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ゾンビだらけの終末世界でおれたちわりと無双界隈  作者: 卯月


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第78話 エリエリのォピストルー!

『偽聖剣』たちの場外乱闘によって深夜の街は騒然そうぜんとなっていた。

 壊れた建物から生存者や遺体を救助する人たち。

 あるいは火事場泥棒かじばどろぼうのように盗みをはたらく者たち。

 強盗団と地域住民のあいだで殴り合いの大喧嘩おおげんかまで発生していた。

 支配者から無視された無法地帯ゆえに、こうなると収拾がつかない様子だ。


 おれたちは無関係の乱闘を避けて、ジョーに紹介された酒場にむかう。

 酒場のある廃ビルはさいわい無傷だった。


 カランカラン。


 ドアにくっついているベルが心地よい音を立てる。

 もう相当おそい時間、深夜と早朝のあいだくらいの時間だというのに、客の数はむしろ増えていた。街の騒動そうどうから避難してきた人たちなのだろうか。

 はじめてみる男女数名の視線が一斉におれたちに注がれて、ちょっと緊張する。

 ジョーの姿はなかった。

 おれはカウンターに立っているマスターに話しかける。店内にいる人の中で、顔見知りはこの人だけだ。


「ジョーさんはもう帰っちゃいましたか? ちょっと話したいことができまして」

「……どういったご用件で?」

「彼女からちょっと嫌な話を聞いて」


 マスターはおれの後ろにだまって立っているジルヴァの顔を見て、正確には彼女の銀色の瞳を見て、露骨ろこつに顔色を変えた。


 おや?


 ……おれたちはもうすっかり見慣れてしまったので気にすることも無くなっていたが、ジルヴァは特徴的な銀色の瞳をしている。

 珍しいからおどろくのも無理はないが、マスターの驚きかたはそれ以上のもののように感じられた。

 この人もしやジルヴァの正体、『水銀』のメルクリウスを知っているのではないか?


