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「レッド・フード:蜜の狼」  作者: 猫夢アトニマス
第一章:蜜の味

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第一章:蜜の味2

蜜を求め彷徨う狼女の物語

 暫くして事件はまた起こった。

手前側の拠点近くの街道で行商人が襲われ、

幌馬車は半壊し雑多な物資は散乱。

馬は生きていて、

金の入った金庫も、

金目の物はそのまま。

明らかに物取り強盗の類ではなく、

争った痕はあって血痕も確認されたが

大量では無かったため、

犯人の目的は人さらい。

今はこの行商人の人数を照合中で、

消えた人数は不明だが、

どこへさらったのか?

逃走経路は?

だが肝心な事は、

『ありゃ。

 喰われてない…

 私が思っていたのと違う犯人だね…

 やっぱ無駄骨か…

 トホホだよ』

 がっかりしてる私だった。


「今日は2拠点合同で森に捜索へ入る。

 これ以上犯人を野放しにするのは、

 警ら課の威信にかかり、

 我が国の評判も下がれば、

 あらゆる場所に、

 悪童がのさばる兆候と成り得る!

 緻密な捜査が犯人を追い詰める。

 今まで以上に気を引き締めて欲しい。

 以上!」

 隊長の号令で探索は開始され、

朝の早い時間、

季節は冬になりかけ、

白い息が皆の前に立ち上り、

雑木林を横一列に総勢30数名が

ゆっくりと歩き出し、

物的な変化を探す。

犯行現場から足跡は森に続き、

森に逃げたのはすぐ確認出来たが、

中へ入った途端、

踏み荒らされた地面、

立ち折れた植物の痕跡などを探すが、

一切の痕跡は無く、

「また同じだ…」

 誰かが呟くと、

「空飛べるんだろ?」

「やっぱ魔物…」

「そうとしか思えんねこれ」

 誰もが呟き、

事件のあらましはこうだ。

現在まで16名が行方知れずになり、

犯行現場は遺留品も最も多い

グーリンの森界隈に点在し、

物取りではない事。

真の目的は定かではないが

人さらい事件として扱われており、

死者は2名。

1名は腕に覚えのある人物で徹底抗戦し、

やむなく殺害されたと推測。

もう1名は城下街まで逃げ延び、

門が見えてくるあたりの藪で、

さらえないと判断されたのか殺害され、

大雨のせいもあり発見は遅れ、

遺体は体を真横一文字に切られ、

胴と下半身の二つになり、

足取りが森に入った途端途切れる事。

よって犯人は森の中に隠れ家があり、

人をさらうのに1人では難しいと、

複数犯の犯行だと仮定されている。


 探索が始まり夕刻、

月明かりも通らず闇深くなるばかりの森。

ここまでかと、

朝からぶっ通しの探索は一旦中断され、

宿舎として設営されたテントに皆、

ゾロゾロ戻り夕飯。

夜飯くらいがっつり食えるかと思ったら、

朝の残り物だけで終わり、

明日からはまともな炊き出しが出るとは

言われていたが、

それまで持ちそうにない

不満顔な新人1人は、

そっと野営地を出ようとし、

誰にも見られてないと思ったようだが、

「おい!」

 たまたま通った私に見つけられ、

「くぅ見つかったか…おい、

 知ってるか?

 この森、夜兎の生息地。

 今どきは仔も居て美味いぞ?

