第97話 巨虫ガルガントの脅威
地響きとともに大地が裂ける。
大地の割れ目から巨大な昆虫の脚がヌッと飛び出してきた。
脚は地面をしっかりとつかみ、さらに巨大な全身を持ち上げる。
巨大なアリの顔。
同じく巨大な胴体。
胴体から生えている、やはり巨大な羽。
超巨大な羽蟻だった。
胴体部分だけで数十メートルもある大きさ。
脚や羽までふくめたら百メートルに達するかもしれない。
あまりの大きさに声も出なかった。
こんなの一体どうしろと。
生物というより建物かなにかのサイズじゃないか。
人間が戦える相手じゃない。
「これは『ガルガント』。妾の最終兵器ぞ」
『女王』アナスタジアは笑うでもなく、猛るでもなく、冷たい声と表情で怪物の名を告げた。
「普段こやつを見せぬのには訳があってな。かなり使い勝手に難がある」
ガルガントと名付けられた超巨大アリは、口から細長い舌をのばした。
その舌がアルヴェインを絡めとる。
「な、なにをする!? 陛下、いったい何を―――」
ヒュッ、と音が鳴りそうな速さで舌が口の中に引っ込んでいく。
次の瞬間、虫の口の中でアルヴェインの絶叫がひびいた。
「ギャアアア!!」
食った。味方をなんのためいらいもなく食べてしまった。
「この巨体を動かすためには多量のエネルギーを必要とする。ゆえにこんな非常時以外は冬眠させておくしかないのだ」
ガルガントはさらに次々と舌をのばし、アリたちをボリボリと食べていく。
主人に絶対服従のアリたちは抵抗もせずヒョイヒョイと食べられている。
おれは背筋がゾッと寒くなった。
ガルガントにじゃない、『女王』アナスタジアにだ。
こいつ自分の部下たちをエサにして顔色一つ変えない。
なんのためらいも見せず、まったく気にした様子がない。
こいつにとって自分以外の存在は無価値なんだ。本当に他者のことなんてどうでもいいんだ。
それを分からせられたからゾッとしてしまった。
見た目はほとんど人間。違いは背中に昆虫の羽を生やしているだけ。
ディズニーキャラのコスプレしているおばさんに見えなくもない。
だがこいつは化け物だ!
人の言葉をしゃべるが、人の心は持っていない化け物だ!
「アリだけでは足りぬな」
ガルガントの眼は次に倒れ伏している人間の死体にむけられた。
素早く舌を行ったり来たりさせて器用に一つ一つ死体をむさぼっている。
「お、おい逃げるぞ」
誰かが言った。誰かは分からなかったがどうでもいい。
異論なんてあるはずもなかった。おれたちは一斉に走り出す。
反乱をおこした住民たちもほぼ同時に逃げ出していた。
今は死体を漁っているが、すぐ食べ終えて生きた獲物を狙いはじめるに決まっている。
次は自分たちの番。
生物としての本能がおれたち一人一人にそう告げた。
「フフフ、せいぜい逃げるがよい。可能ならばな」
女王が冷たく笑う。
ガルガントは逃げるおれたちにむけてなぜか背中をむけた。
「先ほど使い勝手が悪いとは言うたが、弱いとは言うておらぬぞ」
ガルガントが大きな羽を広げた。
ブブブブブブブ!!!!
強烈な騒音が戦場に鳴りひびく。
「こやつは重すぎて飛ぶことはかなわぬが、かわりにこんな芸がある」
ブブブブブブブ!!!!
巨虫がさらに羽ばたきをつづける。
猛烈な風が巻き起こり、建物や城壁をなぎ倒す。
人や瓦礫が枯葉のように宙を舞った。
やべえ、この国を更地にするってこういう事か!
「みんな物陰に隠れろ!!」
おれは精一杯怒鳴りながら建物の陰に飛び込んだ。
他の人がどうなったかとか、考えている暇はまったくなかった。
とんでもない暴風と轟音が周囲を破壊していくのが音だけでも分かる。
おれは物陰でうずくまり頭をかかえ、ひたすら身を小さくして耐えることしかできなかった。




