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ゾンビだらけの終末世界でおれたちわりと無双界隈  作者: 卯月


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第95話 スライム方程式

 少しずつ少しずつ、紫織は城壁のほうへと追いつめられていった。

 紫織とスライム軍団は必死に戦っているが、それでも攻撃力があきらかに不足している。

 合体スライムの体当たりなんかでは大きなダメージを与えることができない様子。

 一方ドラグスの拳は合体スライムの巨体をたった一撃で粉々にしてしまう。

 それですべてのスライムが死ぬわけでもないようだが、戦いはじめた時より合体スライムは小さくなっていた。

 少しずつだがスライムの数が減ってきている。

 露骨《ろこつ》なジリ貧《ひん》だ。このままじゃマズいぜ。

 上級天使と最下級天使ですらないモンスターの戦いだ、苦戦するのは分かりきっていただろう。

 ここからどうやって逆転するっていうんだ紫織ちゃん。


「カズヤくん、あのお嬢さんを助けに行ったほうが良いんじゃないか?」

「ええ。おれもそう思うんですけど、こっちはこっちで!」


 ジョーさんが助けに行けと提案してくれたが、おれたちもおれたちで戦闘に巻き込まれていた。

 住民反乱に対処《たいしょ》していたアリの残存戦力が一部こちらにも向かってきたのだ。

 加速しながら爆走してくる大型アリの突撃にさらされて、こちらも生きるか死ぬかの戦況。

 爆走する大型アリの勢いは軽自動車がフルパワーで突っ込んでくるイメージに近い。

 まともに食らったら即死だ。防御重視にならざるをえない。


 よくよく戦場をみるとアルヴェインの野郎が無言でおれたちを睨《にら》んでいた。


 あー、ハイハイ、ドラグスの邪魔はさせねえよって訳《わけ》ね。

 あいつ腕《うで》一本なくしたダメージのせいで戦えないから、兵士を指揮する役割に徹《てっ》するつもりなわけだ。

 優秀なお方ですね~、いい迷惑だまったく!


「ジルヴァ! お前が行ってくれ!」


 空を飛べる彼女に紫織の救助を要請《ようせい》する。

 おれたち地上班は暴走アリから目を離せないがジルヴァにとっては何でもない。

 重装甲のドラグスとは武器の相性が悪そうだけれど、それでも超上級天使『水銀』のメルクリウス様ならなんとかできるだろう。


「…………」


 だがジルヴァは動こうとしない。

 弟子である紫織の戦いを見守りつづけた。


「ジルヴァ! 死んだらどうすんだ!」


 おれの声が聞こえていないわけじゃない。

 まして紫織に死んでほしいわけでもない。

 その証拠にジルヴァは端正《たんせい》な顔がゆがむほど歯を食いしばり、自分の腕をギュッと強く握って耐えていた。


「ここで邪魔したらやる気もなにも全部消し飛んじゃうのよ」


 視線は紫織にむけられたまま、声だけおれに返してくる。


「あの子がどうってことのない普通の女の子だって、あんたも分かってんでしょ。その普通の子が、自分にも何かできることはないかって毎日毎日努力しつづけてきたのよ。努力して、勉強して、命かけて、今ようやく自分なりの研究成果をぶつけてやろうっていう時なのよ。挑戦した人には結果が必要なの。結果を与えられない努力なんて、そんなの心がカラッポになっちゃうわよ」


 ……ああまったく。

 こいつはもしかしたらおれよりも人間臭い性格かもしれない。

 まるで子供を心配する親みたいな顔で紫織を見つめている。


 むこうの戦いを見守っていたのは味方ばかりではない。

 敵側、つまりアルヴェインもドラグスの戦いを見ていた。


「ドラグス! そんな小娘相手にいつまで遊んでいる、さっさと終わらせろ!」


 おれたちが心配しているうちに紫織とスライムたちは城壁の下まで追いつめられていた。

 もう逃げ場はない。

 いよいよピンチだ。

 勝利を確信したドラグスは凶暴な笑みを浮かべながら拳をかまえる。

 数秒後に紫織の顔はあの血まみれの拳でグチャグチャに潰されてしまうのだ。


 ―――そんな状況下なのに。

 紫織はなんとスライムの合体について話をはじめた。


「いろいろ頑張ってみたんですけど、スラちゃんたちが合体を維持できるのは十五体くらいが限界みたいで。それ以上はなにをどうやってもバラバラになっちゃうんですよ。種族限界っていうらしいんですけど」

