特典用SS:エリクの観察メモ
旅の始めの頃のエリク視点です。
最初は面白くない旅だと思ってた。
「世界を救う」より、ボクは好きなだけ研究をしていたかったし、アカデミアは居心地が良かったから、そこから出る気もなかった。
けれど、ワガママ放題な聖女様の要望で、どうしてもボクが行かなくちゃいけなくなった。学長命令だったし、お世話になった師匠のたってのお願いだったから、ボクは仕方なしに重い腰を上げた。
まぁ、天晶樹がどんなものかこの目で見たかったし、聖女様の光の魔法は正直気になっていたから、いい機会だったのかもしれない。
特に天晶樹は、すべての魔法の基とされているわりに、その生態は謎に包まれていたからすごく興味があった。魔法を使うために必要な水晶は、天晶樹の媒介とされている。なんで水晶に触れないと魔法は発現しないのか。なんで聖女様だけは水晶なしに魔法が使えるのか。その秘密を解くには、この旅の随行員となるのはうってつけだったし、それに気づいてからのボクは、当初の憂鬱さが嘘のようにウキウキとさえしていた。
まぁね、聖女様の言動にはイラつかされたよ? 忍耐力の調査だと思ってやりすごさなけりゃ、ホント放り投げたかったくらいうざかった。
でも、聖女様のターゲットの中で、年下のボクはまだ順位が低かったみたいで、そう絡まれることは多くなかった。聖女様は大抵王太子殿下か、〝竜殺しの英雄〟に付きまとっていたから。
だからちょっと余裕はあったんだと思う。そう、彼のその行動に気づくくらいには。
「隊長さん、なにそのリボン?」
「えっ、あ……っ!」
ボクの声に驚いたのか、隊長さんは、手にしていた菫色のリボンを取り落としかけ──すごい早業でそれを再び掴んでいた。
なんなの、なんかの鍛錬なの? って訊きたいくらいの素早さだった。
「ああ、いや、その」
「あやしぃなぁ。随分使い込まれたリボンだったよね。誰のかな? 恋人?」
再び手にしたリボンは隊長さんの掌の中で見えなかったけれど、最初にチラリと見た感じは、特に柄もなにもないシンプルなものだったように思う。
恋人かと訊いたのは、旅をする際、そういう間柄の持ち物をお守り代わりに持っていくという風習を聞いたことがあったからだ。十二歳のボクにはそういった相手はいなかったけれど、二十三歳という年齢で、且つあれだけ人気のあるこの隊長さんのことだ。恋人の一人くらいいてもおかしくない。
「いやっ……そんな、そんな相手じゃない、けど……」
随分と歯切れの悪い返答を返す隊長さんの顔は、ちょっと赤い。それだけで聡明なボクは、そのリボンの相手が恋人まではいかなくとも、隊長さんが想いを寄せる相手のものなんだなぁとわかった。
まぁ、そんなボクも、〝隊長さんのリボンの君〟と一緒に旅することになるとは思わなかったけどね。
リボンの彼女は、言っちゃ悪いけどかなり地味な子だった。見た目も服装も、聖女様と同い年とは思えないくらい地味だった。
そんな子が派手な隊長さんの相手とはにわかに信じがたかったけれど、隊長さんが彼女を見る目線で、本当に好きなんだろうなぁとわかった。
もうね、ちらちらと見まくりなの! 彼女がクマと話してるだけで睨んでるし! 聖女様が彼女に絡んでると眉間にしわ寄せてるし! 休憩の度に暇を見つけては、いそいそと話しかけに行ってるし!
面白くなったボクは、観察メモを取ることにした。天晶樹の調査や聖女様の光魔法の観察、魔物に対しての魔法効果の実験も気になったけれど、彼らの交流も面白くて目が離せなかった。
これからどうなるかなぁ。ああ見えてここ一番の押しが弱い隊長さんが、奥手でぽやんと鈍いルチアにどうアプローチするか。頑張ってアピールしてもスルーされてるしね。
いつしかそれは、ボクの楽しみになっていた。
諸手を挙げて応援はしないけどさ、せいぜい頑張ってね! 普通なら竜の方が攻略しづらいと思うけど、隊長さんにとっては竜よりルチアの方が難関不落っぽいのが面白いよね!
この旅が終わるころにはうまくいってるといいなぁと頭の片隅で思いつつ、今日もボクは彼らの様子を観察し続ける。




