第94話 スライムたちの心意気
「おいおい紫織ちゃん無理するなって」
おれは当然の義務みたいな感じで彼女を止めた。
紫織だけでドラグスと戦わなきゃいけない理由がどこにある。
あんな血まみれのバーサーカー、全員でタコ殴りにしちまって構わないだろ。
だが紫織はムッとした不満顔で言い返してきた。
「無理なんかしてないです、私とスラちゃんだけのほうが戦いやすいから言ってるんです」
「いやしかし」
「ちゃんと仕込みしてありますから」
「えっ」
「やらなきゃ、みんなの想いがムダになっちゃいますから」
紫織の声に応えるように、スライムたちが一斉にピョンピョンはねて気合十分のアピールをする。
なにか作戦があるのか……?
「アリがあやしい動きをしてきたら、サポートお願いします」
敵が組織的な動きをみせたらそれは邪魔してくれ、みたいなことだけ告げて彼女は本当に行ってしまう。
「おいおい……」
「まあいいじゃない」
頭をかきながら「鉄男さんになんて言い訳しよう……」なんて考えていたところにジルヴァが話しかけてくる。
「あの子だっていつまでも人の後ろに隠れていたんじゃ一人前になれないわ」
「死んだら元も子もねーじゃん?」
「あんたが言っても説得力ないわよ」
むむ、おれは返答につまった。
痛い所をついてきやがる。
たしかに運が悪けりゃおれは何度も命を落としている。それくらい危険なことばかりしてきた。
「あの子たちの気持ちを汲んでやりなさいな。スライムってね、どう頑張っても一年程度しか生きられないのよ」
「そうなのか?」
「そう。今日この日を逃したら、同じメンバーが集まることなんてまず無いの。最初で最後の大集結なのよ。だからこんなにやる気なんじゃないかしら」
紫織の合体スライムが王様として集結を呼びかけたから。圧倒的な代表者がいたからこんなにも大量の仲間たちが集合できたのだ。
呼びかける強者がいなければいくら数がいてもバラバラに行動する個体にすぎない。
今この時にしか存在しない瞬間だから。
もう二度と戻ってこない一瞬だけの熱狂だと気づいているから。
だからスライムたちの戦意は高いのだ。
そうこうしている間に紫織とスライムたちは二人の天使と接敵してしまった。
まずは『緑風』のアルヴェインが悪意ある言葉をつきつけてくる。
「なんだ人間の小娘。そんな失敗作どもをゾロゾロと連れて、まさかそんなもので上級天使である我らに歯向かうつもりか?」
「スライムは失敗作なんかじゃない! ちゃんと完成された生命体だもん!」
紫織の左右にスライムたちが集結していく。
ボンッ!
という音とともにそれぞれ融合して、二体の大型スライムに変身した。
「フン、遊んでやれドラグス」
「ウオオオ!!」
『鉄角』のドラグスが勢いよく突進してきた。
防御など一切考えていない。
ただ走り、ただ拳を振り上げてくる。
「スラちゃん!」
「ピーッ!」
紫織の前に合体スライムの片方が立ちはだかる。
ドラグスの剛腕が合体スライムを一発で打ち砕いた。
だが砕かれた破片は一つ一つが小さなスライムにもどって、ドラグスの巨体にベタベタと張りついていく。
「ピーッ!」「ピピピー!!」
ベタベタベタベタとスライムが積みかさなっていきドラグスを飲み込もうとする。
だがドラグスもこんなことでは終わらない。
勢いよくその場で回転しスライムの群れを遠心力ではじき飛ばしてしまう。
「ウガーッ!!」
まさにダブルラリアット。PPP同時押しで出そうな力技。
しかし回転が終わった瞬間をねらって、もう一匹の合体スライムが体当たりをブチかました。
ドンッ!
巨体と巨体がぶつかり合う。
ドラグスの身体は三メートルほど後ろに飛んだ。
しかし、硬い装甲に守られたパワーファイターは、この程度ではビクともしない。
「ウオー!」
雄叫びをあげながらドラグスが突っ込んでくる。
さっきとまったく同じ展開。
紫織は刺した物体を宝石にかえる黄金の針を持っているが、よっぽど良い場所を狙わないとこの手の敵には刺さらないだろう。
一体どうするつもりなんだ。




