商売計画
「カーティは何が好き?」
「え?好きなものですか?」
「うん、得意じゃなくてもいいんだ。好きなものとか、小さい頃の思い出とか、そういう話を聞きたいな」
「なんや、初々しいカップルみたいやな」
横からリマがチャチャを入れてくるが無視だ。
「えっと、私の両親は洋服屋さんなんです。父が素材を集めて、母がそれを服にするんですけど、私もお手伝いで服に刺繍を付けたりしてて、それが好きでした。でも、子供のお手伝いレベルですけどね」
獣人は動物の扱いに長けているので、武力が低い人は毛や皮を使った商売をしていることが多い。
カーティの両親も自然な流れでそういった仕事をしていて、きっとカーティもその仕事を継ぐものだと思っているのだろう。
「服は手作りだったの?工場で作ることも多いって聞いたことがあるんだけど」
「あ、はい!工場でも作ってました。母が最初に見本を作って、生産は工場ですね」
「売り場は個人商店だったのかな?」
「いえ、私の家だけじゃなく何人かで集まって会社を作って売ってました」
まあ、そうだよな。
それでも国営企業勤めじゃないだけ、自由はあるだろうから、楽しく働けていたのもあるだろう。
「ふーん、アンタそういうの詳しいんだ」
「う、うん。商人を目指してるからね」
「商人ねえ。また大変な道を選ぶわね」
「……悪いことはしちゃダメ」
この世の中で商人として良い思いができているのは、ごく一部だ。
珍しい商材は武力が高い冒険者じゃないと入手できないので、一般的な商人はただ物を運ぶだけか、ゴミ収集の人という立ち位置に近い。
もしくは、大きな声では言えないようなモノを扱っているかだ。
「大丈夫。悪いことはしなくたってお金は稼げるんだよ」
「ホンマかなー。ウチはそれは信じられんわ」
「そうよ。そもそも売り物はどうやって手に入れるのよ。その辺の木の枝をいくら拾ったって大したお金にはならないわよ」
「実は僕は良いビジネスチャンスを知ってるんだ」
時代は変わってきている。
今まではただ魔物を倒せば良かった。
だが、武力があればいいという世界の終わりは近いと感じるのだ。
「ビジネスチャンスを捉えるには、"変曲点"を見つけるのが重要なんだ」
「変曲点って何ですか?数学とかの話ですか?」
「いや、変曲点っていうのはね、新しい法律ができるとか、今までとは文化が変わるとか、環境が変わるとかそういう瞬間のことなんだ」
「それでアンタはその変曲点ってのを見つけたっていうの?」
「うん、そうなんだ。実は魔物の数が減ってきている。これが変曲点になるんだ」
「私は知らなかったです……」
これは常に先頭で戦い続けてきた俺だから、気付いたことかもしれない。
だが、考えてみれば当たり前のことだ。
魔王がいないこの世界では魔物の自然発生などはそうそう起きない。
しかし、人類は平和な世界で増え続け、皆が魔物を滅亡させることを目的に活動しているのだ。
当然その数は減り続けている。
「そーいえば、教会に治療に来る人が減ってきてるのはその影響なんかな」
「……魔物の数は減り続けている」
「少し遠くまでいかないと魔物に会いにくくなってる気はするわね」
「そう!まさにそれなんだ!」
おっと、少し興奮して大きな声を出してしまった。
「えっと、どういうことですか……?」
「最近は拠点の街から、数週間かけて魔物狩りに行くのが当たり前になっている。その時間もどんどん伸びているんだ」
「そうね。まあアタシはそんなに時間かからないけどね」
「ちょっとアイナは特殊だから無視するね」
「なんでよ!」
「……アイナは本当に隠す気あるのかな」
アイナのように強い冒険者であれば、それだけ移動速度も速いため、短期間で遠くまで行くことができる。
しかし、一般的な冒険者はそうではない。
「これが今まさに起ころうとしている変化なんだ。まだそんなに話としては出てきてないけど、近いうちに話題になると思う。こういう変化がある時は今までは必要なかった新しいモノが必要になるから、新しい商売が生まれやすいんだ」
「あの、時間がかかるようになると、どんな商売ができるんですか?」
「そうだね、実は話してて一つ閃いたことがある。時間がかかるようになると野営の回数が増えるでしょ?しかも、魔物を倒しても、しばらくは野営生活が続くんだ。そうすると汚れた服で生活を続ける時間が長くなる」
「服?」
「わかった!汚れないような服を作ったら売れるんだ!アタリでしょ?」
「そうだね。アイナのアイデアも正解だと思うよ。でも、汚れない服を作るには付与魔法が上手くないといけない。だから僕らみたいな学生には難しい商売かもね」
「じゃあどうするのよ!」
俺の変曲点の情報をカーティの経験と結び付けるというのは同じ発想だ。
でも、もっと単純で俺たちでもできるビジネスがある。
「洗濯袋を作るんだ」




