第一章:蜜の味4
蜜を求め彷徨う狼女の物語
兎の言う大いなる歯車。
それが本当の事なのか知る必要があると、
兎の部屋、
そこに謎のヒントがあると踏み、
向かいたかったが
分かる訳がなく、
当て所無く彷徨うのは
時間がかかり過ぎ、
脂ぎった体を臭うと、
「臭っ!
体をキレイにしたい。
風呂はいりたい。
ベトベトで気持ち悪っ。
このボロ服、
ダニいないか~
なんか痒い」
ボリボリあちこち搔きだすと
止まらず、
首の後から、
「さっき昇った所だ」
声がし、
「うわっ!」
「ほら行くぞ」
「だ、男爵ぅ?
生きてたのかー!」
「わしはたくさんいるからな。
群れで一つのわしなんだよ。
生まれ変わる以前に、
代わりが居れば男爵になれーる」
「べ、便利すぎ…
で、あんたは兎の事を、
どこまで知ってるんだ?」
「何も知らない」
「ぐぬぅ…じぁあ、
あの薬はそもそもなんなんだ?」
「わしの毒」
「うわ…まじですか。
しかしあんたほどの力の使い手が、
兎にしてやられたとはね」
「そうなんじゃ…わしも、
お前がやられたのと同じで、
奴の大得意の催眠術にかかった。
そしてわしの毒をさらに精製して、
魔の薬に仕上げ、
わしですら夢心地。
奴は魔物は魔物でも、
頭脳が飛び抜けた化け物だったと思う」
「兎はいったいどうやってその頭脳を?」
「死にかけ種族の話を
聞いた事あるか?
そいつらなんとかして命を繋ごうと、
あらゆる魔物を喰いまくり、
交配に交配も重ねているらしい。
それが一番初めの歯車かもと
想像しておるゲロ」
「それが兎を作った??
死にかけの種族はどういう奴らなんだ?」
「蝙蝠族。
主に血を吸い相手を虜にし、
使役として使うとか。
肉を喰ったりはしない奴ら」
「肉を喰わない?
もったいない奴らだ。
だがなんとなく兎の力と似てるなぁ」
そうして赤ずきんは、
兎部屋の隅々まで家探しすると、
鍵のかかった手提げ金庫を見つけ、
開けようとしたが開かず、
「くっそーこじ開けてやる!」
壁に投げたり、
叩き落としたりしたが、
どうにも開かず、
「人間様の力を
借りるしかないのかこれ」
がっかりしてると、
棚に薬剤の調合ノートを発見してしまい、
毒を中和する方法もあるのではと、
すごいお宝だと喜んだが、
あからさまに棚に、
置かれている事に、
「誰も来ないと慢心してる?
普通ならこれも金庫にしまうだろ?
この金庫…
いったい何が…
くっそぉおおおおおお」
収まりが付かなくなり、
「鍵をさがすぞ男爵!」
「ケロンッ」
もう一度部屋を精査する赤ずきんと蛙。
前と後の目でくまなく
隅から隅まで探したが、
見つけられず。
「あ!あぁああああああああ!」
「ケッロケッロケロケロケー!」
ふたりしてある事に気づき
大慌てで、
洗面所へ走った。
普通鍵の置き場と言えば…
肌身離さずの場合も。
「おぇええええええええ
ぐぇえええええええええ
ぐがががががががが~」
上半身裸で、
ズボン履きの兎を喰った赤ずきん。
服から何から、
鍵まで喰ったかもと、
水をガブガブ飲みまくり、
喉に手を突っ込んでは必死に吐き、
吐きまくり、
カラン
遂に小さな鍵を手に入れた。
「ぐぅううううう…
胃が痛い」
「しかしこれでやっと」
蛙は言い、
「おぅ!何が出るかな?!」
ガチャリ
鍵を回すと上蓋は開きそこに、
「あぁ…なんだこれ」
それは平たい素焼きの粘土板に、
文字のような物が朱色で書かれ、
「むぅうう。
これ血文字?
でも読めない…読んで下さい」
蛙は託され、
「これは蝙蝠族の使う文字かもしれん。
読めないが盟約の証…
かなり重要な物だと推察する」
「盟約?!
