レッドドラゴン カモン!
レッドドラゴンが発見されたのはボルケーノ火山の火口付近だ。
強い炎耐性があるため、人が近付かないような過酷な環境でも生息することができる。
「暑い〜、臭い〜、帰りたい〜」
「これはなかなか堪えるな……」
そのため、レッドドラゴンに会うまでの行程も過酷なものだ。
「なんやだらしないなー。こんなん臓物の腐臭に比べたら屁でもないわ」
先頭を歩くのは意外にもリマだった。
聖女として教会の中で育てられたはずだから、体力面は少し心配していたが、アイナやカイルよりも元気そうだ。
「リマはいちいち言うことが物騒なのよね」
「治癒魔法が得意な人は良いヤツが多いんじゃねーのかよ」
「ウチもよくええ性格してるって言われるで!」
火山の熱さと、湧き出るガスの臭いに疲弊した2人はもはやツッコむ気すら起きないようだった。
「この辺りにレッドドラゴンを呼び込むぞ」
山道から少しそれて戦いやすそうな場所に陣地を確保する。
「呼び込むってどうすんだ?」
「親父たちがよくやってたやり方があってな」
レッドドラゴンのナワバリの中であえて、魔力をかき乱す。
ここで重要なのは、逃げ出すほどの力は出さず、無視されないほどには強い魔力を放つ必要がある。
単純に魔力を放出するだけでもいいのだが、より確実に興味を持ってもらうために、音楽の力を借りるのが我が家流だ。
俺は持ってきた横笛に唇を当てた。
「ピーヒョロろー」
「下手くそか!」
音色は魔力に通じるところがあるらしい。
我が家ではもっぱら大魔道士である母さんが担当していた。
その血を引いている俺が下手なはずはないのだが……
「もう、貸してみなさいよ」
アイナが俺の横笛を強引に奪い取る。
少し躊躇う素振りも見せたが、すっと集中力を高めた。
「おお」
「はあー、テオはこういうことがやりたかったんか」
アイナが奏でる笛の音は、辺り一帯に響き渡った。
澄んだ音色だが、力強いその音色は、俺の記憶にある音にそっくりだった。
「どうしてそんなに上手いんだ?」
楽器の演奏が魔力を操ることに関係があるなら、アイナは苦手とするところのはずだ。
「そりゃね。ダテに長年アンタのお母さんの弟子やってないわよ」
「え、弟子だったのか?」
「はあああ? アンタそれ、本気……なのよね」
本気で知らなかった。
いや、母さんも正式に弟子として認めているのか怪しいところだ。
しかし、失礼なことを言ってしまったとは思うので、もっとキレられるかと覚悟したが、何故だか逆に意気消沈させてしまった。
「まあね、きっと子供のお遊びだとか、新魔法の試し撃ちの的だとか思われてたんでしょうけど、アタシは真剣にできることを頑張ってたのよ。
この笛もそう。魔力を扱うのが苦手だから、楽器が上手くなれば上達するかなと思って練習したのよ」
「はああ、健気なええ子やなぁ」
「楽器が上手ければ魔法が上手くなるなんて聞いたことねえぞ……」
アイナは昔から魔術師になりたかったんだな。
あれだけめったやたらに魔法を撃たれているのは、武闘家としての特訓かと思っていたが、本人は魔法を習っているつもりだったのか。
「お、おい、なんか、揺れてねえか?」
「来たか」
アイナの演奏は見事だったようで、狙い通りの獲物が出てきてくれた。
こういうやり方じゃないと、いちいち巣を探したりして時間がかかってしまう。
まあ、主流の倒し方は寝込みを襲う方法だから、こんな真っ向から戦うやり方は流行っていない。
そこはどこよりも武力の王道を進む我が家なりのやり方だ。
力ずくというのは少し気に食わないが、時間は金なり。
時短のワザは積極的に使いたくなるのも商人のサガだ。
「……多くね?」
「なんやちっこいのもぎょうさんおるな」
お目当てのレッドドラゴンだけでなく、マグマスライムやサラマンダーなど、他の魔物もやってきている。
