第74話 傲慢の女王
以下はジルヴァから聞いた話。
ビューンと空を飛んでいっておれたちと別れ、城に無断侵入したジルヴァ。
すると即座に発見されて、アリと人間を足して二で割ったような二足歩行のアリ兵士が群がってきた。
「やっほ~あたしのこと分かる? ミチコに会いたいんだけど~」
といつものノリで話しかけるも、アリ兵士は最低限の知能しかないらしく対話不可能。
それどころか単なる侵入者とみなし彼女に襲いかかってきた。
そこでジルヴァは 仕 方 な く 反撃し五、六体を宝石の山に変えてしまう。
そしてホクホク顔……もとい命を粗末にしないため 仕 方 な く 宝石を回収していると次なる獲物……もとい警備主任に遭遇する。
「もし、そこのお方、もしや『水銀』のメルクリウス様では?」
話しかけてきたのは二足歩行のカマキリ人間だ。
顔は大きな白い仮面をかぶっており、まったく分からない。
仮面が邪魔をしているのか、濁った女の声を出してくる。
「ええそうだけど、貴女は?」
「申し遅れました。私は女王アナスタジア様をお守りする三騎士の一人、『白面』のマンティースと申します」
言葉づかいはまともだが、正体不明の仮面と濁った声がどうにも不安感を煽ってくる。
いつ両手の鎌で攻撃してきてもおかしくないような危うさを感じた。
「そう。それじゃあマンティース、あなたの女王様に会いたいんだけど案内してくれる?」
「うけたまわりました。しかし急のことですのでまずは別室にご案内いたします」
言葉どおりマンティースは豪華な一室までジルヴァを連れて行き、しばし待たせた。
そして荘厳華麗な玉座の間へと案内される。
「久しいなメルクリウス。息災であったか」
ムダに大きな玉座で傲慢にふんぞり返っている旧知の女を見て、ジルヴァはげんなりした。
なにが「息災であったか」だ気持ち悪い。
虚栄心にみちた巨大な玉座とこの部屋。
けばけばしいドレスと厚化粧。
クッソえらそうな態度とセリフ。
いい年ぶっこいてあまりにも拗らせすぎである。
おたがい元・人間として、たまらない恥ずかしさを感じた。『共感性羞恥』というやつだ。
「あのねえミチコ、そういうのカッコ悪いからやめなさいよ」
場の空気感を無視したジルヴァの発言に、『女王』アナスタジアのほうもヒクッ、と顔をしかめる。
「今の妾は『女王』アナスタジアであるぞ。貴様のほうこそいつまで前世にとらわれておるか。そろそろ己の立場をわきまえよ」
一人称が妾ときた。
言葉の端々からも異常なほど気取っていることがうかがえる。
どれだけ自分の心を見栄とウソで塗り固めているのやら。
いよいよ心の病は深刻だ。
「フーン、あたしとあんた、おかしいのはどっちのほうかしらね」
肩をすくめて冷笑するジルヴァ。
自分を侮辱するその態度をみて、アナスタジアの表情が硬くなる。
同時に周辺で整列していたアリ兵士たちが殺気だちはじめた。
一触即発かと思われたが、一人の男が鼻で笑うのをきっかけに危険な空気は消え失せる。
「フッ」
「あらジークじゃない、いつからそこにいたのよ」
「俺の気配に気づかないのは、この世でお前くらいだ」
男はべつに隠れもせず太い柱によりかかっていた。
同じ超上級天使、『偽聖剣』のジークだ。
やる気なさそうによりかかっていても、彼の全身からは恐ろしげな紫色のオーラがただよっている。
これに気づかないのはやはりおかしい。
「アリスもどこかにいるはずだ。あとで声をかけてやれ」
「ゲッ、あいつも来てんの! だったら来るんじゃなかったわ~!」
この場にはいないもう一人の超上級天使の名前も出てくる。
二人のあいだで会話の流れになってしまたので、戦闘が始まりそうだった空気はどこかに消えていく。
これで超上級天使が四人。
『水銀』のメルクリウスことジルヴァは違う理由で来たわけだが、それでも三人。
いったいどういう理由でここに集まっているのか。
「え~っとアナスタジアさん? こんなに集めてあんた一体なにを企んでいるのかしらぁ?」
話が先に進まないのであえてミチコとは呼ばずアナスタジアと呼ぶジルヴァ。
傲慢な女王は陰惨な笑みを浮かべた。
「このところ人間どもが少々浮かれておるようなのでな」
女王は右の手のひらを目の前に出し、それをギュッと握る。
「おのれの分際というものを分からせてやらねばならぬ。それこそが天使たる我らの崇高なる使命!」
つまり集めた軍勢で人間勢力に戦争を仕掛けると。
「曖昧ね。標的を具体的に言ってくれる?」
「東京の政府残党軍! ついでに関東全域を無垢なる更地にしてくれようぞ!」
ジルヴァの顔色がさすがに変わった。
関東全域。
それはつまり彼女がこれまで人間と共に歩んできた生活、そのすべてが破壊されるという意味だった。