 深夜から明け方にかけて寝てるから

 俺ならいとも簡単に捕れる。

 たくさん持って帰れば、

 許してもらえるんじゃないか?」

「うわぁああ…そ、そうなのかぁ」

ジュルジュル

 口から涎が垂れ、

足は勝手にそいつの後を付いて行った。

「名前は?」

「モートル・コノン」

「私はレッド。

 レッド・フード。お前猟師か?」

 名前にまた笑われると思ったが

こいつは笑わず、

松明に火を付け地面を照らす。

「あぁそうだ。

 この森の事なら隅から隅まで知ってる。

 敵討ちで志願した」

「そうか?すまないことを聞いた…

 14人のほうか?それとも後のふたり?」

「真っ二つの方」

「そうか…冥福を祈るよ」

「あぁありがと」

 彼はそう言うと松明をもう2本こさえ、

1本を平坦な地面に突き刺し火を付け、

もう1本を私に渡し、

適当に大きな石を拾い、

突き立てた松明の傍に配置した。

「今居るここを起点にして、

 この石の尖ってるほうが野営地。

 何かあったらこの方角を辿れ。

 で、火が消えるのを防いで欲しい。

 俺はこの火を目印に動く」

「私は留守番要員?」

「ド素人に教える時間はないよ」

「あぁうん。

 そういう事なら問題なし。

 なんか他に道具とかは?」

「これよ、これがあれば充分。

 これで捕まえた兎の耳に穴開けて

 腰にぶら下げて帰る」

 そう言って見せてくれた物が

ぶっとい針と細縄。

「用意いいな。で、

 お前は犯人のアジトに

 思い当たる節はないのか?」

「隊長にも聞かれた。

 ずっとここへ通っているが、

 変な事など皆無なんだ。

 そんな大人数の居られるアジト。

 いや生きてるかどうかも分からんが…」

 そして彼は知った森の更に奥へ

踏み込んで行った。


「この森を知り尽くしてる奴が

 変化は無いと見ている。

 やはり魔法使い?

 そんな者が居ればだが…

 いや違う!

 ふたりの死因がそれとは真逆の行為であの世。

 剣を奮われあの世行き。

 体を真っ二つなど人の所業では無い、

 だから化け物…

 これはひょっとするとひょっとするぞ。

 私と同様の別種の可能性が!!」

 そうだと確信した私は思わず立ち上がり、

「どんな奴なんだ~

 楽しみ過ぎる~

 さっさと出てこーい!

 わはははははははははははははは」

 唐突に笑ってしまい

ハッとして口を閉じると、

火の弾ける音と、

静寂だけが広がっていた。


 回り道のつもりが近道に、

 道の先は赤く染まる獣道けものみち

 だがまだ蜜の味知らずの赤ずきん、

 熱いたぎり求め闇歩き。


 一時間は過ぎただろう。

そろそろ帰ってくるかなと薪を拾い火を焚べ、

じっと待っていると急に風が揺らぎ、

私は身構え腰に手を伸ばしたが、

武器は仕事が終わるとそのつど

宿舎の武器庫に返す事となっており、

ここに武器は無い。

瞬時に狼に変身しかけていたが、

制服は脱がないとボロボロに裂ける。

裂けた制服の言い訳?

『化け物に襲われたでいいんじゃ?

 いや待て、そこの何者かを見定めなければ…

 もし万が一味方なら…』

 まんじりとも出来ない私。

そこに何者かが居てこっちを伺っているのは確かだ。

風は残念ながらあちらに有利。

匂いすら分からず、

ドシャッ!

 燃えている木々をはたきそこへ放つと、

火はほんの少し辺りを照らし、

地面に落ち私はその瞬間、

背後の木の幹に飛んだ。

火の粉が舞い、

ちらつく火の残りカスで、

地面に薄っすらと火の痕を残した。

私は目だけを狼の目にし、

闇を見渡す。

変身すると夜目が効き辺りは

夕暮れのような薄暗いが

しっかりと見える風景になる。

『どこだ!驚いて逃げた?』

ガサササササササ!

 木々が揺れ木の葉が舞う。

「うわぁーーー」

 そいつは事もあろうに、

私よりも高い位置から垂直に

体当たりを仕掛けてきて、

『ぐぁああああああああ!

 そうか森に痕跡が無いのはその強靭な脚力!

 跳躍で飛び回ってるからか~!!』

 地面に叩き付けられ、

土にめり込みながらもあらが

必死で反転攻勢に出ようとしたが、

『くそくそくそぉおお!』

 そのまま焚き火痕へズブズブと押し込められ、

多少の火傷と、

徐々に息が出来なくなり

意識は遠のいていったが、

すぐに真下の空間に出て、

「はぁはぁはぁはぁはぁ」

 また息を実感出来るとすぐに、

ドッスン!

