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商売人としてのポリシー

「何があったの?」


ミーシャは俺だけを別室に連れてきた。


「……ごめんなさい」


何か失敗してしまったのか?

確かにミーシャは接客業には向いていなさそうだし、客前に出していたのはまずかったかもな。


「どうしたの?」

「……この商売が上手くいくとは思ってなかった」

「それは仕方がないよ。今だから言うけど僕も確信があったわけじゃなかった」

「……ここまで上手くいってしまうと問題が起きる」

「もしかして、石鹸の話?」


ミーシャは黙って頷いた。

それは俺も危惧していた。

洗濯袋が広まると、遠方で洗濯をすることができるようになる。

そのためには、衣服を洗う持ち運びやすい石鹸が必要になるのだ。

水は魔法で出したり、川から汲んでくることもできる。

だが石鹸は誰にでも作れるものではない。


「……確認だけど買い占めはしてる?」

「してないよ。ミーシャとの約束だし、僕もただ金が稼げればいいなんて悪どい商売はしないって決めてるからね」

「……良かった」


急な消費が予測できれば、事前に買い占めておき、転売することで利益を得ることもできる。

しかし、それでは必要な人が正当な値段で商品を手にすることができない。

ましてや俺たちのビジネスが広がるためには石鹸も安価に入手できる必要がある。


「でも、買い占めがなくても、ここまで急激に売れると石鹸が足りなくなって値段が高騰してしまう……

石鹸が手に入らなくなってしまうと僕たちの洗濯袋を買う人も減ってしまうね……」


これは確かに大問題だ。

石鹸を生産している企業に相談して、今からでも生産体制を拡張してもらうか?

いや、俺みたいなやつが交渉にいっても受け入れてはもらえない。

こればっかりはテオの名声を利用しても、守備範囲外だと見なされて、期待するような効果は得られないだろう。


「……私が何とかする」

「何とかできるの?」


ミーシャは黙って頷いた。

正直なところ、学生でどうこうできることだとは思えない。

しかし、俺はあらゆる人の可能性を信じたい。

ミーシャができると言うのだ、俺がとやかく言うことではない。


「わかった。僕もできる限りの協力はするよ」

「……ありがとう」


すぐに俺は行動に移した。

きっとミーシャは石鹸の生産や供給網を何とかしてくれるはずだ。

だが、どうにもできないこともある。

原料だ。

原料を増やすためには単に人を使えばいいという話ではない。

まず油脂の確保が必要だが、これは幸運なことにレッドドラゴンを倒したばかりだから、何とか足りるだろう。

あとは苛性ソーダだが直接湧き出てくるものではないし……


「というわけで、海に来たわけだ」

「??? いや、なんも説明されてねえぞ! 戦いがあるんじゃねえのか?」


べん……いや、優れた仲間であるカイルを引き連れて、石鹸の原料調達のために海へとやってきた。


「今日は特訓だ。戦ってばかりじゃ武力は上がらない」

「おお、そういうことかよ。いいぜ、なんでも来やがれ!」


俺は目の前の海に向かって超級火炎魔法を放った。

火柱が上がり、海が干上がる。

顔に感じるヒリヒリとした熱量が冷める頃には、干上がった地面には新しい海水が注ぎ込まれている。


「これだ」

「は? 海に向かって魔法を打つだけかよ」

「そうだ。それを海が干上がるまでやるぞ」

「……は?」


こうしている間にも俺は着々と魔法を放ち続ける。


「いやいや、目の前見えてんのか? 海だぞ? 無理に決まってんだろ」

「じゃあ、俺はやることがあるから、後は任せた」

「おい!」


海水を干上がらせた後の塩が苛性ソーダの原料となる。

俺はそれを業者に届けて、各地の工事まで運ぶ段取りを整えないといけない。

ここで時間を食ってるわけにはいかないのだ。


「ああ、そうだ、昼にはここに業者が来るから、それまでには終わらせておいてくれよ」

「はあああ???」

「言っただろ? 特訓だと。特訓ってのはなキツいもんなんだ」


叫び声を背中に受けながら、俺は自分の仕事をするために飛び去った。


結果から言うと、ミーシャは本当にやってくれた。

どうやったのかは教えてくれなかったが、石鹸を生産しているメーカーはどこも量産体制を整えたし、設備が足りないところは、新しく人を雇ってまで生産を行っている。

さすがにこれでは作る方も赤字になってしまいそうな無茶なやり方だったが、どう言う訳か石鹸の価格に無茶した分が乗ることもなく、適正な価格で取り引きが行われている。

ミーシャ、恐ろしい娘。


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