その十
真耶ちゃんを経由して神のご加護を授かる儀式は小半刻続いた。その間アタシたちは待っていたし、子ども達もそれに気づいてるから早々に退散した方がいいのでは? というふうなヒソヒソ話をしているのも見えてる。
でも真耶ちゃんは、
(ごめん、もう少しだけ待ってて!)
とあからさまに書かれたような顔で、こちらをチラチラ見てくるし、アタシたちも強い信仰心をあらわにしている子どもたちを無理に引き離せない。
その熱い「信仰心」を目の当たりにすると、
「ごめん、ほんっとごめん」
と、ようやく解放され、小走りでアタシたちの元にやってきた真耶ちゃんにも、
「気にしないでいいよー」
と言うしかない。
天狼神社の神様はオオカミの化身なので、お金は強く求めない。豊かな自然の中にありたい、そういった存在なのだそうだ。
お賽銭は、すべて災害などの義援金として然るべきところに納められる。だから境内には御守りも、絵馬も、おみくじも見当たらない。
もちろん、ほかの神社が営利目的でそれらを売っているわけでは無いだろうし、それぞれの神様にはそれぞれのやり方があるから、どちらが良い悪い、なんてことはない。
もっとも、山奥のまた奥に、ひっそりと目立たぬように立っている神社をわざわざ訪れる人もそうそう居ないから、何か置いても売れないでしょ? と希和子さんから聞いたこともあるけど。
——
この中央広場は、ヨーロッパのラウンドアバウト(コノハナではランナバウトと呼ぶ)を模して作られ、かつては自動車のロータリーとして機能していた。
今は広場としての機能を重視し、バス以外の車両は進入禁止。村の中心部にコミュニティスペースが出来上がった。
実は、この広場を一周するだけでも観光気分は盛り上がる。というのも、村の主要道路は全てこの広場から放射状に伸びている、言い換えればこの広場に集まっている。だからこの広場こそが村の実質的な中心部であり、この村に多くの人々が住み始めた頃から残る建築物が観光スポットでもある。
「なんか、ゲームの中に入ったみたいですね」
うんサミちゃん、的を射た表現だと思う。
幾田いさみちゃんはかなりのゲーム好きなので、RPGのフィールドとか、異世界アニメの舞台を連想してるんだと思う。そして、このはな村の家並みは、中世ヨーロッパ、特にドイツあたりのそれに似ている。まさに日本のゲームがお手本にしてきた街のつくりとそっくり、いや歴史としてはこっちの方が早い。
これは、村に移り住んだ人々の中にドイツ人のエンジニアが多くいて、彼らが故郷の家を手本に建てたことから村の家屋の基本様式が決まったのだという。
さらに、これらの建物の多くは完成後何十年もの月日を超えた今でも、商店や家屋として現役である。だから買い物がてら中を見学するのも、コノハナ観光のプランのひとつとなる。
女子四人が集まってオシャレなお店の並ぶ通りをブラブラしていれば、時間はあっという間に過ぎてゆく。というわけで、あっという間にランチタイム。もちろんここは村の中心部なだけに、お食事処にも事欠かない。
このはな村は外国にルーツを持つ人が多く住むので、色々な国の料理が味わえる。東京でも世界各国の料理を食べることができるけど、広い首都圏のあちこちに散らばっているのと比べると、とてもコンパクトにまとまっているのが便利。
しかも、どれもこれも安い! ランチメニューの多くが千円未満というかむしろ、四ケタの数字をランチメニューに掲げているところが見当たらない!
このご時世にありながら、六百円台は当たり前。七百円台は贅沢したい時専用。いちばん目立つのはワンコイン、すなわち五百円のランチ。
年末ともなると開いているお店は少なくなってきているけれど、どこに入ってもハズレが無いのは前回来た時で経験済み。開いてるお店のどこに入っても正解のはず。
でもそうなると、かえって迷う。後輩ちゃん達は遠慮して、希望を聞いても何でも良いと答えるだろうし、アタシは何でも美味しいと思うから決め手がない。
したがって、
「真耶ちゃん、おすすめは?」
と、地元民にお任せしてしまうのが正解。
真耶ちゃんは暫し考えたのち、目の前のお店に入った。あとで知ったが「天狼神社の神使さま」という立場があるので、どっかのお店をえこひいきするような振る舞いは避けたいみたいで、悪いことしたなあとも思った(もっともそれは本人の考えすぎで、お店の方はそんなに気にしていないみたい、ということも後から知った)。