 次の地べたへ叩きつけられ、

背中に乗る大きなそれは多分、

巨大蛙だと思われた。

なぜならさっきからずっと

長い舌で私の顔をペロペロ舐め、

「なぁ喰っていいか?

 ゲロゲロゲロ

 喰っていいよな?

 ゲロゲロゲロロ

 喰いたい!

 ゲロゲロン

 喰いたい!

 ゲロッパゲロゲロ

 腹減った~」

 馬鹿みたいに同じ事を言い続けていて、

体に触れてる部分が粘着質で粘液がべっとり、

「お前は狼か?」

 その時、

もう一人の誰かが私の顎を上げていた。

「狼?何の事だ」

 まだまだ抗う私に蛙は

短い垂直ジャンプで、

体当たりをカマしてきて、

「ぐぇーっ!」

 痛みに腹を抑える私に、

その長い舌を腰に巻き付けられ

恐ろしい力で締め付けていく。

「ぐがあああああぁあああああ

 (これか、これが人体真っ二つの理由…)」

 あまりの痛みに呻くしか無い私。

「狼だろ?まぁ何でもいいけど…な」

 顎から手は離れ、

地面にまたこすられる私の美顔。

「まさかこんな簡単に掛かるとは

 思っても見なかったから、

 びっくりだよ。

 お前も化け物なんだって?

 狼女!

 かっこいいなー

 俺もこいつ喰ったら

 狼の力が手にはいるんですか?」

「ぉ…お前手下だったのか」

 顔は動かせなかったが、

さっきまで一緒にいたモートルがそこに居た。

「うんうん。そう言うこと」

「敵討ちも嘘…」

「そのとーり!

 正しくは嫌な奴を殺して貰って、

 それと引き換えに、

 王宮の動向をスパイしてる。

 このお方のシモベになれば、

 兎魔神様の庇護のもと楽に暮らせる」

 モートルが言うと、

「兎魔神?!

 顎に触ったのがボスか?」

「そのようだよ狼女」

 兎が話し、

「あんた人間如きと本気で手を組む気なのか?

 私はそんじょそこらの化け物と違い、

 頭脳明晰しかもかなり強いぞ?」

「何を言い出すこの野郎!

 俺は王宮の情報を伝える立派な役目がある。

 ですよね兎魔神様!」

 懇願するようにボスを見る男に、

「安心しろ。ふふふっ」

 にやり微笑む魔神様。

「強い?話の腰を折ったなすまない。

 ほほぅ強いんだ。そうなのか?

 男爵に今にも二つにへし折られそうだぞ?

 向うっ気だけは認める」

 兎魔神は答え、

 「うーむ…あぁそうだ!」

 私は答えに窮し、

「何が何でも殺すと言うなら

 その前に一つだけ教えろ。

 なぜ私が狼だと気づいた?」

 真剣な眼差しで、

本当に分からない事は聞くしか無い!

と思っている私。 

「あぁん?

 なんだお前…は、

 鼻が詰まってるのか?

 ちょっと狼に変身してみろ。

 おっと鼻だけだぞ?

 まさか出来ない事はないだろうなぁ

 男爵気を抜くなよ?

 狼は確かに強い。

 それは真実。

 クックックく」

「ゲロゲロゲロゲロ了解」

「ぐぅぅうう」

 締まっていく体に呻くしかない私は、

鼻を狼にすると。

「うわっぁあああああ~

 臭い臭いくっせ~~~

 なんだこの匂い!!

 鼻がもげて無くなるぅううう」

 魔物の匂いは相当だった。

「お前は人の皮被ってるから

 分からなかったんだろ?」

 半分は当たっているが、

半分は外れで、

人間のままだと能力が半減する事も、

改めて気づかされていた。

「狼女のまま生きたいとは思わないのか?

 魔物のままに人を喰らい生きる。

 それがあるべき姿だろぅ?

 私の思想に賛同しないか?

 魔物だけの国を作る礎にならないか?

