第90話 仮面の奥にかくれた涙
戦いがはじまった。
敵は白兵戦主体の二人。
なら射撃が有効だろう。
おれはアルヴェインの心臓めがけて発砲する。
ギィン!
身をよじって回避しようとするアルヴェインの胸元に、弾は不完全ながら当たった。
だが弾丸は異様な音を出してはじかれ、あさっての方向へ飛んでいく。
服の内側には昆虫の外骨格がかくされていた。硬い装甲に防がれて致命傷をあたえられない。
「くたばれ人間!」
胸から血を流しながらアルヴェインは手刀をふる。
手からはなたれた緑色のオーラが高速回転する円盤になっておれに襲いかかった。
だがレーザーブレードをかまえた鉄男さんが間に入って緑色に輝く円盤を切り落としてくれる。
「大変な相手だが、やるしかないようだな」
「また貴様か!」
「どうやら俺たちは悪縁で結ばれているらしいな、アルヴェインさん」
「ぬかせ!」
低空飛行で猛然と突撃してくるアルヴェインの光剣を、鉄男さんのレーザーブレードが正面から受け止める。
光剣VS光剣の戦いが再びはじまった。
一方。
『白面』のマンティースはジョーさんたちレジスタンスのメンバーに素早く包囲された。
ジョーさんたちの手にはサバイバルナイフや包丁など、小型の刃物が握られている。
「フッ、そんなものでこの私に勝てるとでも?」
マンティースの声には余裕がある。白い仮面にかくされて表情は分からないが、きっと嘲笑を浮かべている。
彼女は左右の腕を広げ、カマキリが威嚇するのと同じポーズをとる。さらに胴体から左右一つずつ副腕がのびた。
合計四本。それぞれの腕から鎌状の光剣が発生する。
四刀流の昆虫姫。
どう見てもヤバイ敵だ。
だがジョーさんたちはさほど動揺した様子もなかった。
「攻撃開始!」
一斉に用意していたナイフを投げつけるレジスタンス。
マンティースはクルリと優雅に身をひるがえし四刀流でほとんどを打ち払ってしまう。
ただ一本だけ。一本のナイフだけが彼女のわき腹を浅く切り裂いた。
かすり傷だ。ほぼ意味はないと、おれはそう思った。
しかし。
「ウッ!? ギャアアアアアア!!」
マンティースは信じられないほど大げさに苦しんだ。
ただのかすり傷なのに。
「フフッ、痛いかいお嬢さん」
ジョーさんが次のナイフをかまえながら不敵を笑みを浮かべる。
「単なるナイフ投げなんかするわけないだろ? こいつにはあんたらの言う『毒』がたっぷり塗ってあるのさ。お前たちだけを殺す奇跡の毒がな!」
おれの『エリクサー』を塗ってあったのか! 道理で効くわけだ!
ジョーさんたちが再び包囲状態からナイフを投げる。
今度は全弾命中!
「ギャアアア……!」
思わぬ痛撃に膝をつくマンティース。
弱ったところに容赦ない追撃が襲いかかった。
チームの紅一点、ユイナさんがおおきな鉈を上段にかまえて勇敢にも、いや無謀にも? 突っ込んでいく。
「イヤーッ!!」
男顔負けの気迫で大鉈をマンティースの仮面に叩き込んだ。
「いっぺんその面見てみたかったのよねえ。どうせブッサイクな顔してるからそんなお面つけてんでしょ?」
嫌味たっぷりの笑顔でユイナさんは言う。
白い仮面がまっぷたつに割れ、マンティースの姿があらわになった。
だが。ユイナの笑顔は一瞬で消し飛び真っ青になる。
「ヒッ!?」
隠されつづけていた素顔を前に、短い悲鳴をあげる。
それはカマキリそのもののような顔だった。
しかし完全なカマキリともいえず、肌の色は人間とおなじ。そして目や耳、鼻など人間のパーツがあきらかにずれた位置にくっついていた。
お世辞にも普通とはいえない。ふた目と見れないほど醜い顔だった。
「みたな……!」
「い、いやそんな」
マンティースは恐るべき速さでユイナの首を切り落とした。
宙を舞うユイナの顔には恐怖、後悔、反省などの色がうかんでいたように思う。
悪ふざけとか冗談ですませられる範囲をはるかに超えていたのだ。
『白面』のマンティースがけっして白い仮面をはずさないのには、他人の想像をこえたふかい悲しみが隠されていた。
おそらく天使になるための合体儀式で事故があったのだろう。
やってしまったことを無かったことにもできず、彼女は一生そのまま仮面をかぶって生きるしか道がなかったのだ。
とりかえしのつかない悲劇を悪ふざけでさらされて、マンティースは逆上した。
「殺してやる、全員殺してやる!」
まるで『エリクサー』によるダメージなど忘れたかのような勢いで、彼女は人間たちを殺しはじめた。
瞳に涙を浮かべながら。




