第66話 スライムが仲間になりたそうにこちらを見ている
紫織たちを連れ去ったアリ軍団を追いかけるおれたち。
行く先々で群れからはぐれた巨大アリに遭遇し、そいつらを蹴散らすたびに追加で余計な時間をくってしまう。
「ベル! レーザーブレード起動だ!」
『はぁいかしこまりましたぁご主人様♪』
非現実的な光剣を振るって敵をバッタバッタと斬り倒していくのはおれじゃなくて、鉄男さん。
緊急時なのでおれの物だからとかそういう遠慮はぬきだ。
ド素人のおれなんかが使うより、鉄男さんが使ったほうが圧倒的に強かった。
「くそっ、こんなことをしている場合じゃないっていうのに……」
アリの死骸を蹴とばして愚痴を言う鉄男さん。
さすがの彼も少々いらだっている。無理もない。
「行きましょう鉄男さん」
「わかってる!」
返答がいつもより荒々しい。
精神的にかなり追いつめられているかもしれないな。
おれたちはそれからも車で敵を追跡し、ときどき進路をふさいでいるはぐれアリを駆除し、また追跡し……という道程をくり返す。
途中から道がアスファルトで舗装されていない、オフロードに変わってしまう。
おれの愛車はオフロード向けの車だが、それでもスピードを落とさなくてはいけない。
「おいもっと飛ばせないのか!」
「無茶いわないでください!」
おれも知らず知らずのうちにいらだっていた。口から出てくる言葉がついケンカ腰になってしまう。
アリを退治し、悪路を飛ばし、アリを退治し、悪路を飛ばし……。
焦りでイライライライラしながらも、おれたちは突き進む。
しかし、自動車ではどうにもできない絶望的な状況が待っていた。
アリ軍団の足跡が、とある崖をまっすぐに降っていたのだ。
これはいくらなんでも自動車では真似できない。垂直な壁だって自由に歩けるアリだからこんなことができる。
崖の下を見ると細い川が流れていた。
川をはさんだ対岸は、逆に登らなければいけないほうの崖。
崖というか谷と呼んだほうが正しいのかもしれない。知らんけど。
にしてもまずいぞこれは……歩いて越えるのも困難だ……。
「の、ノヴァ、いい案はないか?」
困ったときのAI頼み。脳内コンピューターに救いを求めてみるが。
『これ以上おなじ道を追跡するのは困難と言わざるをえません。迂回路を検索いたしました。崖を降りるのではなく道にそって進んでください。時間ロスは最小限におさえられることでしょう』
「どれくらいのロスになる?」
『計算上3時間のロスが予想されます』
くっ……遅い……! 仕方ないことだが……!
『プレイヤー・カズヤとお仲間の皆さんは長時間のプレイでお疲れではありませんか。本日のプレイはここまでとして休憩なさってはいかがでしょう』
「そんな余裕があるわけねえだろッ!」
ああいかん。鉄男さんよりおれのほうが先にキレてしまった。
確かにおれたちは早朝から動きっぱなしだ。疲れている。
それは確かなんだ。だけど。
「カズヤ、あせってもいい事なんか無いわ。迂回しましょう」
「くっ……」
ジルヴァに声をかけられた瞬間、『お前はいつも気楽そうでいいよな!』なんてうっかり口に出しそうになる。
どうにかそれだけはこらえた。
「……行こう」
ヘタなことを言わないために、短くそれだけを仲間に告げておれは運転席にもどる。
その時だった。
車のボンネット上に、ボヨンと音をたてて何かが乗っかってきた。
「ピー! ピー!」
青いゼリー状の物体が身体をプルプルふるわせながら、ピーピーやかましく鳴いている。
「お前、紫織ちゃんが作ったスライムか?」
「ピー!」
なんでこいつがこんな場所にいる? 街に残っているはずでは?
「ひょっとして、アリにしがみついてここまで紫織と一緒だったのか?」
鉄男さんがそう言うと。
「ピー!」
スライムはそうだ。と言わんばかりに返事をした。
そして。
「ピッピ! ピッピ!」
なにかをおれたちに訴えかけている。だが分からない。
身体の一部をとがらせて、ある方角をしめしているようだ。
「あっちに行けって言っているんじゃないかしら? 行ってみましょうよ」
幸いスライムが示した方角はこれから進む迂回路の先だった。
おれたちはスライムをボンネットに乗せたまま車をすすめる。
「ピーッ!」
スライムが鳴きながらしめしたそこは河原だ。そして見るからに川の水深が浅くなっている場所があった。
「見て、あの子たちアリと戦っているわよ!」
河原の一角で数匹のスライムと一匹の巨大アリが格闘していた。
すばしっこくピョンピョン飛びまわる色とりどりのスライム軍団に翻弄され、アリは混乱している様子。
しかしスライム軍団も攻撃力が低すぎてろくにダメージを与えられないようだ。
そこへ。
「ピーッ!!」
おれたちを連れてきたスライムも仲間のもとへ合流する。
おや……スライムたちのようすが……?
ボンッ!
なんとスライムたちは合体して巨大な一匹となった。
「合体しやがった!?」
アリと互角の巨体になった合体スライムは、上からドスンと乗っかってアリの全身を飲み込んだ。
アリは少しの間もがいていたが、こうなってはどうしようもない。すぐに動かなくなった。
おれたちは大きなスライムがアリを捕食するさまを、ただぼう然と見つめるしかない。
「紫織ったら、こんなことするためにやたらスライムばっかり作ってたのね」
「まったくアイツめ」
鉄男さんはまるで毒気を抜かれてしまった表情になってしまい、川まで歩いていく。
そして冷たい川の水でバシャバシャと顔を洗うと、スッキリとした表情でおれたちに言った。
「この川を渡ろう。渡ったら、今日はもう休もう」
「えっでも」
「空を見ろ、もう日が暮れる。限界だ」
言われるまで気が付かなかった。
すでに空は茜色に染まっている。
まるでブラッドオレンジのように赤い太陽が、山の稜線に沈もうとしていた。
時間を忘れてしまうくらいおれは焦っていたんだな。
街灯もないこの時代。真っ暗な山道を突っ走るなんて自殺行為だ。
今日はここまでにするしかない。
おれたちの車は浅瀬を渡って対岸に移動。
その場で野営することにした。




