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ゾンビだらけの終末世界でおれたちわりと無双界隈  作者: 卯月


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第79話 夢と幻のアリス

 ピンク色の髪をした少女がおれを見つめている。

 悪意も敵意もないあどけない表情。

 本当にこいつも超上級天使なのか?

 実はもっとヤバいやつがどこかにひそんでいるのでは?

 そんなことをゆっくり考えているヒマもなく、少女の後ろから新たなゾンビたちがワラワラと押し寄せてくる。

 のんきに観察している場合ではない。


「ちいっ!」


 襲ってくるゾンビの群れに対し、おれは銃を使わず素手で戦いつづける。

 この人たちはついさっきまで人間だったのだ。

『エリクサー』でZ-ウィルスを除去すればまだ助かる。

 だから厄介やっかいだけど銃が使えない。


「この、面倒な!」


 左右の拳でゾンビたちをぶっ倒す。

 時にはかれたりみつかれたりもしたが、それはむしろ敵のほうに大きなダメージを与えた。

 ある意味、攻防一体と言えなくもない。


「ふーん、不思議だねー?」


 少女は言葉のとおり不思議そうに首をかしげる。

 おれが傷つけられてもゾンビにならないこと。

 それどころかおれになぐられるとゾンビが人間に戻ってしまうこと。

 きっと人生初であろう謎現象を目撃して、少女はおれに近づいてくる。


「どうして?」


 次の瞬間、彼女の全身がピンク色のきりになっておれの身体を包みこんだ。

 あっという間に拘束されてしまう。


「あはっ、なんだかピリピリするよー」


 少女は上半身だけ人間の姿にもどって、うしろからおれに抱きついている。

 おれはすでにけっこう汗をかいているから全身『エリクサー』まみれのはず。にもかかわらず少女の感想は『ピリピリする』だけだった。

 やべえ、こいつ『エリクサー』が効いてねえ!


「どうしてお兄ちゃんは他の人とちがうのかなー?」


 霧が顔にまとわりつき、口を強引にこじ開けてきた。

 まずい、体内に侵入する気か!?

 それはたぶん結果的に死ぬやつだぞ!

 身動きできずあせるおれ。絶体絶命のピンチ。

 そこにケガ人の治療をおえたジルヴァが駆けつけてくれた。


「待ちなさいアリス! そいつはあたしのよ! 勝手なことしないで!」


 顔見知りの大声を聞いて、少女はピタリと動きを止めた。


「あーメルクリウスだーひさしぶりー」

「ええ。とにかくそいつを離してくれる?」

「いいよー」


 おれは唐突に解放された。なさけなく地面にへたり込む。

 視線を感じたので顔だけ上にあげると、アリスとよばれた少女がニコニコとした笑顔でおれを見ていた。

 直感的な恐怖心に、おれはふるえてしまう。

 こいつは悪意なしに人を殺すやつだ。

 小さな子供が昆虫をバラバラに引きちぎって殺すように、無邪気に人の命をうばう危険なやつだ。 

 

「アリス、城にいないと思ったらこんな場所にいたのね」

「うん! だってあそこつまんないんだもん!」


 アリスの態度は子供そのものだ。なんの思惑おもわくも感じられない。

 ジルヴァはチラッとおれを見たが、すぐアリスに向き合って少女の小さな手を取った。


「そうねぇ。あの城はたしかにつまんないけど、もう夜だから帰りましょう」

「えーつまんなーい」

「ここらの人間たちはみんなアナスタジアのものよ。手を出しちゃダメ」

「はーい」


 二人の超上級天使はそれぞれ羽を生やし空へ舞い上がる。

 飛び去る直前、ジルヴァはもう一度おれの顔を見る。


『後始末は一人で何とかしなさい』


 そう言われた気がした。

 とはいえゾンビ化した住人たちはもう全員人間に戻している。

 結果だけ見れば死人はゼロだ。

 これを勝利と考える人もいるだろうが、おれとしてはとてもそんな気にはなれなかった。


 あのアリスって化け物、全身をきりに変えて自由に動けるらしい。

 もしかしたら少女の姿はかりの姿で、もっと色々なものに化けられるのかもしれない。

 細かい霧の一粒一粒がそれぞれZ-ウィルスをまき散らすとしたら、やつの感染力は冗談ぬきで世界を滅ぼしかねないレベルだ。

 だって霧だぜ?

 家の中に引きこもっていたって通気口から楽々と侵入されてしまう。

 予防策は完全密閉された空間に一生閉じこもるくらいしかないが、それって現実的じゃないよな。

 事実上、あいつに狙われたらほとんど人生終了ってことだ。


「どうすんだあんなの……銃も剣も効くわけねえし、超高温で蒸発させるか、爆風で散り散りに吹き飛ばすくらいしか……」


 路上でブツブツつぶやきながら対策を練るおれ。

 するとうしろから声がかかった。


「あーカズヤくん、無事でなによりだ」

「ん? ああジョーさん! 会いたかったよ!」


 そこには左右の手に警棒らしきものを持ったジョーが立っていた。

 少しはなれた位置に店の客たちも並んでいる。

 ゾンビと戦うつもりだったのかもしれないが、もう遅いぜ。


「ひとまず礼を言ったほうがいいよな。あんたが街のみんなを救ったんだろ?」

「ああ。あんまりカッコよくはなかったけどな」

「ご謙遜けんそんを。ゾンビ化を治しちまうやつなんて生まれてはじめて見たぜ」


 ジョーの顔から、笑顔が消えていた。


「そろそろ化かし合いは無しにしようか兄さん。アンタいったい何者なんだ。いくらなんでも不自然すぎるぜ、あんたもしや人間じゃないんじゃないのか?」


『エリクサー』を見られた。

『水銀』のメルクリウスと一緒のところも見られた。

 どうやら彼とその仲間たちは、おれも上級天使かなにかだと疑っているらしい。

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