 人間なんか山のように居る。

 養殖して餌にするんだ」

「そうか…

 16人はその養殖要員…

 生きてるのか」

「察しが早い。

 情熱の妙薬を餌に定期的に

 混ぜてるから、

 逃げる事もなく、

 すること一つで

 放し飼いにしてある。 

 目は真っ赤に、

 うひゃははははは~だ。

 見せてやろうな?」

「ぉおまえ…

 養殖と言うくらいだ、

 孕ませて増やす気なんだな!」

「男爵連れて来い!」

「うがあああああ」

 男爵の舌に巻かれたまま持ち上げられ、

連れて行かれると、

やっと兎の全身が見え、

筋肉隆々の体に頭が兎で、

兎とは程遠い鋭利な牙が

ずらっと並びギラつき

かなり凶悪な顔立ちをしていた。

「聞きたいことはまだある。

質問いいか?」

「いいぞ」

「兎魔神って言うくらいだから、

 元は兎なのか?」

「そうだ」

「なぜあんなか弱い兎から、

 極悪な魔神に?」

「分からん」

「分からないのかよ?!」

「そう言うお前の出自は

 ハッキリしてるのか?

 なぜ狼に?」

「………んんんんん~分からん。

 だからそれ追求しようとしたら

 棚ぼたで、

 お前たちと出会ってしまった。

 運が良いのか悪いのか…

 下手すると殺される状況にあるらしい」

「そうか?

 運は良いと思えるぞ?

 俺の意思に賛同するならだが」

「私らみたいな魔物は

 まだまだ他にも居るのか?」

「居るぞ?居るはずだ。

 私はお前を匂いで嗅ぎ分け罠に嵌め、

 お前は別の同類の私たち2匹と一気に出会った。

 これは大いなる運命。

 闇の歯車が動き出し、

 人の世を、

 未来を揺るがす

 大いなる伏線になっているはずだと、

 私は感じている」

「大いなる何か…

 何が動き出してるんだ?」

「それは魔物の王国が出来る事に相違ないはず。

 私も目覚めたのは3年ほど前だからな。

 運命に身を任せている」

「なななんだって…

 目覚めたってなんだ?

 ここでずっと寝てたのか?

 男爵と一緒に?」

「本来ここは男爵の王国。

 それを俺が倒し、

 能力を頂いたで、

 男爵とはただの語呂合わせで

 本物の子爵ではない」

「おぉおおおお前を喰えば、

 お前のその魔力が手に入るのか?

 いてぇええええええ!

 やめろ~~~~」

 すると男爵に左右の壁にガンガンぶつけられ

目から火花が飛び散った。

「ハァハァハァ

 冗談だよ冗談。

 喰いませんよ?

 そんな事今は

 出来るわけないじゃないですか

 男爵ちゃんもぅすこーし舌、

 緩めて欲しいなぁ。

 ハハハ」

「お前も最近生まれた口だろ?

 何も感じなかったのか大いなる歯車を、

 大いなる意思を…

 狼はもっと頭が良いと思っていたが、

 愚鈍か」

 兎は結局喰うと能力が移るには答えず、

養殖場につくと、

だだっぴろいただの豚小屋。

トイレも風呂場も大きな食卓も

寝床まであったが、

間仕切りなどは無く全部が丸見え。

人間たちは妙薬とやらで骨抜きにされ、

真っ赤な目の半数以上居る男たちは、

半数以下の真っ赤な目の女に群がっており、

2名の女は乳飲み子に乳を与え、

ここは本物の人間養殖場で、

「あれも喰うのか?」

 尋ねると、

「いや今はまだ喰わない。

 養殖場をもっとたくさん作らねば、

 まだまだ食用には遠い。

 どうだ手伝わないか?

 人をたぶらかしてここに、

 連れて来て欲しいのだ。

 この森の地下には、

 もっと長いトンネルがあちこちの

 街近辺まで伸びてる。

 人間には見つからない扉でね。

 狼人間は人たらしなのだろう?

 しかもお前は好都合な美しい女。

 言葉巧みに誘惑して今まで喰らって、

 生きて来たんだろう?

