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過去の恋愛経験が終わってる俺に、3人のカースト上位女子が恋愛ってもんを教えてくれるらしい  作者: 仁波昼海
3人の転校生

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3/4

爽乃望宙②

「それ、おいしいの?」


これは……俺か?

 辺りを見回してみても、近くにいるのは俺と購買のおばちゃん、それから転校生くらいしかいない。

明らかに俺の持つパンに言葉が向けられていたが、勘違いは嫌だから聞いておこう。


「俺ですか?」

「君しかいないでしょ」


 転校生は俺の腕にぶら下がる袋を指差す。


「それ、おいしいかって聞いてるんだけど」


 たしかに俺の方がここに2年いるもんだから、パンの味についてはよく理解している、きっとそう思われているんだろう。

だが、俺の今日買ったパン。名前だけは見たことがあるような気がするが、それ以上の情報はない。


「知らないです」

「え?」

「俺も初めて買ったので」


 有名どころや期間限定は当然すぐ無くなる。

別に俺は焼きそばパンに闘志を燃やす人間の類じゃないから、適当に残っていたやつを手に取った。ただそれだけの話だ。

すると転校生はそんな返事が予想外だったのか、小さく吹き出した。


「そんなことあるー?」

「え..まぁ、あるんじゃないですか」

「絶対おすすめだから買ったんだと思ったよ!」

「パン詳しくないので...」

「ふぅんそっかぁ」


 何が面白かったのか、一人で納得したように何度も頷いている。

俺の放った言葉から嫌悪感が溢れてなければいいなと思ったが、楽観的思考で助かった。

 というか、初対面の男子相手によくそんな笑えるもんだな。



「じゃあ〜どうしよっかなあ…」


 転校生はもう一度棚へ向き直る。

売れ残ったパンを一つずつ眺めては、小さく首を傾げていた。


「やっぱり...決まらないかい?」


 おばちゃんが申し訳なさそうに声を掛ける。

だが転校生は120%の笑顔を咲かせて。


「なんだか全部美味しそうに見えてきちゃって」

「あら、嬉しいことを言ってくれるもんだねぇ」

「いえいえ、本当のことなんで」


 優しく返事をしながらも、まだ棚から目を離さない。

そこまで悩むほど違いなんてあるんだろうか。俺なんか名前すら見ずに取ったぞ。


「よし!」


 ぽん、と手を叩く。


「私も同じのにしよう!」

「えぇ..」


 思わず口が出た。妙にこっちを信頼しているが、こっちは味重視してないんだぞ。ひどく言えば在庫処理担当だ。


「どうかした?」

「いや、俺も初めてなんで...」


 言葉は最後まで続けなかったが、理解してくれただろうか。

すると彼女は少し悩んだようにパンを一瞥し、結局一番手前に残っていたものを持ち上げる。俺と同じものだ。


「これは一種の運試しなんだよ少年」

「しょ、少年??」


パンに向けて一言放った彼女は、その後ゆっくりこちらを向いて。


「何事も分からないから、人生は面白いのさ」


断定したような笑みで俺にそう言った。


「はいは〜い、じゃあお会計しましょうか!」


固まっていた双方は、おばちゃんの声で動き始める。転校生は「あ、すいません!」と慌ててレジへ向かう。

財布を取り出す動きまでどこか忙しない。


「ありがとうございました!」

「またおいでね〜」

「是非!!」


 元気よく頭を下げると、おばちゃんも自然と笑っていた。

…順応するの早すぎだろ、まだ転校初日だぞ。


彼女が現金会計を済ませて横に移った後で、俺は電子マネーでサッと済ます。

紙袋を受け取り、一刻も早くこのロスタイムを取り返しに帰ろうとすると...。


「ねぇ君!」


 また呼び止められる。今度は迷わない、どう考えても俺だ。


「何ですか?」

「それ、私と同じパン!」

「え、あなたが選んだんじゃ?」

「たしかに!」


 けらけらと笑う。あの澄ました顔で哲学発言した人間と本当に同一人物なのか?


