第89話 天使製造プラントを破壊せよ
内部に潜入してからも少々ビックリするほどスムーズにおれたちは道を進んだ。
城内の構造を知っているジルヴァの案内があるとはいえ、ずいぶんと楽だ。
「ぜんぜん敵に出会わないな……」
「遠くで大騒ぎしてるからですかね」
もしかしたらこの城は、つまり『女王』アナスタジアの組織は、誕生してから初めて集団に襲われているのかもしれない。
そんな気がするほど、外の住民反乱に夢中になっている印象だった。
理屈の上では圧倒的な強さを誇るはずの女王の城だったが、支配者たちが経験不足だとこうもスキだらけになってしまうのか。
「はい到着、ここよ~」
先頭を行くジルヴァが立ち止まった。
目の前にあるのは工場を思わせる四角い建物……の上に無理やりお城っぽいデコレーションを乗っけた妙なデザインの建物だった。
「ここにプラントが?」
「ええ、うちらの基地にあるものよりずっと大規模なやつが三基も」
おれの基地にあるプラントはどうやら小型のやつらしい。地下にコッソリ隠してあったやつだから小さいのは仕方ないのかな。
「よし、行くぜ」
おれは皆に宣言して突入する。
突入方法はあきれるほどシンプルだ。
荷物搬入用のでっかい入り口があきっぱなしになっていて、見張りの兵もいない有様なのだ。
本当はここから巨大アリをつくるための死体や素材を運び入れるのだろう。大荷物を運び入れるために入り口もすごく大きい。大型トラックが入れるくらいはある。
そんな場所からおれたちは堂々と侵入した。
三つの大型プラントが並ぶ、まるで体育館のように大きな室内だ。
「動くな! 動けば撃つ!」
パン! パン!
おれは威嚇のために二発、天井を撃った。
銃を持った侵入者の登場に騒然となる技術者たち。
彼らも天使のはずだが、ワイシャツの上に白衣を羽織ったその姿は、人間に似すぎていてちょっと困る。
ただ肌の色がトマトみたいに赤かったり、ピーマンみたいに緑色だったりしたのはおれにとって救いだった。
外見までモロに人間だったら、おれのやっていることってヤバいテロリストでしかないからな。
こいつらは突然おこった住民反乱をさけて職場に閉じこもっていた労働者なんだ。
武器もない。力もない。戦意もない。
そんな無力なやつらに、おれは銃口をむける。
「動くんじゃねーぞ! 抵抗するやつは殺すからな!」
相手の外見が文化的だったからか、自然と口から甘いセリフが飛び出していた。
こいつらは天使であっても非戦闘員だ。
なら殺さなくても良いんじゃないか―――っていうのは甘い考えだろう。
わかっている。わかっているけど、おれはプロの殺し屋じゃないんだ。甘えさせてくれ。
「ジルヴァ、たのむ!」
「はいは~い」
ジルヴァが手をクルリとひるがえすと、いつのまにか指のすきまに黄金の針が数本はさまっていた。
一番近いプラントに針の雨を降らせると、大きな機械は無数の宝石となって砕け散った。
「もったいないけど、仕方ないわね~」
ジルヴァは心底もったいなさそうな顔でグチをこぼす。
これだけの設備があればきっとすごい味方が作れるのだろう。
だがここにあるのはあくまでも敵の設備だ。
自分たちのものにできない以上、壊すしかない。
となりのプラントにも彼女は針の雨を降らせる。
同じようにプラントは砕け散った。
「メ、メルクリウス様、『水銀』のメルクリウス様! どうしてこんな事をするのです! 女王陛下の許可は得ているのですか!」
ナスみたいな黒紫色の肌をした白衣の男が最後のプラントの前に立ちはだかる。
ジルヴァは針をかまえたまま、無表情に告げる。
「許可なんてとってるわけないでしょ。どきなさい」
「おやめください!」
男は退こうとしない。
どのような想いからの行動かしらないが、職場の重要施設を守ろうとしている。
ジルヴァの目が殺気でスッと細くなるのを見て、おれは男を横から蹴り飛ばした。
「どけっつってんだろこのアホ!」
男は無様に床を転がり、うめき声を出す。
おれが蹴らなきゃ間違いなくこの男は殺されていた。
ジルヴァの顔を見ると、彼女はあきれた顔で『甘い』と口を動かした。
うるせえよ。いいだろ別に。
障害物がなくなったところで三度目の針の雨が飛ぶ。
こうして施設内にあるすべてのプラントが破壊されたのだった。
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職員たちの嘆く声を無視して、おれたちは施設を出る。
あとは脱出するだけの予定だったが、残念なことに一組の男女が立ちはだかった。
『緑風』のアルヴェイン。
『白面』のマンティース。
三騎士のうち二人もご登場だ。
両者とも全身から闘志をみなぎらせ、あきらかな戦闘態勢。
「やってくれたな裏切り者め!」
「このまま生きて返すわけには参りません」
やれやれ、どうしても生きるか死ぬかの勝負をしないといけないらしい。