 オスでもメスでもガブリ。

 ふはははははは」

 笑うたび尖った歯がギラツキ、

凶悪な顔が変態的に歪み、

醜悪さマックス。

『オェエエエエ~』

 今にも吐きそうなその顔。

そろそろかなと、

まず男爵を蹴散らそうとした時、

「あれあれあれぇ…」

 舌は外れ地面にポンと降ろされ

男爵は消え、

床に小さな蛙がのそのそと蠢いていた。

するとモートルがすかさず拾い上げ、

蛙だらけの池に放り込んでいた。

「魔力が切れただけだ。

 蛙は何人もの人間を簡単に運べるから

 お前にも好きなだけ分けてやる」

「私はまだ手伝うとは言ってないんだが、

 そろそろお前を喰うつもりなんだが」

「いいぞ?」

「いいのか?

 じゃー遠慮なく頂きまーすぅ…

 うぅうぅうううううううう

 (あれぇ…)」

 襲おうとしたがどうにも体がおかしく、

ぶちのめせなくなっていて、

「分かったか?

 お前にも妙薬を仕込んだ。

 魔物用として作ったが、

 使い勝手は分からない使うのはお前が

 初めてだから…な。

 お前も豚小屋の人間と同じで、

 私に操られる歯車になるのだ。

 この薬は麻薬と同じ、

 習慣ずくと手放せなくなる。

 ぎゃはははははははははは」

 むかつく高笑いのまま奴は、

私の頭を押さえ足元にひざまずかせ、

地面にめり込ませ、

「ブヒッブヒッ…ブヒヒヒヒブゥ~」

 人としての声が豚声に、

『ぐわぁああああしてやられた。

 こいつやっぱ凄いのか?

 この薬いつまで効くんだ。

 いつ盛られた?!

 あぁ顎持たれた時かぁあああ

 くっそぉおおおおおおおおお

 私のばかぁん』

 出会った時から負け試合だった。


 豚小屋の一角にある

禁錮室に押し込まれ、

悪さ出来ないよう鎖で手足を囚われ、

これから毎日妙薬まみれの日々が続くと

雑用係のモートルは言い、

ボスが見てない事を確認すると、

「ぐへへへへへへ。

 見れば見るほど良い女だなぁ。

 本当に狼人間なのかよ。

 突っ込めば分かるか?」

 すぐにその行為に移ろうとしたが、

「ギャッ!」

 何かにぶっ飛ばされ尻もちを付き

ポカンとしたいた。

それもそのはず、

私は四肢を拘束され身動けないのだ。

「なんだこの野郎。

 今何しやがった?!

 今度こそ、

 ぐちゃぐちゃにしてやる!」

 懲りずに襲ってくるバカ。

だが何度やっても何かにぶたれ

すっ飛んで体を嫌と言うほど壁にぶつけ

頭から血を流し、

体中に痣が浮かんできている。

「グワァアアアアア!

 頭に来た!

 お前魔法使うのかーくっそー」

 そう言うと馬鹿はナイフを取り出し、

 「これでどうだ?

 今度なんかしたら刺す!

