第88話 スライム快進撃
スライム船にのって川下りをすること一時間強。
ついに『女王』の城が見えてくる。
近づくにつれてただ事じゃない騒乱の声が聞こえてきた。
「戦況、どうなってますかね?」
紫織がおれの横でコソっとつぶやく。
かつては普通の女の子だった彼女が『戦況』なんて言葉を使うようになってしまったことを少しさみしく思いつつ。
「どうだかね。人間の圧勝ってことはないと思う」
我ながらひどく淡白にそう言ってしまった。
戦争って夢とか願望が否定される世界なんだ。
アリだけなら普通の人間たちでもなんとかなるけど、三騎士は無理だろう。
『緑風』のアルヴェイン。
『鉄角』のドラグス。
『白面』のマンティース。
この三人を倒さないかぎり、反乱軍に勝利はない。
「あれっ、そういや『女王』アナスタジアって強いのか? おーいジルヴァ!」
おれは別のスライム船にのっているジルヴァに大声で質問する。
「えっ、知らな~い!」
身も蓋もない返事がきた。
「力仕事とか全力拒否するタイプだったからー、なんにもできないんじゃな~い!?」
「あてにならない貴重なご意見をありがとうよ……」
こんな楽観的な考えを採用するわけにはいかない。
何がおこるかわからないという心構えでいよう。
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おれたちは城で戦闘が継続されているさなか、ひっそりと上陸した。
「さてどうするんだいリーダー殿?」
ジョーさんがふざけた口調でおれのことをリーダーと呼ぶ。
「こっそり城に潜入して、敵の天使製造プラントを破壊したいと思います」
「製造プラント?」
「はい、そこを壊せば敵は戦力を増強できなくなります」
「……ちなみに、戦っている住民たちは放っておくのかい?」
「彼らが自分で始めた戦いでしょ」
ヒュウ♪ とジョーさんは口笛を吹いた。
おれの冷徹な判断が嬉しいようだ。
おれ自身としては、こんな部分を歓迎されても嬉しくない。
だけどこんな少人数で大規模戦闘に参加したって大した効果はない。少人数であることを活かして潜入し、敵の急所をつくほうがよっぽど良いはずだ。
おれの判断は間違っていない。
戦うことを住民たちが選んだ時点で、死人が出るのは避けられないことなんだ……。
おれたちは争奪戦になっている城壁の割れ目をさけ、裏へと回る。
予想通り警備は手薄になっていた。小さな勝手口の前には、二足歩行のアリ兵士が二匹立っているだけ。
おれたちは物陰から様子をうかがっていた。
「さてアイツらはどうしよう。なるべく音は立てたくないんだよな」
おれは自分の銃をさすりながら行動に迷う。
大きな銃声はできるだけ避けたい。
「こんなことなら基地からボウガンでも持ってくるんだったなあ」
矢の先端におれの唾でもつけて撃ち込めば、ザコ敵なんて一撃必殺だろう。
持ってこなかったことが悔やまれる。
「カズヤさん……前も同じセリフ言ってましたよね……?」
紫織ににらまれた。
「ボウガン持ち歩いた方がいいですよ、ホント必要ですって」
「ご、ごめん」
叱られてしまった。
でもなんかなー。銃があるのに弓矢ってムダな気がしちゃうんだよなー。
「しょうがない。あたしたちがやります」
紫織はそう言ってスライムたちに指示をだした。
スライムたちは静かに城壁にとり付き、スルスルスルーっと勝手口の上までたどり着く。
そしてその場で合体。
二匹の大型スライムに変身したスライムたちはアリ兵士を頭上から急襲する。
ドプン!
鈍い音をたててアリ兵士たちを飲み込む合体スライムたち。
敵はまったく抵抗できず動かなくなった。
「おおー」
「どんなもんです」
紫織はドヤ顔しながら門の前に立つ。
「スラちゃんたち、ドアの鍵をあけて」
『ピー!』
スライムはニュルっと身体を変形させて隙間から反対側に侵入すると、あっさり開錠してドアを開いてみせた。
「さっ、行きましょみなさん」
紫織は満面の笑顔。
言葉数は少ないが、渾身のドヤ顔だった。
スライムって思ってた以上にすごいかもしれない……。




