第93話 ウソもつくし隠し事もする。にんげんだもの。
おれたちは負傷者たちを戦線離脱させ、残りで逃げたアルヴェインを追った。
正直この選択が良いことなのかどうか、判断に迷う。
こちらも戦死者多数。鉄男さんも全身火傷で戦闘不能。かなりギリギリの状態だ。
アルヴェインは鉄男さんたちの故郷を知っているから、そして後々そこを襲いに来るかもしれないから、というのが追いかける理由。
逃げたのが他の三騎士だったなら。死んだマンティースや無関係のドラグスだったなら街の場所を知らないからサッサと逃げてしまうところなんだけど。
よりにもよってアルヴェイン。プライドが超高くて性格がクソ悪いあいつに逃げられてしまうなんてな。
やつは住民反乱がおこっている方向へ逃げていった。
例の城壁がくずれ落ちた場所だ。
あっちには三騎士の残り一人、『鉄角』のドラグスが戦っているはず。
ドラグスと合流してどうにかしようという考えか。
「あの……さっきの人、どうして女王様に助けを求めないんですかね?」
移動しながら紫織が素朴な疑問を口にする。
女王本人の力もさることながら、彼女のそばには護衛のアリ兵士たちが無傷のまま残されている。
たしかに助けを求めるのが合理的ではあるよな。
けどああいうタイプの男はそういう事をしないだろう。
「うーん、女の子にはそういうのピンとこないのかな」
「性差別ですか?」
「そういうんじゃなくてね。上司に弱みを見せたくないんだよ。プライド高そうでしょアイツ」
片腕をうしない死にかけた見た目で助けを請う。
そんな格好の悪い行為はどうしてもプライドが許さないんだろう。
強くて美形の騎士。王国最強の男。
そういう自分のイメージを大切に思えば思うほど、失敗した姿なんて見せられないんだ。
せめて勝ってから。
勝ってから怪我を見せるならいわゆる名誉の負傷ということにして威張ることができる。
なんなら死んだマンティースが足を引っ張ったせいでこんな事になったと言いわけをすることも出来るだろう。
とにかく今はまだダメなのだ。
なにか良い結果を出してから。
良い結果と一緒でなければこの姿は見せられない。
なぜなら自分を超一流の男だと思っているから。
超一流の男は失敗なんてしないのだ。
だから今はまだ報告するわけにいかない。
そんな感じの、見栄とか恥を気にしての行動だろう。
ということを紫織に説明した。
「でもそんなこと言ってる場合じゃなくないですか? むこうにしたらすっごいヤバい状況でしょ?」
「あいつも元は人間なんだろ。ミスもするしウソもつく愚かな人類なんだよ」
とにかくおれたちは住民反乱の現場に合流することとなった。
形だけみれば挟み撃ちということになるので悪くはない。少数精鋭にもほどがあるけどな。
住民反乱はすでに終わりかけていた。
戦場にころがる夥しい数の死体。
人も。アリも。とても数えきれない。
鮮血と謎の体液が大地をぬらし、とてつもない悪臭がたちこめている。
あまりの惨状に胃液が逆流してくるのを、おれは辛うじてこらえた。
その惨状の中央で吼えているのが最後の三騎士。『鉄角』のドラグス。
全身あますところなく鮮血に染まり、異常につりあがった左右の眼で新たな獲物を絶えまなく探している。
フーッ、フーッと荒い吐息をだす口から唾液があふれているのに拭こうともしない。
血に酔ってすでに正気ではなくなっているようだ。
血まみれの同僚が荒れ狂っているのを見下ろす位置に、片腕をうしなったアルヴェインが座っていた。
上から座して見下ろすその態度は『自分のほうが上官だ』と宣言しているようにも見える。
どこまでも傲慢なやつだ。
身構えるおれたちだったが、なんと紫織が一番前に立った。
「みんな戦いつづけてそろそろ限界ですよね? あのカブトムシみたいな人の相手は私とスラちゃんがやります」
そういって紫織はポケットから裁縫箱みたいな物を取り出すと、金色の針を出した。
ジルヴァの針ではない。彼女に錬金術を習いつづけて自作した、紫織自身の針だ。
「ピッピ! ピッピ!」
スライム軍団もピョンピョンはねて気合十分のアピール。
マジか。
ずっと後方支援メインだった紫織が、とうとう最前線デビューするって言いだしちゃったよ。