 …大人しくやられろ」

 尖り物で脅してきたが、

ナイフはいきなり取られ

馬鹿の顔に向けられている。

「あぁあああああああ。

 嘘だろぉおぉ…」

「馬鹿め死ぬのはお前だ!」

 私はニヤつき真実を見せる。

馬鹿をぶっ飛ばしていたのは尻尾。

私の尾。

奪ったナイフを尻尾で掴み、

振り回し切り刻んでいく。

「やややややめろー」

 馬鹿は逃げたが騒ぎに兎が来て、

何かを嗅がせられ私の意思萎えていく。

そして兎は、

血まみれのモートルを引きずり、

「人間如きが我々に手を出すな!!」

 首根っこを押さえつけられ宙に浮かぶモートル。

「ずびばぜーーーーんギャアアアアア!!!」

 そして切られ、

鮮血が飛び散る床に玉が転がり、

「ゲロゲロゲロゲロ」

そこへ別の蛙男爵が二匹やって来て、

泣き喚く口も、

痛みに転がる体も舌で

グルグル巻きに拘束する一匹。

もう一匹は器用に傷口を縫合し、

消毒だと信じたいが、

ベロベロ舐めていた。

「しっかりスパイに励めよ?」

 兎は彼の顎を掴み口を開かせ、

舌先に小さな薬剤を乗せ

顎を閉じ、

モートルはそれをごくりのみ干し、

すぐに悦楽の表情で、

「あぁ~はいぃ」

 と答え、

そして赤ずきんの傍らへ戻り、

「おいおいお前。

 まだそんな余力が残ってたのか…

 やはりここは3段階の処置をしないと

 ダメそうだ」

 兎は赤ずきんの真っ赤になった目を覗き込み、

何やら呪文を唱えると、

小さな蛙を取り出し、

首の真後ろに貼り付けていた。


 そして今日はモータルのうっかりで、

締め忘れの檻のドアから

女に侵入され、

赤ん坊を抱いたその女が私を

まじまじと見て、

乱れ髪を整えてくれたが、

抱えられている赤子が

「ダァダァ」

 私の鼻に触れた途端、

ーーーーーーーーーー

 それは水の中。

濁流に飲まれているが、

誰かの華奢な腕に抱かれている。

そして寝かされあやされ、

目の前が真っ赤になり意識は途絶える。

ーーーーーーーーーー

 漠然としているが、

『生まれたての記憶?』

 過去の記憶が蘇っていた。


 意識はぼんやりとし、

魔神の命令が頭のあちこちで跳ね返り

木霊になっている。

私はこれから蛙男爵4匹と共に

トンネルへ潜り、

街道沿いの特に健康な若い奴ら、

男女問わず

出来れば均等にさらわなければならず、

街道に人が居なければ

街に押入れと

強行な指示もあり、

心の隅で拒否しても

体は言うことを効かない。

『薬がもらえなくなると困る。

 達成しなくては…』

 これを頭で繰り返すまでに堕ちていて、

蛙はトンネルで待機させ、

街道へ出て人を物色していると掲示板を発見。

つらつら見るとたくさんの尋ね人、

行方不明者のチラシの中に、

「ん?」

 自分の上手く描けてる

似顔絵を見つけていた。

捜索人は女医のようだったが、

『んんんん~??

 なんでこいつが私を探すんだぁ?

 知り合い?

 どっかで会ってるんかな…

 何も思い出せない…

 まぁいい。

 今は命令が最優先…

 薬が最優先』


 人目につかぬよう素早く

街道沿いの木々、

藪を使い目的に合いそうな人々を物色してると、

複数台で進む幌馬車隊が見え、

どこかの街へ移住するつもりなのか、

家財道具が揺れ、

最前列と最後尾だけ警護人に

守られていたが、

『手薄なのは中程の馬車だな』

 近くまで忍び

目的に合う男女を探すと、

目に飛び込んできた若い女。

『居た…まずはこれと…

 おっ?男も居る…』

 私はすかさず最後尾の車両近くの藪に駆け、

車輪の一つを狼の腕で破壊し、

馬車はバランスを崩し半壊。

皆は大慌て。

一番前の警護人も背後へ急ぎ、

その隙にさらう。

完璧。

頭は薬漬けだったが、

身体能力には支障がなく、

むしろ薬のせいで何から何までが

天才的。

キレッキレに動き回れている。

待機させていた蛙を一匹召喚し、

すぐにアジトへ連れて行かせる。

ぞろぞろ降りてきた連中の中に

まださらえるのが居ないか

じっくり観察すると、

「怪我はー?

 皆無事かー?!

 松明を炊いて皆、点呼宜しく!

