第91話 華と生き、華と散る
「キシャアアア!!」
素顔をさらされ狂乱するマンティース。
『エリクサー』によって確実に大ダメージを負っているはずで、もはや正気とは思えない声を出しながら暴れ狂う。
「ギイイ、ガアーッ!」
レジスタンスの人たちも『エリクサー』つきの投げナイフで応戦する。
だがそもそもが格上の強敵。
そんな相手が防御を捨てて猛スピードで突進してくるというのは質が悪かった。
投げナイフが当たる。
当たるがしかし、そのたびに味方が斬られた。
四刀流の光剣が人体を次々と輪切りにする。
「シャアアアッ」
さらに光剣を虚空に振ると、光剣は高速回転する円盤のようになって襲いかかった。
四つも同時にはなったせいか円盤はコントロールが悪く、味方のアルヴェインにまで飛んでいく。
アルヴェインはもう少しのところで回避した。おしい。
「うおっ!? なにをやってる、ちゃんと狙えこの醜女が!」
「……ッ!」
味方からも罵倒されていよいよマンティースは精神的な居場所を失う。
アルヴェイン……こいつ血も涙も無いな。
泣いている女に追加攻撃とかするか普通?
それはともかく後先考えないマンティースの暴れぶりには対応しないといけない。
放置してもいずれは死にそうだが、彼女の中毒死を待っている間にこっちが全滅してしまう。
「……あたしがなんとかするわ」
あまり気の進まなそうな表情でジルヴァが前に出た。
「なんとかって、どうすんだ?」
「殺すしかないでしょ」
感情を押し殺した声でジルヴァは答えた。
「生きてることが幸せとはかぎらないのよ」
ジルヴァ一人が近づいていってマンティースの前に立つ。
マンティースは血走った眼でジルヴァをにらんだ。
「ギギ……奇麗な顔……」
鈍感なおれにもわかるくらい、すごい嫉妬と憎しみの感情があふれ出ていた。
「超級天使? 天才錬金術師? ハッ! あんたみたいな人にはこっちの気持ちなんて一ミリも分からないでしょうね! なんでも持っているような顔をして!」
やはり男を相手にするのと女同士が向きあうのではちがうようだ。
攻撃するのではなく、まず言葉が出てきた。攻撃的なものではあるが。
「なんとか言ったらどうなの! こんな化け物とは話す価値もないってこと!?」
「……あなた本当の名前はなんていうの?」
「は?」
「人間だった時、あなたはどういう人だったの?」
「………」
「昔はどんなことが好きだった?」
マンティースは少しのあいだ動きを止めた。
しかしいきなり猛然と襲いかかってくる。
「知らない! 知らない!」
悲鳴のようにそう叫びながら強烈に鎌をふってきた。
知らないというのは嘘だろう。
人間だった時の自分と、今の自分。
両方を思い浮かべて苦しみに耐えかねたのだ。
ジルヴァは背中から銀色の羽をのばし、超高速でマンティースの猛攻を回避する。
「ウウッ」
超級天使の圧倒的な速さにマンティースは翻弄された。
気持ちがどうであろうと彼女はすでに大きなダメージを受けている。格下ならまだしも、自分以上の相手と戦えるようなコンディションではなかった。
そして静かに針が突き刺さる。
マンティースの背に、小さな黄金の針が突き立った。
針の周辺から彼女の身体が変化していく。
色とりどりの宝石に。
「アアアアア!」
バタバタともがくマンティース。
しかし手の届きにくい背中。しかもドンドン身体が変質して動けなくなっていく。これは決定的だ。
「もういいのよ。休みなさい」
もがき暴れる彼女にジルヴァはおだやかに語りかける。
「あなたは十分に頑張った。もう頑張らなくていいの。悩まなくていいのよ」
やがてマンティースは動かなくなった。
動かないのか、動けないのか。
どちらなのか分からないが彼女はジルヴァを見つめる。
「もうお休みなさい。今のあなた、とても綺麗よ」
「私が、キレイ……?」
すでにマンティースの全身は宝石になりつつある。
キラキラと陽光に輝いていて、まぶしいほど美しかった。
「あなたの本当の名前、なんていうのか聞かせて?」
二回目の問いかけ。
一度は拒絶されたが、今度は答えてくれた。
「美華……美しい華って書いて、美華……!」
涙ながらに名前をいう彼女。
ジルヴァは微笑みながら黄金の針をかまえた。
「そう。眠りなさい美華さん。もう誰もあなたを苦しめたりしないわ」
黄金の針がカマキリの巨体に突き刺さった。
全身が宝石の塊になり砕け散って大地に降りそそぐ。
色とりどりの宝石が大地にひろがるその姿は、美しい花畑のようであった。
戻ってきたジルヴァにおれは声をかける。
「お疲れ。良いことしたなお前」
「安易にそんなことを言うんじゃないの」
労ったのに説教が返ってきた。
「そういうのは本人が決めることよ」
無表情にそれだけ言ってジルヴァはおれに背を向ける。
おれはもう一度、宝石の花畑を見た。
良いか悪いかは本人が決めること。たしかにそうだけど。
それでもおれはジルヴァが良いことをしたと、そう思う。




