特典用SS:小さな花冠と花飾り
2巻表紙の小話です。
「聖女様、今よろしいですか?」
馬車から降り、両手を頭の上で組んで伸びをしているマリアさんへ、馬車の向こうからやってきたセレスさんが声をかけました。
「なによ? まわりに魔物でもいた?」
休憩を取るにあたって、まわりに魔物の影がないか確認していたセレスさんに、マリアさんが尋ねます。
「いえ、魔物ではなく……。あ、ルチアもいいかな? 見せたいものがあって」
「見せたいもの?」
「わたしも……ですか?」
「こちらです」
誘われるまま木立ちの向こうへ足を進めると、そこには小さな花畑がありました。規模は小さいですが、とても綺麗です。
「うわぁ……!」
「きゅっきゅあ~!」
花畑を見たマリアさんは目を輝かせました。嬉しそうな鳴き声をあげて、シロが花畑へ飛び込みます。
「すごい! こんなとこよく見つけたわね!」
「たまたまですよ。ですが、馬車の旅は退屈ですし、少しでも聖女様の無聊を慰められらばよいかと……」
「うん、いい心がけね! で、本音は?」
「もちろんル……いえ、なにを言わせようとしているんですか」
「ふふふ、そりゃもちろんヘタレた心の声よぉ」
マリアさんはかすかに顔を赤らめたセレスさんの様子が面白いのか、肘で隊服の脇腹のあたりを突っついています。とても楽しそう。セレスさんも嫌がる様子を見せず、少し困ったように笑っています。
「こういう花畑見るとさぁ、花冠作りたくなるわよね!」
そう言うとマリアさんはおもむろにピンクや黄色の可愛い花を摘みだしました。この花はオレラーシアの花ですね。オレラーシアの葉は生でも火を通しても食べられるので、昔はよくお世話になっていました。
「これ、どうやればいいの?」
「こうするんですよ」
花冠を作ろうとしたマリアさんですが、うまくいかなかったようで、セレスさんに手を貸してもらっています。マリアさんの目の前でお手本を編むその手つきはとても上手です。器用なんですね、セレスさん。
仲良く花を編む二人をぼんやり見ていると、花畑から顔を出したシロがわたしに向かって飛んできました。
「きゅっ、きゅーぅ!」
「どうしたんですか?」
「きゅきゅっ」
なにかを訴えるように鳴くシロに、そういえば今日は魔法をかけていなかったなと思い出したわたしは、シロを膝の上に乗せます。
「忘れてました。シャボンかけましょうか」
「きゅ!」
「はい。《シャボン》!」
たちまち現れたシャボン玉は、シロを包むと虹色に輝きながらふわふわと揺れます。
「きゅーあっ!」
「なぁに、シャボンかけるならあたしにもしてよ〜!」
満足げなシロの歓声に、作りかけの花冠を放り出したマリアさんがわたしたちの方へやってきました。
「花冠はいいんですか?」
「いいの。意外と難しいわ、あれ。あたしは編む方じゃなくもらう方が得意みたい」
わたしの問いかけに、マリアさんはペロッと舌を出して愛らしく肩をすくめて見せました。
「ルチア」
マリアさんにシャボンをかけていると、ひとり花を編んでいたセレスさんがこちらへやってきて、わたしに小さな花冠を差し出しました。花冠というより花飾りといった方がいいでしょうか。腕輪くらいのサイズです。小さいけれど、色合いや花の大きさまで綺麗に揃えられていますね。本当に器用です。
「あの……ほら、花冠だと大きすぎて邪魔かな、な~んて。あ、そのさ、他意はなくて……その」
渡された花冠に感心していると、セレスさんは照れたような声を出しました。いけません、あまりにも上手なので、つい不躾に見すぎましたね。
「とても上手です。器用ですね、セレスさん」
「きゅ!」
小さな花冠を受け取って感想を述べていると、ひょいと横から上機嫌なマリアさんが顔を出しました。
「あ、それシロにぴったりじゃない? すごいセレス! 測ったようにぴったりよ! うん、シロにぴったり」
ぴったりを連呼するマリアさんに、セレスさんがぎょっとしたような表情を浮かべます。
「えっ、シロ?」
「マリアさん、シロに被せるには少し大きくないですか?」
「首飾りにぴったりでしょ! ということで寄越しなさい、セレス」
「……はい」
セレスさんの手から花冠を取り上げると、マリアさんはわたしの膝にいたシロの首にかけました。あ、ホントです。ぴったり!
「きゅー!」
「シロ、嬉しそうですね」
「……そうだね」
シロの首にかかる花冠を見るセレスさんの視線が多少残念そうなのは、気のせいでしょうか。もしかしたらあの花冠、わたしにくれたものとか……いえいえ、ないですね。わたしサイズじゃないですもん。
自分に都合のいいことを考えかけたわたしは、慌てて軽く頭を一振りすると話を変えることにしました。
「そういえば、このオレラーシアの葉は食べれるんですよ」
先の尖った丸い葉っぱをちぎって見せると、シロを抱き上げたマリアさんが興味深げに寄ってきます。
マリアさんの腕の中から首を伸ばしてふんふんと葉っぱの匂いを嗅いだシロが、おいしそうだと思ったのか、そのままぱくりとオレラーシアの葉を口にしました。それを見て、同じようにマリアさんも手に取ります。
「そうなの? ちっとも美味しそうに見えないけど……ルチアが言うなら摘んでこっか。セレス、皆が食べれるくらい摘んできて! ルチア、シロ、先に戻ろ〜」
「聖女様!?」
「摘むなら皆で摘んだ方が早いですよ?」
「いいからいいから! ルチア行こっ! あ、セレス! 葉っぱと一緒に花も摘んでもいいけどね、あたしへの献上分も忘れないように!」
にっこりと、満面の笑みを浮かべたマリアさんは、シロを抱いた手とは反対の手でわたしの腕をつかむと元いた方へ歩き出しました。
「セレスさん!」
「いいからいいから~。ね、セレス!」
「……送ります。近いとはいえ、さすがに二人だけでは帰せません」
その後、セレスさんはわたしとマリアさんを馬車のところへ送り届けると、アグリアルディ団長に一言告げて先程の花畑へ戻りました。
その姿に、「食べれるなんてこと、言わなければよかった」と後悔していたわたしへ、オレラーシアの葉を山ほど持って帰ってきたセレスさんが、葉っぱと一緒に小さな花冠をくれたのは、また別のお話です。
改めて見ると、セレスティーノ、ヘタレすぎない……?
さて、ここまでお盆更新にお付き合いいただき、ありがとうございました。
これをもって、「非凡・平凡・シャボン!」は再び完結表記にさせていただきます。