 なぜこんな平坦な道で事故が起こる」

『ん?こいつの声聞き覚えがあるぞ』

 背中しか見えないその女に注視した。

「クソォ…まったくの想定外。

 新品の車輪がいきなり壊れるなんて、

 チェックを怠った事は無いんだが…

 すまない」

「だが起こる時には起こる。

 仕方ないね。

 ここで野営か?」

 横顔が今ちらっと見えたが、

『誰?!』

 やはりよく分からなかった。

「街へ戻り馬車職人を呼ぶしか無いな。

 やれやれだ。先が思いやられる」

「腐るな。長旅だゆっくり行こう」

「怪我人も無く、荷にも損壊は無いな。

 凶を吉に変えるつもりで、

 ちょっと早いが豪華な酒盛りで邪を祓うか」

「準備だ準備!

 家族みんなで食事の用意~

 兵隊も、おまわりも、百姓も、

 あきんども、物乞いも、猫も、犬も

 腹が空いたら飯を喰う~♫」

 爺さんが歌い始めると皆一斉に歌い始め、

道からずれた場所で、

野営の準備が始まりそして、

「あぁあああああああんた~~~~

 娘が息子が消えたぁああああああ!!」

 中年女の叫び声。

警護人たちの顔から血の気が引くのを

私は見ていた。

「なんだって…嘘だろ。

 もしかしてこの事故!」

 女は壊れた車輪に走り、

松明でじっくり観察すると、

「おぃおぃおぃ!

 こんな新しい部材がこんな壊れ方する訳ない!

 これは事故じゃない。

 誰かが意図的に壊した…。

 人さらいだーが出たぞー!!

 警護人目を光らせろ!

 みんな1人になるなよ?

 必ずひとかたまりで手を繋ぎ合え!」

 幌馬車隊の面々はおののき、

すぐに大きな団子、

塊になると寝れない事を覚悟した。

「人さらいの奴ら

 相当に訓練されてる。

 もしかすると敵対国の

 特殊部隊かもしれん…

 こんな時、

 お前いったいどこに居るんだ!

 赤ずきん~~!!」

 女が叫ぶと、

『赤ずきん?』

 私はその名に強く反応していた。

「お前は食い物なのか?

 外套なのか?

 どっちにしろひでー名前」

「あんたそれ名前じゃないよ

 笑かそうとしてる?」

「ぎゃははははは。

 止めてくれ~

 腹よじれるぅうううう」

「名付け親の顔が見たいね。

 え?天涯孤独なのかい…

 あらまぁごめんね…

 いい名前だよ?うんうん」

「あたしの名はマブルで給餌係。

 あんた名前は?

 え?なんて………

 えぇえええそれ名前なの?!

 面白すぎる」

 名前に関する記憶が、

断片的にフラッシュバックしてゆく。

「改名しろ。

 そんなの名前じゃないぞ?

 私が命名してやろう。

 アナシャ。

 ルーン。

 ザカナン。

 チル。

 リルミ。

 ノーラ

 エメラルド。

 ダイヤモンド。

 オブシッド。 

 好きなのあったか?」

「んんんん…

 名前ってそんなに重要なのか、

 ただの判別のための呼び名じゃないのか?」

「うん?そうね確かに。

 でもな~レッド・フードちゃん。

 赤ずきんって、

 それただの子供の頃のあだ名だぞ?

 普通は親が一生懸命考えてくれる

 ものなんだよ?

 傷をえぐるようでスマンけど」

「でもさー

 同じ名前の奴が薬もらいに来たら

 面倒だろ?

 どっちに渡すか聞くという手間が掛かる。

 その点この名は強烈だ。

 誰も間違わない、

 大体みんな驚くし笑ってくれる。

 あんたもそうだったよな。

 はははははは」

「あぁそうか、

 そうだったのか~スマン。

 気に入ってるんだね?

 これは申し訳なかった。

 正式に謝罪する。

 酒と煙草でチャラでどうだ?」

 ぼやける記憶の誰かがそれを

勧めてきている。

『私は…私は…

 なんて答えた…分からない』

 頭がズキズキうづき、

『やばいな何も出来なくなる』

 これ以上の監視はやめ、

トンネルへ戻ろうとしたが、

もう一度女の顔をまともに

見られないか振り向くと、

女はこっちを見ていて、

気付かれる事は無かったが、

私はその顔を目に焼き付けた。


つづく

読んでくれてありがとう。

応援などよろしくお願いします。

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