 購買を出ると、すでに昼休みが残り半分を切っており、さっきより廊下を歩く生徒は少なくなっていた。

今日はもう、このまま教室へ戻って、動画でも見ながらパンを食べよう。


 そう思って歩き出したのだが、


「ちょ、ちょっと待ってよ〜」


 後方から走りながら言ってるであろう声が飛んでくる。長いってこの人、しつこい。


歩幅を少しだけ緩めると、転校生は俺の横へ並んできた。可能な限り嫌な顔はせず、丁寧に聞き返す。


「何ですか?」

「君って二年生だよね?」

「まぁはい。学年章見てくださいよ」

「一応確認しただけだっての!」


 何にキレているんだこの人は。早く終わってくんないかな。


「それで、2年生だから何ですか?」

「い、いやぁその...やった〜って感じ?」


 何がやった〜だ。転校生は目を泳がせる。

制服の学年章を見れば分かることだし、俺じゃなくてもそこら辺を歩いてる奴に聞けば済む話だろう。俺に聞きたいらしかった本題はその後に持ち出された。


「き、君はさ」

「うん?」


「その…」


 一瞬だけ言葉を探すようにまた視線が泳ぐ。

申し訳ない自覚があるようだ。


「昼休みって、いつも一人なの?」


 …よく見てるな。ここで敬語使ってる時点で結構陰のものだとバレていた可能性も無くはないが。


「そう...ですかね」

「寂しくない?」


「あ、いえそれは無いです。」


 余計なお世話です、とは言わないけどそんなニュアンスを含んだ言葉。俺は相手が誰であろうと関係なしに、この質問をされればこう即答する。

一人で飯を食べるのも、一人で動画を見るのも、もう一年以上続けている。

今さら寂しいなんて感情は湧かない。

というか、人と食べたいとも思わない。


「へぇ..そっかぁ」


 あまり掴めない返事が、斜め上ら辺を見ながら歩く彼女から返ってくる。

 それ以上聞いてこなかったのは正直少し驚いた。

勝手に「一緒に食べようよ!」とか言い出すタイプだと思っていたが、流石にそこまでは距離感がおかしくないらしい。陰に理解があるタイプの陽か、これほど心強いものはないな。


「でもさぁ」


 今度は向こうから話し始める。


「私は今日だけで結構友達できたんだよ?」

「そんなこと見てたら分かりますけど」

「えっ、見てたの!?」

「あ..」


「嬉しい!」

「え?」


完全に無意識だったが、上手く乗せられてしまったようだ。

普通なら恥ずかしいとかキモ。とか言うところだと思うが、感覚がよく分からない。


「前の学校でもこんな感じだったんですか?」

「んー?」


 少し考えるように首を傾げる。


「どうだろ」

「あ..すいません、答えなくてもいいです」


いつの間にか会話をはじめようとしてしまっていた。自然と質問していた自分にちょっと驚く。

転校生はそんな俺の謝罪には聞く耳も持たず、元気よく俺にまた答える。


「覚えてるけど、多分あんまり変わんないと思う」


 やっぱり、そんなもんなんだな。きっと俺には一生分からない世界だろう。

廊下を歩く生徒もさらに少なくなり、窓から差し込む昼の日差しだけがやけに明るい。

その明るさとは反対に、俺の高校生活は今日も平常運転をするはずだったが、今日は渋滞に巻き込まれたらしい。


「あっ」


 転校生が立ち止まる。


「私約束してたんだった!」


 指差した先は、向かうべき教室とは反対側の廊下だった。昼休みもあと10分ちょっとだというのに、天然なのか物忘れが酷いのか...。どちらにしろ俺には関係ないが。


「じゃあね!」


 手を振る。

だから俺も軽く会釈だけ返して、そのまま歩き出そうとした。


「あっ、待って!」


 走り去っていこうとする転校生は、こちらを向いて大きな声で俺を呼び止める。


 「名前!」

「…名前?」

「君の話だよ!」


あまり大声を出すのは得意じゃないんだが...ネトゲでコールするぐらいだぞ。


「君面白いからさー!また話したいんだよねー!」


誰かに聞かれてたらと思うと冷や汗を書いてくるような爆弾発言だな。残念だが、こっちは話す気なんてさらさらないので、嘘の苗字だけ伝えておくか。


 「佐藤ですー」


今日こうして話したのだって、たまたまパンが売れ残っていただけの話。

同じくクラスとは言えど、住んでいる世界が違うんだ。きっと顔似てるなぁくらいで済むはず。


「ありがとー!じゃあ私も!」


 そう言って満面の笑みを浮かべた。


「さわのみそらー!」


 それだけ言い残すと、返事を待つこともなく小走りで廊下を駆けていく。


「またねー!」


 最後までよく通る声だったな。

その背中が角を曲がって見えなくなるまで、俺はぼんやりと立ち尽くしていた。


「……」


 嵐みたいなやつ。

教室へ戻ると、出る前まで騒いでいた連中も席へ戻り始めていた。

俺も自分の席へ腰を下ろし、紙袋からパンを取り出し、一口かじる。


「…美味いな」


 期待していなかったが、案外俺好みの味だった。


昼休みが終わるチャイムまで、あと少し。

スマホを開いて動画を再生しながら、ふとさっきの転校生を思い出そうとしたが、それをもみ消す。


 …まあ、別にもう喋ることもない相手、気にしてたって仕方ないよな。


『ミステリーブレッド』


食べるまで何味か分からない、そんな不人気商品を俺は一口一口、しっかりと味わった。

次から桃奈編です。

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