第87話 スライム船で出発進行!
「おっかえり~」
「おうただいま!」
隠れ家に到着したおれたちを迎えたのは、どこで手に入れたんだか水着姿でくつろいでいるジルヴァたちだった。
おれが川に入らなければ『エリクサー』の影響もない。
スライムたちも川にプカプカ浮かんでご機嫌の様子。
避難してきた人たちも河原でくつろぎ、釣った魚や手作りベーコンの残りを焼いて食べていた。
せっかくつかの間のレジャーを楽しんでいるところに申し訳ないが、街の情報を伝えないといけない。
「みんな聞いてくれ」
おれと鉄男さんは街で住民反乱が発生したことを皆につたえた。
きっかけはおれの『エリクサー』とジョーさんたちの裏工作だ。
いわば首謀者でありながら、おれたちは今、少しはなれた安全な位置にいる。
今この時が、先送りにしてきた決断の時だった。
住民反乱を放置して自分たちだけ帰るか。
それとも反乱に乗じて『女王』アナスタジアたちに打撃を与えるか。
今すぐ決めなければいけない。明日になれば反乱は鎮圧されているだろう。
『女王』たちが目の前の住民たちに気を取られている今がチャンスなのだ。
今、別方向から奇襲の一撃を叩き込めば、敵に大きなダメージを与えることができるだろう。
だがそれを実行すればおれたちも消耗する。
帰るのが大変になるかもしれない。最悪帰れなくなってしまうかもしれない。
どうすることが正しいのか、何度考えてもおれには分からん。
そしてそれはみんな同じらしい。
行くか。退くか。
断固たる決意をもって語れる人物は、この場に一人もいなかった。
「どうするみんな……」
我ながら情けない、弱々しい声でみんなに問いかけるおれ。
しかし誰も明確な答えをくれない。
重い沈黙を打ち破ったのは、空からの奇襲だった。
猛禽を思わせる俊敏さで何者かが急降下してくる。
地上に降り立ったのは緑色の肌をした美形の男。
三騎士の一人、『緑風』のアルヴェインだ。
突然現れた敵の姿に緊張がはしる。
とうとう見つかってしまったのだ。
「ついに動かぬ証拠をつかみましたよ『水銀』のメルクリウス様、いや裏切り者メルクリウス!」
アルヴェインの表情は怒りに燃えている。
口ぶりからすると前からあやしいとは思われていたようだ。
メルクリウス、つまりジルヴァは面倒くさそうにため息をついた。
「ここは川の上流、つまり最近の異常事態の原因は水だったのだな! 貴様が錬金術で調合した毒薬を流したせいで我々は異常をきたしていたのだ!」
「その回答じゃ40点ってところね」
ジルヴァは平静をよそおってそんな軽口を言う。
内心はかなり困っているにちがいない。
「ここから毒を流しつづけたって言うのなら、人間たちにまったく害がないのはどう説明するのかしら?」
「そんな説明など必要ない!」
アルヴェインはそう言い切って自身の手から光り輝く剣を発生させる。
彼は学者でも探偵でもない、騎士だ。
大切なのは敵を倒すことであって、原因を究明することではないらしい。
騎士は騎士らしく、剣で問題を解決するつもりだ。
「お命、頂戴する!」
光剣を振りかぶってジルヴァに跳びかかってきた。
しかしその前に別の光剣が立ちはだかる。
鉄男さんだ。
彼がレーザーブレードを起動してアルヴェインの一撃を受け止めていた。
バヂバヂバヂバヂ!!
光と光がぶつかり合い、周囲に火花を散らす。
「貴様、人間のくせに我が行く手を阻むか!」
「怯えて下を向いているだけが人間だと思うなよ」
アルヴェインの怒気と殺意の眼差しを向けられても、鉄男さんは動じない。
そのまま一撃。二撃。両者は光剣をぶつけ合う。
すぐに決着がつくほどの実力差はない様子だ。
……なら、卑怯者のおれが邪魔するぜ!
パァン!
銃声が鳴りひびき、アルヴェインのさらに後方にあった小石が砕け散った。
おれが銃で威嚇したのだ。
本気で当てようとすると鉄男さんに当たりかねないので、威嚇だけだ。
だが効果はあった。
横から狙われていると意識するだけで、敵は目の前の鉄男さんに集中できなくなる。
嫌がらせとしては充分だ。
「チッ!」
アルヴェインは忌々しそうにおれの顔をにらんだ。
卑怯者とでも言いたそうだが、こっちは騎士でも武士でもないんでね。名誉よりも仲間の命のほうが大切なのさ。
おれの意図を察してくれたらしく、仲間たちもそれぞれ武器をかまえてアルヴェインにむける。
一対多の不利を察して、アルヴェインは宙に飛び上がった。
「覚えておけ!」
捨て台詞を残して高速で飛んでいった。
小さくなっていくアルヴェインの姿を見て、緊急事態は去ったと一安心する。
しかし、今のやり取りで新しい問題が発生した。
「まずいよなあ、このままじゃ……」
「そうなのか?」
鉄男さんはまだ分かっていない様子だった。敵は追い払ったのだから良いじゃないかという表情。
おれは新しい状況を説明した。
奴にこちらの行動がバレた。
そしてアルヴェインは鉄男さんたちの街の在処を知っている。
このまま逃げたら、いつか軍勢を引き連れて復讐にくる展開が予想された。
その時、敵の軍勢は『エリクサー』によるダメージなどまったくなく、準備万端ととのった状態で攻めてくるだろう。
元々敵勢力はこの地から南下して関東地方全域を支配するつもりなのだ。
今日ここで恨みを残してしまった以上、あの街もかならず襲撃される。きっと勝率のおそろしく低い戦いになってしまうだろう。
そんな悲劇的な未来を予防する手段は、一つだ。
「行くしかねえな、こりゃ……」
将来の戦禍をさけるために、敵が弱っている今のうちに叩く。
これが最善だと思う。
選択肢に迷うことができる幸せな状況は終わってしまった。
今はもう、嫌でも血を流して戦うべき状況だ。
おれは仲間たちに以上のことを告げる。
人それぞれ思う所はあっただろうが、それでも戦うということで結論がでた。
「だけど、行くっていっても歩いて行ったら時間がかかりすぎでは?」
そんな意見がでた。
おれの愛車で運べる人数には限りがある。とても全員は運べない。
だが移動手段についてはすでに考えがあった。
「大丈夫大丈夫! こいつらを使って川下りをしよう!」
おれは元気いっぱいに川で遊んでいるスライム軍団たちを指差して笑った。
「ちょうどいい大きさの合体スライムを複数作ってボートがわりにするんだ。きっと下手な交通手段より早く着くぞ」
数分後。
戦闘準備をととのえたおれたちはスライム船にのって川を下り、戦場へ急いだ。




