第80話 新しい仲間たち
おれとジョーさんたちは酒場に戻り、一時間ほど話をした。
おれが体験してきたこれまでの短い人生の話だ。
『エリクサー』という超チート能力。
ジルヴァこと『水銀』のメルクリウスとの、曖昧な友好関係。
そしてここの支配者、『女王』アナスタジアが新しい戦争を始めようとしていることも。
『女王』が狙う土地は関東地方。
おれたちがかなり大変な思いをして活動してきた、思い出のたくさん詰まった土地だ。できれば放棄はしたくない。
ジョーは普通の人じゃない気がしたので、なにかが起こるかもしれないと思って伝えることにしたのだと。
「……」
カウンターで酒を飲みながら静かにおれの話を聞いていたジョーは、困り顔で頭をかかえてしまった。
他の客たち―――おそらくはジョーの仲間―――は表情を消してジョーがどういう反応を見せるのかを待っている。
やがてジョーは困り顔のまま口をひらいた。
「なあ、カズヤくん」
「はい」
「きみの人生、雑すぎない……?」
「そうですかね……?」
Z-ウィルスを生み出して世界を破壊した男、泉黄金。
その弟、泉銀二のオモチャとして作られた特殊能力持ちクローン人間がおれだ。
その銀二はすでに死んでるからおれにはもう負うべき義務も責任も存在しない。
そのくせ物質的にはチート級に豊かだから気安くホイホイ人助けをしながら気ままに生きていたら、『エリクサー』なんていう終末世界をぶっ壊せそうな超スキルに偶然覚醒した。
『水銀』のメルクリウスと仲良くしている理由も『たまたま出会って仲良くなった』だけ。
その他、ほとんどの行動が『なんとなく』とか『その場のノリ』だけで決定されていて人生の目標とか思想みたいなものは無い。
なんの組織にも所属せず、風のむくまま気のむくままに流されているだけ、っていうのがおれの人生だ。
……まあ確かに、雑な生き方かもしれんね。
「ってかこんな話をよく信じますね? ふつう疑いますよ?」
「ん? うん……」
ジョーは他のメンバーたちに意味深な視線を送った。
『彼に言っちゃってもいい?』
という心の声を聞いたような気がした。
仲間からの反対意見がない様子だったので、ジョーのほうも秘密を明かす気になったようだ。
「実はね、うちの組織にもいるんだよ」
「……だれが?」
「きみが」
「は?」
「まあ体重はきみの倍くらいあるんだけどね」
「???」
なに言ってんのこの人?
「うちの組織の幹部にもね、泉銀二のクローン人間が在籍しているんだよ」
「え!?」
さすがに驚いたね。
ガタンと音をたてておれは立ち上がり、ジョーを凝視する。
「おれ以外のクローンは全滅したって聞いたぞ!」
「めったに外に出ない男だからね、見つけるのは難しいだろうね」
ジョーは座りなおしておれに向き直る。
そして真面目な顔で自己紹介をはじめた。
「俺たちは東京を本拠地にしている抵抗組織の者だ。この地に潜入している理由はここの『女王』が戦力を大幅に増強して不穏な動きを見せているという情報をキャッチしたからさ」
「じゃあ、あんた達が『女王』に狙われているっていう政府残党軍……?」
「正確にはその一部だな。ちなみに残党っていうのは天使が言っていることで、俺たちは今でもちゃんと日本政府と名乗っているんだぜ」
「そうだったんですか……」
おれはてっきりこの国って完全な無政府状態になっていると思いこんでいた。
くじけず戦いつづけている人たちもいたんだな。
「カズヤくん、重要な情報提供に感謝する。これからも我々に力を貸してもらえないだろうか」
ジョーから差し出された手を、おれは自然と握り返していた。
「ならまずは予防接種ですね。ゾンビにならない身体じゃないと、戦うのも大変でしょう」
おれはいつものように指をちょっと切ってコップ一杯の水に血を一滴たらす。
「こんなもので……?」
ジョーたちは不信感アリアリの表情で血の混じった水を見つめている。
まあ生理的に気持ち悪いだろうし、作り方も簡単すぎるよな。
全世界を崩壊させた恐怖のZ-ウィルスが、こんなもんで治療&予防できるなんて普通信じない。
「もう百人以上の人に飲ませてますよ。効果は実証済みです」
「よし……」
決意の表情でジョーがコップの水を飲みほした。
他のメンバーたちもジョーにつづく。
プハッ、と息を吐き、ジョーはおれに言う。
「たしか血じゃなくても効果があるって話だったよな?」
おれはうなずく。
「つまりいちいち血を流さなくても、髪や体を洗ったりするだけで同じ効果の水が作れるんだな……。俺たち人間には奇跡の特効薬で、天使どもにとっては猛毒になる水だ……」
ジョーは腕を組み、目をつぶった状態で天をあおぐ。
一体なにを考えているんだ?
「きみの力があれば、ひょっとしたら戦争を止められるかもしれない。カズヤくん、きみは人類の救世主かもしれない!」
目を輝かせながらジョーは言う。
一体なにを思いついたんだ。




