第99話 逃げるんだよォー!!
あるぅ日、街の中、天使に、出会った♪
人死ぬ街の道、天使に出会った♪
「現実逃避してねえで助けろテメエ!」
ウマ野郎ジャミスが作曲活動にいそしむおれの思索を妨害してきやがった。
「わけわかんねえこと言ってんなよ、なんでおれがオメーなんぞ助けなきゃいけねえんだよ」
「袖触れ合うも他生の縁っていうだろが!」
などとわけの分からない会話をかわしていると、アリスの少女らしい細腕がフワッと霧状に変化してジャミスの首を締め上げる。
「おウマさんどうどーう」
ギリギリギリ!
「ぐええええ!」
フワフワした見た目に反してかなりのパワーだ。
ジャミスは首をかきむしって抵抗するが、アリスにはまったくダメージがない。
霧を引っ搔いたって傷なんてつけられない。
そのくせ霧で首を絞めるなんて不自然なことができている。
なんて理不尽な怪物なんだ。
おれはつい口をはさんでしまった
「えっ、えーと、アレっ、アレ危ないから、すぐ避難したほうがいいと思うよ!」
おれは暴れている超巨大アリ『ガルガント』を指さしてそう提案する。
やつは周囲を食い散らかしながらズンズンズンズン近づいてくる。
なにせ身体がクソデカいから、ゆっくり動いているように見えてもすごく速いんだ。
一刻の猶予もない。
「アレ天使も人間も関係なく食べちゃうコワーイやつだから、別の所にいこ?」
きわめて合理的で真っ当な提案をしたのだが、相手のリアクションはボンヤリしていた。
「おウマさんなのー」
「お、おう?」
「おウマさんだからのるのー」
「……」
可愛い笑顔でピンボケした言葉を返してくるアリス。
キツいなおい。会話にならねえタイプか……。
「ウギギギ……!」
ジャミスはなんとか拘束から逃れようと首を引っ搔いてうめいている。
だが今すぐ死ぬほどではなさそう。
ちなみにこんなことをしている間にもガルガントはこちらに向かってズンズン近づいてくる。
「おいやべえやべえやべえ、マジでやべえぞおい!」
足元にひびく振動がじょじょに大きくなってくるのが恐怖感をより煽った。
巨虫はもうおれたちを視界にとらえている。
「こうなりゃしょうがねえ。たった一つだけ策があるぜ、とっておきのやつがな」
「ギ?」
「『安全のためにこの場を離れる』『頭のユルイ女の子の気持ちを満足させる』両方やらなくっちゃあならないってのが戦場のつらいところだな」
ジャミスも元人間。
そしておれと同じくらいのクソオタク臭をただよわせた漢だ。
おれのこの独特な言い回しに『ハッ、まさかその策というのは』という表情をみせた。
「逃げるんだよォー!」
「ビヒィィィ!!」
「キャッキャッ」
指先と背筋をピーンとのばし、奇麗なフォームで全力疾走をはじめるおれ。
ジャミスも首にまとわりつくアリスをそのままに走り出した。
おれたちが血相をかえて走るなか、アリスだけは楽しそうだ。
逃げる背中に『女王』アナスタジアの声が降りそそいできた。
「アリス……それにそこの馬はなんという名だったかな? この際だから貴様らもこのガルガントの食料になるがいい」
感情のこもらぬ冷たいセリフと同時に、ガルガントの舌が素早い動きでおそいかかる。
「ギャース!?」
どこかコミカルな悲鳴をあげながら紙一重で回避するジャミス。
「ぶるぅああああ!?」
すまん、おれも同じだ。
ガルガントの舌は槍のように鋭く尖り、おれたちを次々と襲う。
勢いあまって地面や瓦礫が軽々とえぐり取られた。
こんなの人間のおれが刺されたら即死だろう。
「おいジャミス二手に分かれるぞ、撹乱作戦だ!」
「そんなこと言ってテメーだけ生き残るつもりだろが! そんな手に乗るか!」
「チッ」
「舌打ちしてんじゃねーよ!」
「キャッキャッ」
作戦失敗。こんな時だけカンのいい奴だ。
おれたちはおなじ道を一緒に走り。
おなじ曲がり角を同時に曲がり。
おなじ瓦礫を同時に飛びこえた。
なんだこの無意味なチームワーク。
「なんでこんな事になってんだあー!?」
「知るかボケー!!」
「キャッキャッ」
アリスだけは楽しそうだ。




