第77話 なにがむむむだ!
急いでその場をはなれようとするジルヴァたちのすぐ後ろで、物騒な破壊音が鳴りひびく。
こっちの身の危険などおかまいなしで一人と三人の迷惑なやつらが戦いを始めてしまったのだ。
「走って! こんなことで死んだら人生大損よ!」
ジルヴァがそう叫ぶのと同時に、ほんの数秒前まで立っていた場所に人影が突っ込んでくる。
ドガシャーン!
壁をブチ破って飛び込んできたのは黒い甲虫の男、たしか『鉄角』のドラグスとかいうやつ。
「くうう、おのれーっ!」
ドラグスはさしてダメージを受けた風でもなく外へ飛び出していった。
彼が去っていったあとには粉々に破壊された壁の残骸などが散らばっている。
まるで等身大の鉄の塊がすぐそばを高速で行ったり来たりしたかのような。
モタモタしていたら彼の身体につぶされて即死だっただろう。危ないところだった。
「鉄男! どこか避難できる場所は!?」
「あ、ああ、俺が与えられた部屋へ!」
こんな危険な場所には一秒だっているべきじゃない。
四人は大急ぎで鉄男の部屋に避難する。
「ホンットなんなのあのバカたちは!」
部屋の中で一息つくと、ジルヴァはようやく怒りをあらわすだけの余裕を得られた。
「人がせっかく穏便にすませようとしてるってのに!」
「とんでもない強さだな、あの連中」
鉄男が厳しい表情で外の様子をうかがっている。
超上級天使一人 VS 上級天使三人。
彼らがぶつかり合う破壊力はもはや戦争のそれだった。
建物や人の命など巻き添えでどんどん失われていってしまう。
ただ戦場に選ばれたというだけの理由で破壊される。それが戦争のひどい所だ。
現に今、彼ら四人がぶつかり合い吹き飛ばされる余波で、城のあちこちが次々と破壊されている。
人間やアリの命も犠牲になっているかもしれない。
「は、早く逃げましょう、怖いですよこんな所」
紫織がみんなにそう伝える。
もっともな意見だが外の惨状を考えると、ちょっと判断に迷う。
「外に出るほうがむしろ危険だわ、今は」
窓の外では城壁の上部分が打ち砕かれ、ガラガラと落下していくさまが見えた。
痛んだ建物がいつくずれ落ちるかわからない状況。
もし瓦礫が頭に当たれば即死級の大ケガ間違いなしだ。
せめて朝まで。
明るくなって安全確認ができるようになるまでは、人間三人をここから出さないほうがいい。
ジルヴァはそう考えた。
「あっそうだわ。あんた達、いっそこの場で結婚しちゃいなさい」
「ええええっ!?」
突然の無茶に大声を出したのは、ジルヴァのいい加減さになれていない朱音だ。
鉄男&紫織の大原兄妹はさほど動揺しなかった。
「紫織と、えーとアカネだっけ? あんたら二人とも鉄男の嫁ってことしとけば、他の男から言い寄られることもないでしょ。とりあえずここに住んでなさいよ」
「い、いえでもあの、そんな急な……」
顔を真っ赤にしてしどろもどろになる朱音を無視して、ジルヴァは窓から外へ飛び出した。
すぐに水銀の羽をのばして空中に舞い上がる。
「あたしはちょっと外の様子を見てくるわ。大人しくしてんのよ」
外の戦闘はすでに城壁を飛び越え、場外乱闘と化している。
ひどい大騒ぎになっていた。
こんなバカ騒ぎで死人が出るなんてふざけている。助けられる命は助けなければ。
ジルヴァは銀色の羽を輝かせながらあっという間に飛んで行ってしまった。
「……ジルヴァにあんなこと出来るなんて知らなかったんだけど」
「ああ、俺も今日の昼間にはじめて見たんだ」
「結婚!? 鉄男さんと結婚!? こんな形で、ええ!?」
三者三様、精神状態はバラバラだ。
しかしとにかくこの場に残るしかなかった。
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「ってなことがあったのよ」
「そうか……大変だったな……」
おれはジルヴァの長い話を聞いてだいたい状況を理解した。
「天使軍ってさ、けっこう仲悪いんだな……?」
「自分勝手な奴ばっかりだからねぇ~」
自分勝手はお前もだろうが。
おれは心の中でそうつぶやく。
「それにしてもマジで戦争がはじまっちまうのか」
「ええ。だから早いとこ避難しないといけないわ」
「…………」
ジルヴァにまったく戦争を止めようという意識がないのを感じて、おれは不満に思った。
そりゃ難しいのは分かるよ。
複数の超上級天使&アリの大軍が相手だ。
おれたち個人の力でどうこうできるものじゃない。
けどなー。すべてを捨てて逃げるっていうのは、今まで命をかけて努力してきたことがムダになるってことだぜ。
簡単にあきらめきれるもんじゃねえよ……。
おれはふとある人物のことを思い出した。
日本国の復活を夢見ているジョーとかいう謎の男。
あの人に伝えたら、ちょっとくらい良いことが起きたりしないだろうか?
「ちょっと会ってほしい人がいるんだけど、頼めるか?」
「だれ?」
「なんかよくわかんないけど、日本を復活させたいとか言ってる人」
ジルヴァはおれをジロリとにらんだ。
「あのねえ、子供じゃないんだからあんまりヘンな人と関わっちゃダメよ?」
「そんなこと言ったらお前とも知り合いになれなかったし」
おれの反論に彼女は言葉を失う。
「むむむ」
「なにが『むむむ』だ」
華麗なる論破の結果(?)おれは再びジョーに紹介された飲み屋をおとずれることになった。