「ア?」


 心の底からどうでもいいという顔で、ドラグスは紫織に歩み寄っていく。

 命の危機がせまっているのに、紫織はまだ話をつづけた。


「でもね、『維持できない』と『合体できない』は同じじゃなくって。ほんの数秒だけ可能なんです」


 紫織とドラグスの間で、二体の合体スライムがさらに融合していく。

 種族限界の十五体を超えた、さらに巨大な合体スライムに!


「キングをこえたキング、エンペラースライムと名付けました!」

『ピッピッピーッ!!!』


 皇帝《エンペラー》と名付けられた特大スライムがドラグスの身体を押す。

 これまでとは比較にならない強烈な圧力。

 えっでもいや、これだけじゃ足りなくないか……?

 ひと目見て力不足だと思ったおれの直感は正しかった。

 一時は押されたドラグスだったが全身に力を入れてその場に踏みとどまり、エンペラーの体内に両手を突き刺していく。


「ウガアアアー!!」

『ピーッ!』


 哀《あわ》れ。

 限界をこえて生まれたはずのエンペラースライムは悲鳴をあげながら真っ二つに引き裂かれた。

 二つに引き裂かれたエンペラーはドラグスの左右にくずれ落ちる。


「だ、ダメじゃねえかおい!?」


 絶望したおれは拳銃でドラグスの背を撃つ。

 だがあまりにも遠すぎる。

 一、二発は奴の背中に命中したがぶ厚い装甲にはじかれて無意味だった。

 ドラグスはこちらをちょっと見て笑う。

 残虐な笑顔だった。

 しかしそのちょっと奥に、似たような笑顔がもう一つあった。

 紫織だ。

 紫織がなぜか笑っている。人の悪そうな顔で。


「よけろドラグス!!」


 アルヴェインが叫《さけ》んだ。

 仲間に危機を知らされて、ドラグスは左右のスライムたちを見る。


「ちがう!」


 アルヴェインはさらに叫ぶ。

 しかし細かい指示を出す時間はなかった。


「上だーッ!!」


 ドラグスの頭上から緑色の奇妙な雨が降ってきた。

 雨はベタベタしていて、彼の身体にまとわりついてくる。

 これは雨ではない。スライムだ。

 紫織が作った人工色の美しいスライムではなく、濁《にご》った雑色の野良スライムたち。


「スライムがどうやって狩りをするか知ってますか? 木や岩壁の上にのぼって、獲物が下を通るまでじっと待ちつづけるんです」


 ドラグスは上を見る。

 そこには空をおおいつくすほど大量の野良スライムがいた。

 いや『いた』、というのは正確ではない。

 超大量の野良スライムたちが今まさに『降ってくる』瞬間だった。

 しかも途中で合体しながら。


「そして獲物が下を通った瞬間に上からドーン!!」


 野良スライムの群れは空中で超合体しエンペラースライムと化した。

 先ほどよりもさらに大量で巨大な、落下以外なにもできないような無理やりすぎる超合体。

 彼らは落ちることしかできない。

 だから落下地点に敵を誘導《ゆうどう》する必要があった。

 これはそういう作戦。


「目の前にいるスラちゃんたちで全部だと思いこんだのは失敗でしたね~? この地域ってスラちゃんたちの一大生息地なんですよ~?」

「ウガアーッ」


 ドラグスは逃げようとする。

 だがそれもできなかった。

 さきほど二つに引き裂いてやった合体スライムたちが左右からしがみつき、彼を逃がしてくれない。


「Q.E.D(証明完了)です」


 ドッゴオオオオオン!!!!


 上空から落下してくる巨大質量の直撃を受けて、『鉄角』のドラグスの肉体は圧壊《あっかい》した。

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