩き、
「お前は何者なんだ。
大いなる歯車とは何だ…
聞きたいことは山のようだが
時間が無い、
命は貰う!」
瞬時に変身した赤ずきん。
狼の巨体を現し着てる服は裂け、
巨大な口で
齧りつこうとした時、
左肩から喰い心臓を残した
あの遺体を思い出し、
「あぁあああああああああああああ。
そうかそういう事なのかぁあああああ!」
直感が閃いた。
「ためらい傷じゃない!
あれはサイン。
気づかせるサイン!
犯人は同類を、
私を待ってるんだ!!
ワォオオオオオオオ~ンン~。
兎!
私をちゃん付けするな。
ちゃん付けしていいのは
1人だけだー!!」
そしてしゃぶるように喰らい、
残してい頭をサーベルで切り落とすと、
その耳をあの針と細縄で縫い、
腰に下げながら、
養殖場に戻ろうとしたが、
「ガス…ガスはやばい…
だが助けないと…
かわいそうな事をした彼らと」
昇降機の床をこじ開け
下へ飛ぶと、
私は不安だったガスに平気で動け、
人間たちはほぼ狂っていて、
赤子を探そうと、
「ほぎゃーおぎゃーんぎゃ~」
鳴き声がする方へ行くと、
あの若い2人に抱かれている赤子。
「お、お前らなんともないのか?!」
泣いてはいるが顔色も良い赤子の首を見て、
若い子の首も見て、
自分のを触り、
「男爵…ありがとう…な」
そうこの装置のおかげで、
私たちはガスを跳ね除けていると確信し、
「ワォオオオオオオン」
嬉しくて吠えていが、
慌てて変身を解き、
ボロボロの服ではさすがに
色々見えて気まずく、
近くに転がっていた奴隷服を
着込んだ。
遠吠えが微かに聞こえ、
「狼?!」
「何?どうした」
「今遠吠えが」
「いいからマスクを確実に装着しろ!」
「了解です」
警ら課の面々は、
ガスマスクを携えアジトに侵入し、
それぞれの部屋を探索し、
赤ずきんの動向が気になる、
隊長と先生は、
馬鹿兎が蓋を締め忘れたおかげの
スイッチを発見し、
上へ上がろうとしていた。
「レッドー!レッド・フード!!
どこだー居るなら返事しろ~」
「赤ずきんちゃーんどこー」
声が響き、
「来たね。
上へは行かなくていい」
彼らの前にぬっと現れた赤ずきん。
その背後には若い男女と赤子が居て、
「会えて良かった大丈夫か?
怪我は??
どこもなんともないか。
その子たちはすぐ保護しないと」
先生が言うと隊長は近くに部下を呼び、
彼らにもすぐガスマスクが付けられ、
連れ出されて行った。
「ありがとう。
私は怪我もないし、
全然平気」
「おいお前ガスは平気なのか、
あの子も同じだ。
どうして?!」
隊長は詰め寄ったが、
「だからってマスクは外すなよ?
ほらこれ」
兎の首をベルトから外し
隊長に差し出すと、
「な、なんだこれはぁ~、
まさかこれがぁ」
ゴクリまた喉を鳴らす隊長。
「そうこいつが犯人の魔物…
兎魔神だと名乗っていたが、
何も分からんよ」
「あなたはなぜこれを倒せたの、
なぜガスが平気なの??
あなたの尋常じゃない才覚って…
まさか」
先生たちの表情は
マスクで見えなかったが、
私を見る目が、
恐怖に引きつっているとしか思えず、
「これは返す」
隊長のサーベルを渡し、
「これで兎の首を取った。
あんたの手柄にしてくれ」
その行為に、
「なっ…口封じのつもりか?
見返りはなんだ」
「フフッ
回転の早い大人は大好きさ。
1年でいい、
私を放おっておいてくれ…
もしくはあんただけでも永遠に」
隊長は何も言わずサーベルを受け取ると
腰に戻し、
「先生このアジトは強力な薬の
精製所でもある。
注意してくれ、
あとはあんたらに任せた。
まさか自分でもこんな事になるとは
思ってもみなかったよ。
ちょい疲れた」
「それでレッド」
隊長は話そうとしたが、
「それで赤ずきん、
これから
どうする気なんだ?」
先生に遮られた隊長。
「本当の目的の旅に出るよ。
未解決事件を解決しにね。
あの赤子たちもしっかり面倒見て欲しい
お願いします」
「それなら任せておいて。
医院で面倒を見て、
相応の人を探すよで、
赤ん坊の性別は?
名前は?
肝心のこの子らの親は…
あぁ…なんてこったい」
先生は分かってしまい肩を落とした。
「うん。
両親とも囚われていた誰かだと思う。
ここは兎が言うには、
人間養殖場だったから…でも、
彼らはもう頭が」
私も肩を落とし、
「そうか可哀想にな。
でレッド・フード!
まだ街を出るなよ?
お前は容疑者ではない、
無いがこの状況に
お前の立場は危うすぎる。
重要参考人としてすぐ調書を取りたい!
拠点に一緒に戻ってくれ。
いいな?
んで、未解決事件って何だ?」
隊長は話したが、
「それで隊長にも先生にも頼みがある」
私は兎の残っている遺体まで彼らを案内し、
「あれをスケッチして詳細を新聞に載せてくれ。
得意の絵でも文章でもどっちでもいい」
頼んでいた。
「え?あれを」
先生たちは血の痕を踏まぬよう、
損壊の状態を見ていた。
「あぁこれって…
左じゃなく右肩から喰われてる…
心臓には手を付けてない。
これってあれの逆バージョン!」
先生は気づき、
「うんでも、
勘違いするなよ?
実はもう一匹蛙の魔物が居て、
そいつが喰ってたんだ。
私はそいつを蹴散らし、
まだ生きてた兎の首を取った…だけ」
私のささやかな嘘。
「そうか、
だがなぜ
こんなにも魔物が…
物語の中だけと思っていた奴らが
いきなり現れた」
隊長が言い、
「怖すぎる世の中だよ。
まさかな事が目の前に」
先生はまた肩をすぼめ、
「サーベルは受け取ったから
返事は【はい】だ。
だがこうなっては、
全容を知らなければならない。
調書は完全記録外、
私だけの事と誓う。
お前の自由も約束する」
「分かった驚く事もあるだろうが、
それはその時話す」
『兎の話は人間には重すぎる…
魔物が3年前から生まれ出していて、
私も同類探索の衝動に駆られ、
血が騒いでる。
歯車が血の滴りによって滑らかに回り
次の歯車へ伝搬しているのだ』
先生は遺体のスケッチを始め。
隊長は現場検証を始めメモを取り、
捜査員による本格的なアジトの全容解明に
向かっていったそして、
「調書は明日必ず出向く。
私にはまだ私なりにここを、
兎の謎を調べないと
いけないと思っている。
許可を出してくれないか?」
「うむ。分かった、
何かあったら必ず話してくれるよな?
もちろん許可するが、
これは付けてもらう」
私は予備のガスマスクを貰い装着していた。
つづく
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