第92話 両者の隠し必殺技
鉄男さんとアルヴェインの間に、激しい火花が散る。なんとも表現しがたい音も。
ガジュッ! とか。 ギシャア! みたいな。
他ではまず聞けないような独特の激突音が鳴り響く。
オーラの刃とレーザーブレード。
ぶつかりあう光と光。
まるでスターウォーズの世界だ。
「マンティース……役立たずのクズめ……!」
光剣の片方、『緑風』のアルヴェインはチラッと仲間の死骸に視線を送ってひどいことを吐き捨てる。
この男は本当に血も涙もない。
巧言令色すくなし仁という言葉があるそうだが(口がうまかったり見た目が良いだけの人間は思いやりの心がない、という意味)。
こういう野郎のことを例えた言葉だろうな。
アルヴェインは正面に向きなおり、レーザーブレードを中段にかまえた鉄男さんを見る。
「ハア……ハア……ハア……」
鉄男さんは苦しそうに息を切らしていた。
だがまだまだ闘志はおとろえていない。戦力充分だ。
アルヴェインは鉄男さんよりさらに元気だ。
基礎体力ではアルヴェインに分があるようだが、決定的とよべるほどの差ではない。
マンティースを失ったことで、やつはまた一対多の戦況になった。
「くっ」
アルヴェインの中に迷いの感情が芽生えた。
いつまでも倒しきれない鉄男さんの姿を面倒くさそうに見ながら顔をしかめる。
そして一歩引き下がる。
その一瞬の弱気を鉄男さんは見逃さなかった。
「イヤーッ!」
覚悟を決めた踏み込み。
殺すこと。
殺されること。
その他ありとあらゆる結果を受け止める、覚悟の突進。
あくまで剣士として挑んだ鉄男さんに対し、アルヴェインは今まで気配すら見せていなかった隠し技を使った。
「カアアアアッ!!」
アルヴェインの全身が緑色のオーラに包まれ、それが爆発した。
緑色の熱風が鉄男さんの全身を焼く。
鉄男さんはあお向けに倒れた。
「お兄ちゃん!?」
紫織の悲鳴を聞いて鉄男さんが身をおこそうとする。
だが彼が立ちあがるよりも早く、刃をかまえたアルヴェインがせまる!
「死ね! しぶとい虫ケラめ!」
光剣をのばした右腕を高々とかかげ、殺気だった笑顔で跳びかかった。
終わった。
おれはそう思った。
助からない、避けられないって、そう思ったんだ。
だけど思いもよらぬことが起こった。
鉄男さんの身体が不自然なほど素早く飛び上がり、高速回転している。
いかにも動きにくそうだった中途半端な姿勢からの超運動だ。
鉄男さんの身体が低空で冗談みたいにグルグル回る。手にレーザーブレードを握ったままで。
高速回転する光剣が振り下ろされてくるアルヴェインの右腕を斬り飛ばした。
「ギャアア!!」
絶叫するアルヴェイン。
鉄男さんは高速回転の影響なんてないかのように大地に立つ。
「お、おのれ、おのれー!」
アルヴェインはたまらず背をみせた。
空を飛んで逃げようとする奴を、鉄男さんは追撃しない。
数秒の隙はあったように見えたが、わざと見逃したのだろうか?
「鉄男さん!」「お兄ちゃん!」
おれと紫織が鉄男さんに駆け寄る。
様子がおかしかった。
目が血のように真っ赤に充血している。
鼻からも大量に血が流れ出した。
鉄男さんはそのまま前のめりに倒れていく。
「ちょっと、大丈夫ですか!?」
倒れる前におれたち二人で受け止める。
鉄男さんはグッタリとしていた。
「生きて、るよ……ひどい……が……」
弱々しい声が返ってきた。
いったい何がどうしたんだ?
なかばパニック状態のおれの頭、そこに脳内コンピューター『ノヴァ』からメッセージが飛んでくる。
『プレイヤー・カズヤ。『ベル』からの状況報告が届いています。今すぐ確認することを推奨いたします』
ベルというのは鉄男さんにまかせているレーザーブレードの発生元。
かつて南鞠勝さんの脳内に入っていた超小型高性能コンピューターのことだ。
とりあえずの危機は去ったので、すすめに従ってベルの報告を受け取る。
『ご主人様にご報告いたしま~す! 大原鉄男さまは緊急措置として『ベル』の必殺技『潜在能力解放』を使用しちゃいました~! ほんの数秒だったので生命への危険はありません! でもでもぉ~しばらく絶対安静にすることをオススメしちゃいま~す!』
……そ、そういやこういう口調のAIだったっけこいつ。
『潜在能力解放』って勝さんの全身をボロボロにした自傷奥義みたいなアレだろ。
さっきの不自然な回転攻撃の秘密は、そういうことだったのか。
アルヴェインを逃がしたのは意図があってのことじゃなく、身体が動かなかったからなんだな。
「無茶しすぎですよ鉄男さん」
「……あんな野郎に負けるくらいなら死んだほうがましさ」
敵の攻撃で全身に火傷をおった上に『潜在能力解放』で内部まで焼かれた彼。
しかしそれでも鉄男さんは笑った。
勝利の笑顔だ。