兎と誰かの硬い約束。
兎の野望は人間養殖場…
そこに君臨する自分たち。
この板は賛同した誰かの、
暗号、名前、誓約書、
なんらかの鍵…
ゴクリ」
今度は赤ずきんの喉が鳴っていた。
「先生!隊長!すごいお宝発見です!」
赤ずきんは階下へ戻り、
ふたりと合流すると、
さきほどのノートを隊長に差し出し、
スケッチも済んだ先生と拠点へ戻る事にした。
「私が護衛してあげたいが、
部下を同行させる。
では明日また拠点で、
忘れるなよ?」
隊長に別れを告げ、
戻るためにトンネルを使い、
部下に通路の角々に記しを付けさせ進む。
これで一つ雨風とは無縁な
道が完成し、
拠点に着くと速攻熱い風呂に入り、
清潔な服をと頼んだら、
先生が持ってきたのはメイド服、
「うぇえええこんなの着れない!」
「文句言うな可愛いぞ?」
拒否しようもなく、
初めてのスカートに落ち着かず、
なぜこの拠点に居るんだと聞くと、
移住組の幌馬車隊に感染症患者が出て、
駆り出されたと教えてくれた。
それで良かったんだ。
本当に。
そして、
赤子の様子を見に女宿舎に向かう途中、
私がさらってしまった子どもたちと
再開して泣き濡れる両親に、
『すまなかった』
遠くから頭を垂れ、
宿舎でおばちゃん連中にあやされ、
ごそごそ動いてるチビたちに安堵。
ふたりを抱かせてもらうと、
『子らの首の後ろには
まだあれがへばり付き、
ただ人間には判別できない、
擬態した小さな雨蛙。
『馬鹿!
まだ取り憑いてる気なのかー
外せよこれ~』
『あぁああああん?!
わしは馬鹿じゃないぞ?
それは衛生パッチみたいな物だし。
赤子にはかなり強力に働くぞ?
当分有効で、
効果が切れたら勝手に消える』
『そ、そうなんですかそう言う事なら一言、
言って下さいよ男爵~
ありがとう』
『フフンッ!ゲロゲロゲロ』
男爵は相変わらず首の後ろにへばり付き、
爆発したのになぜ生きてるかは、
代わりが居たからだねと言うと、
「いや死んだよ?
わしはぶっ飛んで死んだ。
代わりも居なかった…
だが魔物は肉片の一つからでも復活出来る。
ここからよーく聞けよこれには
続きがあるゲロン。
再生の可能性は、
個々の能力次第と言う事。
駄目な時は駄目なのだ
覚えておけよ?」
「あぁあああ嘘だろ!」
私は焦って隊長を探すと、
さらし首にしていた兎の首が、
消えたと皆ざわついており、
鳥が咥えて持って行ったのだと、
一件落着していたが、
「い、今から調書取れるか?」
やっと見つけた隊長に、
「お?いいぞ、早いほうがありがたい」
彼のテントに入り面と向かい、
「魔物はその肉一片からでも復活する。
可能性があるらしい、
すまない。
私も知らなかったんだ…」
開口一番話し、
「嘘だろ……
ど、どうやってそれが分かった」
「わたしもさらわれたんだ…
あのモートルに騙されて」
今回の件のみの全容を、
適度に端折りながら話しはじめた。
「大いなる物が動き始め、
兎魔神も歯車の一つ、
それが次々に次の魔物、
歯車を回し、
それはまた次の魔物を…
やがて歯車は…
兎の出現は3年前。
蛙はかれこれ300年はあの森で
生きてるそうだ」
「そ、そんな事が…ぬぅ。
こんな事私個人の範疇では…」
動揺を隠せない隊長は、
荷が重過ぎると嘆き、
「お前とも今後も関係を密にしたいが、
出て行くのか?
あの事件を追って。
それはお前の何を突き動かしている?」
「言わない」
「…言えないのではなく?」
「そう。
早々に旅立つ、
このサーベル貰っていいか?
