それって本当に儲かるの?
「洗濯袋?どんなものですか?」
「旅先でも洗濯がしやすいように、撥水加工がされていて、水気を絞ったりすることもできる袋だ」
「そんなの売れるわけないじゃない」
俺のアイデアはみんなには響いていないようだ。
「……今は服は使い捨てにしてるはず」
「わざわざ洗うのでしょうか……?」
「今は使い捨てだから、国が支給する安い服を着るのが当たり前になってるけど、高いレベルの冒険者はオシャレな服を着てるよね」
「そうね。支給された服はダサいから着たくないのよね」
「つまり、低レベルの冒険者だって、本当はオシャレな服を着たいはずなんだ。でも、今は使い捨てだから、それができてない」
「……でも、洗濯袋を買って、高い服も買ったら、お金がかかる。それは贅沢」
この世界の価値観では贅沢は敵だ。
魔物を倒すために全てを注ぐことが是とされるため、自分の娯楽のためにお金を使うことは、あまり良くは見られない。
だが、今回の商売は無駄な出費を増やすものではない。
「これは贅沢品じゃないんだ。今までは安いとはいえ服を使い捨てていた。でも、すぐに洗濯することで服の寿命が伸びれば、それだけ長い期間で同じ服を使えるようになる。むしろ今までよりも服にかけるお金は少なくなるはずだよ」
「……それでも、必要ないものでお金を稼ぐのは良くない」
これもこの世界の価値観として違和感があるところだ。
戦いに関係のないものは極力買わないし、そもそも売らないことが良いこととされている。
ましてや、商人の立場も弱いので、お金を稼ぐことが悪いことのように考えられる。
「僕はそれは違うと思う。みんなが欲しいものは武力を上げなくても必要なものなんだ。それでお金を稼ぐのは悪じゃない。むしろ必要なものをずっと提供し続けるためにも、適切に稼ぐことは商人の義務だ」
「さすが商人を目指してるって言うだけあって変わった考え方やなー」
「……わかった。不当に稼ぎすぎないなら良いと思う」
「そこは気をつけるよ」
本当にミーシャが納得したのかはわからない。
ただお金が欲しい人の言い訳に聞こえているかもしれない。
だが、正当に稼ぐのは良いことだという価値観はこの世界のためにもなるはずなんだ。
「それでまずは何するのよ」
「洗濯袋を開発するのと、大量生産する体制を整える必要があるんだけど、カーティの両親に相談できないかな?」
「わかりました!話してみますね。でも、作ってくれるかは、わからないですが……、仕事のことには意外と厳しいところもあるので」
「それは朗報だ!」
「え?良い話ですか……?」
「うん、仕事に厳しいってことは、しっかりと利益を考えてるってことだと思うんだ。この話は僕たちだけじゃなくて、カーティの両親にとってもメリットがある」
「アタシたちが儲かるだけじゃなくてカーティの両親も儲かるってこと……? なにそれ、どういうこと?」
「洗濯袋が売れると、冒険者は支給された服じゃなくて少し良い服を着るようになるでしょ? カーティの両親が売っているのはまさにそういう服だと思うんだ!」
「確かにそうですね。 支給される服だけじゃなくて、もっといろんな服を着てほしいってお母さんもよく言ってました!」
よし、これで何とか商売を走りはじめることができそうだ。
だが、その間に俺はやっておくことがもう少しある。