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ゾンビだらけの終末世界でおれたちわりと無双界隈  作者: 卯月


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第64話 緑色の美形

 北の街はずれは生々しい戦災のあとが残されたままになっていた。

 破壊された街並まちなみ。

 におうような鮮血のあと。

 そして敵の死骸しがい


「こいつか」


 おれたちは瓦礫がれきにつぶされて圧死あっししている巨大アリを発見した。

 なんとなくいきなり手で触るのは気が引けて、くつでゴンゴン蹴ってみる。


かたい……、けど金属ほど硬くはなさそうだ。そのぶん軽くて動きやすい感じかな」

「ああ、こいつが自動車みたいな勢いで突っ込んでくるっていうのは、かなり厄介やっかいだな」


 第一印象を語るおれに対し、鉄男さんはもう戦いかたを考えているようだ。

 

「まずは自由に走らせないような工夫が必要かな。動きを止めてしまえば案外、ハンマーとかで頭をぶっ叩くだけでも殺せるかもしれない」

「戦国時代のお城みたく道路を曲がりくねったものに作りなおせば……?」

「そんな時間と人手があれば苦労はないんだがな」

「そっか」


 おれのオリジナルである泉銀二いずみぎんじの記憶が脳内にひろがる。

 観光旅行でどこかの城を見てまわったことがあるようだ。

 やつは不自然に曲がりくねった道とか、不揃ふぞろいな石階段などを体験して不便だなと感じたらしい。

 銀二はその時『昔のことだから技術力が低かったんだな』と思った。

 しかし事実はその真逆まぎゃく。技術力はむしろ高かった。

 侵略してくる敵が大変なように、わざわざ動きにくく作ってあるのだ。

 ムダに時間とエネルギーを消耗しょうもうするよう作られた不便な道。

 ノロノロと行軍している敵にむかって、守備側は弓矢鉄砲を嵐のように浴びせてダメージをあたえるわけだ。


「そんじゃあえっと、さ、さ、逆茂木さかもぎ……? とかいうのを」

「結構くわしいんだな」


 うろ覚えの知識を披露ひろうするおれ。鉄男さんは苦笑した。

 逆茂木さかもぎっていうのは木を切り倒して敵の進路をふさぐ障害物のことだ。

 枝や葉っぱが敵を妨害し、行動を遅らせることができる。

 これなら割とすぐにできそうだし、敵を自由に走らせないという目的にも合致がっちするぞ。


「ねえちょっと」


 おれたち男二人が歴史のロマンについて語りあっているところに、ジルヴァが口をはさんできた。


「そういう話の前にね、カズヤ、ちょっとこいつの外骨格にツバはいてみてよ」

「ツバ? なんで?」

「あんたの『エリクサー』が通用するかどうかためすのよ」


 なるほど。おれの体液はZ-ウィルスを破壊する『エリクサー』だ。

 そしてZ-ウィルスそのもの以外にも効果を発揮する場合がある。

 おれはペッ、とアリあしにツバを吐きかけた。

 そして一分くらい時間をおいてから、靴底くつぞこで踏みつけてみる。


 バキッ!


「おっ!?」


 ツバを吐きかけた部分があきらかにもろくなっていた。

 

「いけるぞこれ!」


 単純に喜ぶおれとジルヴァ。

 しかし鉄男さんだけは少しシリアスな顔になり、ジルヴァに聞く。


「なあジルヴァさん。あなたはどうしてここまで俺たちに良くしてくれるんだ。昔は敵側の人間だったんだろう?」


 おれたちをつつむ空気が一瞬で重く冷たいものに変わった。

 こういう空気になるのが分かっていたから、おれや紫織が深く突っ込んで聞けなかった話だ。


「あなたには本当にすごく感謝しているんだ。ありがたすぎて、なんていうか、どうしてそこまでっていう気持ちで」

「……もっともらしい理由なんてないわよ」


 ジルヴァは、いや超上級天使『水銀のメルクリウス』は、長い髪をかき分けながらそう言う。


「とあるお節介せっかいなジジイが『人殺しより楽しい生き方を教えてやる』なんて言い出してね」


 すぐさっしがついた。

 それは錬金術研究所の先代所長・南鞠みなみまりまさるさんのことだろう。

 過去を思い出す彼女の表情は軽い笑みを浮かべていた。

 そして口を開くが――――――。


「そのお話、ぜひ私にも聞かせていただきたいですね」


 気取った口調の男の声が、おれたちの心を厳しい現実世界に引きもどした。

 三人同時に戦闘態勢になる。


「水銀のメルクリウス様とお見受けいたします。なぜ人間などとおたわむれになっているのです? 高貴なお方にはいささか似つかわしくないご趣味かと」


 そこに立っていたのは、緑色のはだをした美形男子。

 そいつの背中には大きな昆虫こんちゅうの羽がはえていた。

 そいつの頭には二本の触角がはえていた。

 そしてそいつの笑顔は、おれたち人間に対する敵意と侮蔑ぶべつゆがんでいた。


 こいつがこの街を襲う敵か。

 警戒するおれたちに対し、緑色の昆虫男は悪意ある笑みを浮かべている。

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