「少々お待ちを」


 マスターが驚いていたのはほんの一瞬。

 すぐに表情を消して彼は店の奥へ下がっていく。

 姿を消す直前、店内で酒と雑談を楽しんでいた客たちに意味深な視線を送るのを、俺は見逃さなかった。 

 どうやら客たちもまったくの他人というわけではなさそうだ。


「ねえお兄さんたち、そんな所に立ってないで一緒に飲みましょうよ」


 酔ったお姉さんが自分たちのテーブルにおれたちを誘う。

 ちょっとすさんだ雰囲気の、大人の女だ。

 洗練せんれんされていない少し品のない感じだが、むしろそれが魅力的に思える。

 テーブルの反対側に座っている男はムスッとして不愛想な、筋肉質の男。

 労働者というよりは、柔道家かプロレスラーという気配。

 他の席に座っている客たちも、疑おうと思えばいくらでも疑えるような気配を出していた。

 こいつら全員、店のマスターもふくめてジョーの仲間なのだろうか。


「じゃ、せっかくだから」


 おれたちは女の誘いにのって相席あいせきさせてもらう。

 女は陽気な態度でジルヴァに話しかける。


「あなたってすっごい美人ね。こんな奇麗な人はじめて見たわ」

「そうかしら?」

「うん。こんなシケた店にいるより、お城の(・・・)舞踏会でドレスでも着ている方がお似合いじゃないかしら」


 女は『お城』というキーワードをわざとらしく強調してみせた。

 この街で城と言ったら、『女王』アナスタジアが支配する城以外にあり得ない。

『アンタの正体には気づいているわよ』と、わりとストレートに言ってきたのだ。

 しかしジルヴァは女の先制攻撃を平然とやり過ごした。


「けっこう退屈なのよ、ああいう場所って」


 だからどうだって言うのよ。そんな言葉を匂わせてジルヴァは答える。


「……へぇー」

「ウフフ」


 女は笑っている。ジルヴァも笑っている。

 だがちっともさわやかじゃない笑顔だった。

 ギスギスした空気感がとても居心地いごこち悪い。

 ジョーさん早く来てくれー。

 おれがそう思って店の奥を見つめていると、逆に入り口のほうから別の男がドタドタと騒がしく駆け込んできた。


「た、大変だ! ゾ、ゾンビが出た! 助けてくれ!」

「なに!?」


 おれは店にいた誰よりも早く、反射的に立ちあがっていた。


「話がちがうぞ、ここにゾンビは出ないんじゃなかったのか!」


 誰にともなく不満を口にしながら、おれは店を出ようとする。ジルヴァもおれに続く。

 ところが。


「あんた達のせいじゃないの?」


 冷たい敵意のこもった声が、おれたち二人の背に突き刺さる。

 セリフを言ったのは女だったが、他の客たちも冷たい視線をむけているのは同じだった。


「あたしらは関係ないわよ」


 ジルヴァはそう言い捨てておれの背を押した。

 そうだ。こんなことを言い合っている場合じゃない。

 おれは店を飛び出し、地上への階段を駆け上がる。

 ビルの前は悲鳴であふれていた。

 路上で人間を襲う数体のゾンビ。悲鳴をあげながら逃げまどう人々。

 どこから侵入してきたんだとか、そんな推理は後回しだ。

 まずは目の前にいるこいつらをやっつける!


「ペッ!」


 おれは自分の拳にツバを吐きかけた。

 おれの体液は対ゾンビ特効薬『エリクサー』。

 こんな平凡なゾンビなんて相手にならんぜ!


「エリエリのォ……ピストルー!!」


 ただの右ストレートが一体目をブッ飛ばす。


「ウギャアアアア!」


 どうやら感染したてのフレッシュゾンビだったらしく、のたうち回りながら敵は人間にもどった。

 よっしゃ。これは楽勝ムードだな。

 おれは笑みを浮かべながら二体目にむかう。


「エリエリのォ……」

「ちょっと待ってカズヤ」


 なぜかジルヴァに止められた。


「そのエリエリは止めなさい」

「なんで?」

「なんかすっごくイヤ~な予感がするから! 思いもよらぬ方向性で大問題になりそうだから、それはやめて別のにしておきなさい!」

「えーべつにいいじゃん、オマージュ神拳ってことで」

「カ・ズ・ヤ!」


 本気でにらまれてしまったので、おれの新必殺技はたった一回で禁じ手となった。ちぇっ。


「おりゃー。とりゃー」


 気合のこもらないシケシケな声を出しながら、おれは無防備なゾンビどもをバッタバッタとなぎ倒す。つまらん。

 後ろではジルヴァが『エリクサー』入りのアルコールスプレーを犠牲者にぶっかけまくって治療していた。

 こっちも手間いらずでつまらん。


 おれたち強くなったなー。

 普通の相手ゾンビじゃもう勝負になんないわ。


 そう思って完全にナメていたおれ。

 しかし、こいつら実は普通のゾンビなんかじゃなかった。

 脳内に人工知能『ノヴァ』の音声が鳴りひびく。


『プレイヤー・カズヤ。おめでとうございます』

「へっ?」

『プレイヤー・カズヤの『エリクサー』レベルが3にアップいたしました』

「なんで!?」


 群がるゾンビどもをぶちのめしながら、おれのほうも多少のかすり傷くらいは負っていた。

 普通の人間なら大事件だがおれにはまったく問題ない。そう思って気にしていなかったんだが、なんでレベルがあがった?

『エリクサー』のレベルを上げるためには超上級天使がもつ特別強力なZ-ウィルスが必要なはず……。


「ノヴァ、どういうことだ?」

『プレイヤー・カズヤは正体不明アンノウンのZ-ウィルスに感染してしまいました。しかし体内の『エリクサー』がただちに反応しレベルアップにつながったのです』


 正体不明アンノウン!?

 じゃあすぐそばに正体不明のそいつがいるってことじゃねえか!?

 急に恐怖と緊張感が高まる。

 敵の姿を探すまでもなく、そいつは真正面からトコトコと歩いて姿をあらわした。


「お兄ちゃんはどうしてゾンビにならないのー?」


 外見は10歳くらいの、ピンク色の髪の毛をした女の子。

 なんの敵意も悪意もない顔で、ただ不思議そうにおれの顔を見ていた。

 まさかこいつが新たな超上級天使なのか。

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