第73話 『偽聖剣』VS『三騎士』
その夜。
おれはもうすることがなくて愛車で車中泊をしていた。
ちなみに屋根上のキングスライムはなぜか少し小さくなっていたんだが、話しかけても「ピッ」しか言わないので何も分からない。
水分不足で弱っているという気配でもなかったので放置することにした。
寝ること数時間。だれもがすっかり寝静まっているであろう深夜のことであった。
ドズウウウン……!
はなれた場所から謎の破壊音が響いてきた。
火事や地震ではない。
もっと局地的な破壊音だ。
「なんだ!?」
おれは車から飛び出す。
さいわい今夜は月が明るい。
五十メートルほどはなれた場所からモウモウと粉塵が舞うのが月光にうつし出されていた。
近いような遠いような、微妙な距離だ。
確認しに行くべきかどうか迷っていると、おれが駐車している団地の屋上に人影が舞い下りた。
メタリックな翼をはやした、鎧姿の男。
凶悪なオーラを漂わせるその姿、見忘れるはずもない。
「『偽聖剣』のジーク!?」
おれの全身が戦慄し、緊張にふるえる。
まぎれもなくおれを半殺しにし、南鞠勝さんを再起不能にした超上級天使『偽聖剣』のジークだった。
この騒ぎはこいつのせいか。一体なにをしやがったんだと、やつの姿を見上げつづける。
すると屋上でたたずむ『偽聖剣』めがけて、二つの飛行物体が高速でぶつかっていった。
「ウオオオーッ!!」
ひとつはカブトムシのような甲虫型の天使。
名前はたしかドラグス。
「シャーッ!」
もう一つはカマキリのように鋭い二つの鎌を持つ天使。
あれ、ということはさっきの粉塵を起こしたのって……。
「ハアーッ!」
考えているヒマもなく、粉塵の中から緑色の色男が超高速で飛び出してきた。
アルヴェイン。
ここを支配する女王アナスタジアの騎士だ。
アルヴェインは右手から緑色に輝く光剣を生み出すと、やはり『偽聖剣』に斬りかかっていく。
「な、なんだ、仲間割れしてんのかよ?」
『偽聖剣』VS『三騎士』としかいいようのない光景が頭上でおこなわれる。
いつの間にかおれの周囲に人々が集まり、四者の争いを観戦していた。
『偽聖剣』が生み出す紫色の刃。
アルヴェインの緑色の光剣。
ドラグスの黒い拳。
そして名を知らぬカマキリの二刀流。
四者の武器がぶつかり合い、夜空にはげしい光彩をまき散らす。
こりゃたしかにイイ感じのエンターテイメントだ。
なんでこんな事になってんのか知らんけど、おれもつい夢中になって戦いを見上げてしまった。
そして二、三分くらいで決着がつく。
『三騎士』のほうが先にエネルギー切れをおこし、『偽聖剣』の凶悪なオーラの前に次々と叩き伏せられていく。
三人の昆虫型天使たちが地上に墜落してくるものだから、観戦していたギャラリーたちは蜘蛛の子を散らすように逃げまどった。
勝者の『偽聖剣』もゆっくり地上に降りてくる。
そして敗者たちに告げた。
「超上級を名乗りたいなら好きにするといい。大事なのは名ではなく中身だ」
三人の騎士たちは悔しそうに顔をゆがめる。
昇級テストみたいなものを願い出たということだろうか?
しかし負けて、それなのに勝手にしろと突き放されたセリフを言われてしまったと。
そりゃプライド傷つくし悔しいだろうな。ま、おれには関係ないけど。
「失せろ。衆人環視で恥をさらすこともあるまい」
「くっ……」
アルヴェインたちは傷ついた体に鞭うって城のほうに飛んでいった。
敗者が逃げ帰っていく様を見届けた『偽聖剣』のジークは、ほんの気まぐれなのか夜空の月を見つめている。
「『偽聖剣』……」
なんの気なしにつぶやいたおれの声を、本人が気づいてしまう。
「むっ、貴様は」
やべっ、目があった。
「貴様、もしやメルクリウスのそばにいた個体か? 殺したはずだが?」
「う、運がいいんだ、おれは」
ならあらためて殺そう、とか言われたらどうしようかと思ったが、幸いそんな事はなかった。
「フン、ならせいぜい意味のある生き方をすることだな」
超上級天使サマはおれの命なんぞに全く興味がないようで、翼を広げて帰る準備をはじめる。
「ただ飯を食い、水を飲んでいるだけでは生きていると言えまい。意味のある生き方をしろ。そのための命だ」
なんか癇にさわる言いかただったので、おれはつい聞き返したくなる。
「ならアンタは、アンタの命にはなんの意味があるんだ」
おれの言葉にジークは真顔になる。
そして曇りのない眼でおれを見つめた。
「俺の目的は最強になることだ。この世界で最強の存在になる。ただそれだけのために俺は生きている」
おそろしく単純。そして誰もが挫折する理想だった。
この男は『最強』という単純すぎる夢を追い求め、しかもかなり上位のところまでたどり着いている。
おれの胸中に敗北感のようなものが湧き上がった。だってそこまでの努力をおれはしていないからな。
そんなおれの存在などもはや気にもせず、『偽聖剣』は大空へ飛びあがる。
乱暴な飛翔の余波で周囲から悲鳴があがった。
「あの野郎、ちょっとカッコイイじゃねえか」
もうすでに『偽聖剣』の姿は見えない。すごい勢いで城のほうへ飛んで行ってしまった。
見えない後ろ姿をそれでも目で追っていると、入れ替わりに銀色に光る蝶がヒラヒラと飛んでくる。
やけにデカい蝶だ。よく見るとそれはジルヴァだった。
「みんな生きてるー?」
「ジルヴァー! 大丈夫だ! みんな無事だよ!」
他の人たちからしたら超上級天使を一晩で二人も見るなんて異常事態だろう。
ザワつく周囲をよそにジルヴァは着陸し、城で何があったのかを話してくれた。