いいよな?」
2本持っていった内の1本。
「あぁそんな物なら問題なしだ。
あとな報奨金があって、
事件解決に尽力した特にお前に、
ここに用意してある。
少なくはない受け取れ」
「金か~金はなんとかなるんだ。
寄付するよ」
「そ、そうかーそれはありがたい。
いろいろこちらも予算が厳しくてな。
ハハハ」
隊長は金の袋をすっと
下げようとしたが、
「あ。でも入り用な物があった。
ありがたく貰っておく!」
「ぁ!」
赤ずきんにすっと取られてしまい、
隊長の複雑な顔。
「それでスパイ君はどうなった?」
「あいつからは何も聞き出せなかった。
何もかも要領を得ずで、
尋問中後頭部が破裂して
死んだ」
「そうなのか。
そうか、まぁどうでもいい」
次の日の朝から私は、
メイド服のまま、
街へ出て旅支度。
頑丈な高級ブーツ。
皮製のしなやかな鎧。
背負い袋。
寝袋にテント。
コップに皿にフォークに、
その他衣料品と
清潔な白帯。
頭巾付きの外套で
真っ赤を探したが、
赤いのは儀礼用でぺらっぺら。
他のは子供向けで無理。
探しまくっていたら店主が
奥から出してきた。
「上級民御用達ですよ?いかが」
黒に近い紅色した外套、
値段もそこそこしたが、
「これくれ!」
貰った金は全部消え、
そのまま大急ぎで医院に戻り掃除開始。
変化自在な男爵は人の大きさの
ほぼ人に化け、
テカってでこぼこした皮膚。
めちゃくちゃキモく、
「男爵様。
あのもうちょっと人の様な容姿に
成れたり出来ません?」
「ん?じゃー誰か思い描け」
「あ?うん」
するとグニョグニョに変化し始め、
「これでいいか?」
「おわっ!
そ、そんな事が出来るんだ?!
凄すぎる…」
そっくりな人の出現にビビったが、
「尊敬していいぞ?
もっとわしを崇めろゲロ」
なんと蛙は先生に化け、
ふたりで一日潰して医院はピカピカ。
「女医さん驚いてまた泣くかな?」
「わしは泣かんぞ?」
「あなたじゃないです」
「ゲロゲロ…
それよりお前この人の事を
母親だと思っておるな?
ハグしてやろうか?」
「結構です」
「遠慮すんな
娘よーお母さんだぞー」
追い回され、
「ヤメロー」
すっ飛んで
自分の部屋に立てこもり、
手紙をしたためる。
ーーーーーーーーーー
あなたとはもう会えない。
騙して悪かったが、
私はあなが思う通りの何か。
あなたには決して言えない事もした。
だけど私はあなたが大好きだ。
信じなくていい。
それが全てで良い。
こそりと、
あなたや子供の様子を
見に戻るかも。
玄関からとは言えないが、
私はあの事件を追い旅に出る。
別れも言えない、
微かにある良心の呵責。
目から水滴を流したくない。
初めてのハガキを遠くから送るよ。
切手を舐めてポストに投函。
まるで人のよう。
行き先はあの事件の地域で、
3箇所の宛がある。
私はとても強いから、
きっと無事に生きてる。
生きてる事に意味など
求めてもない。
でも
教えてくれたような、
蜜を知りたい。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
さようなら。
煙草も酒も控えて
何より無事に、
何より元気で!
