第71話 ホクトウのケンでバイオレンス
ジャミスとかいうウマ野郎が試験官だったせいでテストを受けることすらできずに追い出されてしまったおれ。
なら体力テストのほうを受けてみようかとも思ったが、すでに日が傾きはじめているというのに長蛇の列がつづいている。
こりゃ今日はもうムリだなと判断し再試験はあきらめることにした。
「困ったな……」
ジルヴァと鉄男さんは自分から城の中へ。
紫織は先に連れ去られてやはり城の中。
そしておれだけ城の外。
三人が城の中、とはいえこれだけ大きな城だ。合流しているとは考えにくい。
おれたちは敵の本拠地でバラバラになってしまった。
ソロプレイは久しぶりだ。
心細い思いをしながら、おれは薄暗い廃墟街の路地を歩く。
とりあえず昨日泊まった団地に戻ろう。
あそこに愛車がおいてあって、気まぐれをおこしてなければ例のキングスライムが屋根の上に居座っているはずだ。
車内の銃火器とスライムで戦闘力のほうはまあなんとかなるだろう。
あとはどうやって三人と連携して脱出するかだな……。
などと考えていると。
目の前を数人の男たちにふさがれた。
男たちはニヤニヤと悪意ある目つきでおれを見ている。
そして、後ろも同じように男たちがふさぐ。
「へっへっへっへ……」
なんかスキンヘッドの男が舌をベロベロのばしながらハンドポケットの姿勢で近づいてくる。
なんだあ? 強盗か?
まあ治安悪そうな街だもんな。
よく観察してみるとどいつもこいつもモヒカンだったりトゲトゲヘアーだったり、どことなく秘孔を突かれて死にそうなファッションセンスの野郎たちだった。
そういやここって位置的には東北地方になるよな、きっと。
『北東の県』。
そんなしょーもないフレーズが脳裏に浮かび上がった。
東日本大震災の時、ヒャッハーヒャッハー騒ぎながら募金や支援をしている露悪的な変人たちがそんなことを言ってふざけていたんだよな。
「へっへっへっへ……」
先頭の男は笑いながら手が届くほどの距離まで接近してきた。
問答無用で撃ち殺そうかとも思ったが、早まってはいけないよな。
ひょっとしたら日常的に「へっへっへっへ……」って笑いながら舌を出しハンドポケットで歩くのが好きな、善意ある普通の男性かもしれない。
99.9%そんなわけないけど。
「あーすいません。そこを通してもらえませんか?」
おれは0.1%の希望にかけて友好的に話しかけてみる。
しかし。
男はポケットの中から小さなナイフを取り出した。
ま、そりゃそうだよね。
おれは即座に懐のホルスターからハンドガンを抜き、ナイフ男の片耳を撃った。
パン!
裏路地に火薬の爆ぜる音が鳴り響き、ナイフ男が絶叫する。
「ギャアアア!」
耳をおさえてうずくまる男の頭部に裏拳を叩き込み、強引に道を開けさせる。
「ギャーギャーギャーギャーうるさいんだよ。発情期ですかコノヤロー」
泉銀二とは別の『銀さん』のセリフをパクりつつ、おれは前に進む。
他の男たちもそれぞれ釘バットとか鉄パイプとか、それっぽい武器を取り出して身構える。
しかしおれが空にむかって威嚇射撃をすると、とたんに怯えてしまった。
「はいはいみなさん、ボクタンは危険な凶器を持ってますよー。死にたくない人は道をあけてくださーい」
堂々とおれがど真ん中を歩いていくと、モヒカンたちは恐怖におびえあっさり道をあけてくれた。
どうやら弱者狩り専門のパーティだったらしい。
男の意地、とかプライドが許さない、みたいな理由で挑んできたりはしなかった。
「ひどい街だなあ」
路地を抜けた所でひとり言をいうと、物陰から思わぬ返事がきた。
「まあそう言うなって、住めば都っていったろ兄さん?」
おれはおどろき身を翻す。
そこにいたのは見覚えのある男性だった。
ここに到着した初日に声をかけ、情報提供をしてもらった男性だ。
男は危険な暴力シーンを目撃したばかりだというのに、不自然なほど落ち着いていた。
とてもリラックスした笑みを浮かべ、おれに話しかけてくる。
「兄さんあんた一体なにものだい? ずいぶん良いものを持っているじゃないか」
「語れるほどカッコいい身分なんて無いよ。あてもなくフラついている自由人さ。あんたのほうはどうなの? たしか漁師だって言ってたと思うけど、本当?」
「本当さ」
男は肩をすくめ、ふざけた笑顔でふざけた返答をする。
「親父は漁師だった。ガキのころに手伝いをさせられたことがあるよ」
「……今は?」
おれの問いにストレートには答えず、男は大通りの奥を親指でしめした。
「面白い話ってのは路上でするもんじゃない。いい店を知っているんだ、付き合えよ」
「いいよ、だけど条件がある」
彼は笑顔をくずさぬまま、スッと目を細めた。
こいつからはどことなく戦う男の匂いがする。
「どんな条件だい?」
おれはとぼけた表情でふざけ返した。
「酒は飲めないんでね、オレンジジュースで」
男はあんぐりと口をあけ、あきれ声になる。
「兄さん未成年だったの?」
「実はおれ自分が何歳なのか知らないんだ。へへっ」
捨てる神あれば拾う神ありという。
おれはこのうさん臭い男の誘いに乗ってみることにした。




