栄光は倒した後が重要
「や、やったか……?」
地面に倒れたレッドドラゴンをカイルは注意深く見つめる。
「よーし、もう動かねえな?大丈夫だな?」
「はー、長かったわね」
「ちょっと飽きてもうたわ」
「テメエら! 俺がどんな思いで……」
カイルは何度死にかけたかわからない。
リマがいなければ、死んでいたのは確実だが、アイナも要所要所では、フォローをしてくれていた。
やはりこの2人を連れてこれた時点で勝ちは決まっていたな。
だが、もちろん一番の功労者はカイルだ。
「よく途中で心が折れなかったな。よくやった」
「……」
労いの言葉をかけたつもりだったが、何故か睨まれてしまった。
レッドドラゴンに向けてた殺意よりも強いものを感じたが、きっと気のせいだろう。
「まあいいか。とにかく俺はやってやったぜ! こいつはドカンとデカイ手柄だ!」
「それで後処理はどうするの?」
「ああ、もう手配済みだ」
レッドドラゴンのような大物は倒して終わりというわけにはいかない。
倒したという実績を認められるためには然るべき手順を踏む必要がある。
「まいどー。黒猫魔物運送です。ご依頼の場所はここで合ってますか?」
「魔物運送?」
倒した本人が魔物の死骸と一緒に引き渡しを行うことで、実績報告の証拠とすることができる。
ついでに死骸の処理も行ってもらえば、帰り道も楽にすることができる。
さすがにダンジョンなどの危険地帯に来てもらうことはできないが、今回のように少し不便な僻地くらいであれば取りにきてもらうことができる。
「倒したのは、コイツだ」
「はいー、ではこちらの書類にサインをお願いします。ご自身で所持したい部位や素材利用の優先権はご希望されますか?」
「えっと……」
初討伐なのでカイルは少し困惑しているようだ。
「初めてだし、ウロコくらいは貰っておいていいと思うぞ。記念になるからな。牙や爪は重くて邪魔だから、俺はオススメしない。あとレッドドラゴンの素材なら良い防具が作れるけど金はあるか?」
「金? まあ少しならあるけどよ。どのくらいあればいいんだ?」
「籠手なら数百万ゴールド、盾なら一千万、鎧なら数千万ってとこかな」
「す、数百!? 学生でそんなに持ってるわけねえだろ……」
「じゃあ、この素材の売却益を使っていいぞ。黒猫さん、コレはいくらくらいで売れそうですか?」
「そうですねー。それほど大きくなくて、傷も多いので、買い取り額は四千万ゴールドでいかがですか?」
「随分と足元を見てきますね。最近はレッドドラゴンの供給も減っているんじゃないですか?」
「む、それは確かにそうですけど、キチンと相場通りの買値ですよ」
「今はそうかもしれません。でも、この後は値上がりするんじゃないですか?五千万でどうでしょう?」
「むむ、おっしゃる通りですが、先のことは弊社もわかりかねますので……」
「カイル、この金が使えるとしたら、防具に利用するか?」
「え? あ、ああ、金があるなら、籠手も燃え尽きたし、防具もそれに合わせて全部作りてえな」
レッドドラゴンとの戦いでカイルの両腕は剥き出しになっている。
リマの治癒魔法では防具まで復活させることはできない。
鎧も至る所が穴だらけだ。
「それじゃあ、売却益は全額防具代に当てよう。黒猫さん、在庫を抱える不安も減りますし、書類上の売却益はそちらの言い値で構いませんから、代わりにその売却益で籠手と盾と鎧の作成までお願いします」
「むむむ、つまり現金でのお支払いはなしで、代わりに防具で納品を希望すると?」
「そういうことです」
「……いいでしょう!契約成立です!早速書類を作り替えますので、少しお待ちください」
「なんや、商人同士みたいな会話やな」
「本当ね。テオがそういうの考えられるのは意外」
「……こういう取り引きにも慣れているってだけだ」
「なんかウチのクラスのヤツを思い出したわ」
「それな! ライアンやろ? ウチも思ったわ。 全然似てへんのやけどな。不思議やわー」
危ない。
バレることはないだろうが、下手に良い取り引きをしようとは考えない方がよかったか。
テオとしての俺は必要以上に商人として認識されるのはいいことではない。
今はまだ勇者の息子として、魔物を倒す英雄であることが求められている。
ゆくゆくはテオだライアンだと変えなくても良い世界にしたいところだ。
「はいー。できましたよー」
「じゃあ、カイル、サインしとけ」
「あ? ここは俺なのか?」
「ああ、今回の主役はお前だ。勝手に交渉して悪かったな」
「いや、それはいいけどよ……、お前らはそれでいいのか?」
「アタシは戦力外だったし別にいいわよ」
「ウチも清貧やし金とかいらんねん」
「お前ら……良いヤツだな……」
コイツちょろいぞ。
あんな地獄のような戦い方は俺は絶対に嫌だったけどな。
なんか良い話風にまとまってくれそうで良かった良かった。
これからも呼びやすくなるな。
「さて、討伐の手続きは終了したし、あとは広報だな」
「広報?」
「ああ、申し訳ないが、今回はこっち都合もあって、俺の名前も出させてもらう。だけど、お前の知名度を上げるのにも役立つはずだ」
「んー、わかんねえけど、任せた! もう俺は疲れたし、早く帰りてえ」
「アタシもー」
「そうだな、あとは俺がやっておくから、さっさと帰るか」
広報活動にしても、コイツらに手の内を明かしながらやるとライアンとして行動しにくくなりそうだから、勝手にやらせてもらえるのは都合がいい。
さてと、新たな星を思いっきり打ち上げてやろうか。