お母さんの先生へ、
赤ずきんちゃん。より
ーーーーーーーーーー
メイド服はきちんとたたみ、
その上に手紙を置き、
自室に鍵を掛け、
自分しか知らない鍵の隠し場所に
鍵を戻す。
心はずっと揺れている。
読んで欲しくない思い。
読んで欲しい思い。
だから隠す。
見つかるのが当分後になるように。
宿に泊まるため医院に鍵をかけ、
「出立は数日掛かるかな?」
私は新聞がどうしても見たかった。
どう記事が構成されたのか
確認しないといけない。
遺体の損壊具合を
正確にきちんと。
それは私から、
犯人へのサイン。
もう一人が気づく事を祈り、
宿で、
「兎は復活したと思うか?」
私は聞く。
「わしも考えてた。
答えは…
その時にならないと分からんな」
蛙は答え、
やる事も無くぽっかり空いた日。
外は快晴だが、
寒さは滲む。
すると鐘の音。
カンカンと大きく響き、
「号外!号外だよ~。
街道沿いの人さらい犯人は、
催眠術使いのお尋ね者だったよー
それを警ら課のオクマ隊長が召し捕ったよー
号外だ~号外だよ~
めでたいから無料~」
新聞売りの大きな声と響く鐘の音。
私は外へ飛び出て走り一部貰い、
しっかりと目を通す。
魔物の事はぼかされ
書かれてなかったが、
頼んだ事は正確に書かれ安堵し、
感謝し、
それならもう宿でくすぶる必要もないと、
「新しいブーツは慣らさないと」
旅装束で門を目指す。
街を眺めながらしばらく歩くと、
「止まれ」
蛙に言われ、
「えぇなんで?」
「変なのが着いてくる。
見てくれ」
「え?!」
言われた通りに、
「何だ?何も居ないぞ」
キョロキョロ目を凝らした。
「足元」
「んー
なななななんだ~?」
「旅の仲間かな」
蛙が言う。
「まさかまさかまさかお前、
あいつじゃないだろうなー?!」
そこに居たのは、
足元でじっとしてるただの野兎。
「しっしっ。
寄るな帰りな。
どこから来たのか知らないが、
旅の仲間になんかなれないし、
お前はただの非常食。
しっしっ」
足蹴にしてたら足を伝って登って来て、
剥がそうとすると、
あちこち体を這い周り、
その場でドタバタ
くるくる回って汗だくの私。
通りすがる人にクスクス笑われ、
子供が数名やって来て、
「要らないなら頂戴」
と言い。
少し考えて私は、
「この兎はな、
本当は世にも恐ろしい兎魔神なるぞ。
子供になど飼える生き物ではな~い!
飼った途端お前らはぁああああ
喰われてしまうぞぉ~
ギャオー
だから上げない!」
脅したつもりが
子どもたちにも笑われ、
チェーッ
舌打ちされ、
「ケーチ。ケーチ。ケチー」
ケチンボ扱いされていた。
「これはきっと兎魔神の本体…
復活して元に戻った?」
「分からんケロ」
「こんなの怖くて誰にも譲れんわ」
仕方なく付いて来るままにしてたら、
リュックの上に、
きれいに収まっていた。
「もしかして魔物倒すたび、
本体の動物とかが付いて来るんです?」
男爵に聞くと、
「いやぁ単純な話、
これも受け継いだ能力だと推測」
「な、なんの能力なんだよ」
「兎可愛いだろ?」
蛙は言い、
「ただの愛玩動物~~~!!」
絶句。
「もし次に猫でも猪でもなんでも良いけど、
そいつら倒したら、
猫とか猪が付いて来る?
小さな巡回動物園になりそうだけど、
結局授かった能力ってこれだけ?
ショック~」
頭を抱える私。
「おいおい何言ってる。
わしも授かった能力なんだぞ?
この大魔道士の蛙男爵様が、
お前に一生取り憑いて離れないのだ!
まるで呪のように」
「そ、そうだったんですか、
失礼しましたでも、
確かにそうなんですよね…
なんでもかんでも見られる…
私はキムスメ!」
「その辺は大丈夫。
わしは人にも狼にも雌に興味ない
あるのは…ケロケロ」
狼の乙女心は複雑怪奇で、
そうして狼と蛙と兎は大門をくぐり
本当の旅へ出ましたとさ。
ーーーーーーーーーーー
夕日で真っ赤な先の道。
振り向いても血濡れ道。
行く先々で血で血を洗う
赤ずきん。
その血に赤く赤く
真紅に染まる
赤ずきん。
間違っても、
ちゃん付けはするな。
付けていいのは、
1人と1人だけ。
私は蜜の狼、
甘く切ない
赤ずきん。
第一章:完
予告*未定*
そして未解決事件の真相を追い、
12年で3回、
4年越しの意味を垣間見る。
それは自分に噴き出す
猛烈な渇き。
それは喰いたいと言う疼き。
次回、
「レッド・フード:密の狼」
第二章
【疼き】にご期待下さい!
読んでもらいありがとう。
面白かったら拡散や応援よろしくね。