いつもなら弱い魔物は放出された魔力量に怯えてやってこなくなるはずだが、アイナの音色に込められた魔力量が大きくなかったようで、色々な魔物が出てきてしまったようだ。
それにしても弱過ぎる魔力では魔物を呼び寄せる効果はないと思っていたが、考えを改める必要があるな。
「雑魚は俺がやる。レッドドラゴンはカイルに任せたぞ」
「いやいや! そこは逆じゃね!?」
「一番の手柄を譲ってやるんだ。感謝しろよ」
「いや、それはそうなんだけどよ……」
俺は光学魔法を展開し、レッドドラゴン以外の魔物を牽制した。
雑魚とはいえ、同時に相手をするのは骨が折れる。
「ちくしょう。こうなりゃやるしかねえか!」
物分かりがよくて助かるぜ。
カイルは剣を構えてレッドドラゴンに向かっていった。
カイルの攻撃が僅かに表皮に傷をつける。
敵に攻撃されたと認識し、レッドドラゴンは咆哮を轟かせ戦闘モードに入った。
「う、るせぇな! 静かにしやがれ!」
カイルは怯むことなく猛攻撃を仕掛けるが、決定的なダメージは入らず、いなすように軽く尻尾で振り払われる。
「全然効いてねえ……」
その間、アイナはリマを抱えて、巻き込まれないように辺りを飛び回っている。
所々で初級水流魔法を放って攻撃をしているが、魔物たちにダメージはなさそうだ。
まあ、水を撒いた分だけ涼しくなるのはありがたい。
長期戦も覚悟しないといけないからな。
「魔法もダメかっ……」
カイルは上級水球魔法や、上級雷撃魔法など色々な魔法を放っているが、レッドドラゴンが弱る様子はなく、正面から受け止めて、カイルの前で大きく口を開く。
「やばい!」
レッドドラゴンのブレスはカイルの左腕を飲み込んだ。
「ぐああああ! う、腕が……」
「ほい、治癒魔法」
即座にアイナがリマを連れてカイルに近付き治癒魔法をかける。
「おおお、ま、マジで腕が生えてきやがった……」
「ほな、続きどーぞ」
炭と化したカイルの左腕は綺麗さっぱり元通りになっていた。
「よっしゃ、これならいけるぜ!」
普通のやつは腕がなくなる経験から、こんなすぐに立ち直れないんだけどな。
期待以上の根性だ。
コイツを選んで良かったぜ。
その後もカイルは剣と魔法を駆使して、ジワジワとレッドドラゴンを削っていく。
「くっ、はぁ、はぁ……、なあ、アイナもレッドドラゴン倒したんだろ? なんで攻撃に参加しないんだ?」
カイルにも疲れが溜まってきたようで、アイナの助力を欲し始めた。
「……アタシは魔術師として参加してもコイツにダメージは与えられないから」
カイルの顔には疑問符が浮かんでいる。
「んー、見せるのが早いか。ちょっとリマを任せるわよ」
アイナが俺にリマを預けると、レッドドラゴンの目の前に降り立った。
「初級水流魔法!」
アイナの手から水流が放たれる。
しかし、弱々しくムラがあるその水流はレッドドラゴンの表皮に当たる前に蒸発してしまった。
「ほらね?」
「……さすがFクラスの魔術師だ。じゃあ、レッドドラゴンを倒したってのはフカシかよ」
「別にそれも嘘じゃないわ」
アイナはレッドドラゴンの攻撃を華麗にかわすと、大きく飛び上がって、後ろ回し蹴りを放った。
レッドドラゴンは大きく体制を崩し、地面へと倒れ込む。
「こんな戦い方、魔術師はしないでしょ?」
「お、おま、は?魔術師?え?」
アイナはさも当然のことのように言い放つが、カイルは余計に混乱している。
「ということで、今のアタシは戦力外だから、頑張りなさいよ」
「いや、やれよ!なんでやんねえんだよ!わけわかんねえ!」
「……さすがに死ぬ前にはアタシも協力するわ」
「まあ、ウチが死なせへんけどなー」
俺もアイナは素直に武道家として闘えばいいと思わなくもないが、そこは俺自身も似たようなことをしている手前言うことはできない。
「まあ、なんだみんなカイルに期待してるんだ。頑張れよ」
「テメエら……」
カイルの目尻に涙が浮かんでいるような気がするが見えなかったことにしよう。
次世代の星になる道は楽ではないのだ。




