第63話 墓の前でなにを想う
こんな時代なので大原家のお墓参りは質素なものにするしかなかった。
そもそもお寺にお坊さんがいない。ゾンビにやられてすでにお亡くなりになってしまったそうな。
いわゆる廃寺ということになるのだろうか。後継者もおらず放置されていた。
お花屋さんもないからお供えの花も買えない。
すぐ近くにきれいな小川があったので水は手に入った。
布巾くらいは家から持ってきたので、お墓の掃除だけは一生懸命やって、花のお供えはなし。
その辺に咲いている草花はあるけど、そんなのちぎってお供え物にするっていうのもな。
一番大事なのは心とはいえ、やはりさびしいものがある。
墓の前でしゃがみ手を合わせている大原兄妹のうしろで、おれも手を合わせてご両親に祈った。
(はじめましてカズヤと申します。鉄男さんと紫織ちゃんにはいつもお世話になっております)
もちろん返事はない。二人にはあったのかな。
楽しいお墓参りなんてものはありえないけれど、それにしても終末世界のお墓参りというのは予想をこえてあまりに空虚で。
心のエネルギーがプシューって抜け出て行ってしまうような、そんな静かな悲しみを感じずにはいられなかった。
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墓参りの次は情報収集だ。
藤堂道場に行くとここの一人娘、朱音さんが家の前で待っていてくれた。
「お待ちしていました!」
おれたちの姿を見て、特に鉄男さんの顔を見て朱音さんの顔がパアっと明るくなる。
「みなさんすでにお待ちです」
今日は道場ではなく母屋のほうに通される。
りっぱな畳敷きの広間に年若いお嬢さんたちと、彼女たちの親世代の男女が十数人座っていた。
紫織ちゃんや朱音さんのお友達と、すでに誘拐された子供の親たちだ。
他にも被害者がいるかもしれないが、一日で集めてくれた人数だと思えば十分すぎるだろう。
以下は、被害者から得られた情報。
・敵は一か月に1、2回くらいのペースでやってくる。
・敵の主力は2メートル以上ある蟻の化け物。
・一人か二人、人と蟻が合体したようなボスっぽいやつがいて指揮をしている。
・敵は北にむかって帰っていく。
・ボスっぽいやつらが「楽園に連れて行ってやる」とか「楽園の新たな住人だ」などと、『楽園』というキーワードを口にしていた。
「フーン、楽園ね……」
一人つぶやきながら得られた情報を反芻するおれ。
そのボス蟻の言い分だと生きている可能性は十分にある。人間の姿で生きているとは限らないが。
その『楽園』という、おそらく敵の大規模な支配地に連れていかれ、『何か』をさせられていると考えるのが妥当か。
敵がウジャウジャいる街まるごと一つを相手にするとなると、おれたちだけじゃとても手が足りないぞ……。
「あの」
腕を組んで考えこんでいるおれに、一人の中年男性が話しかけてきた。
「息子を、助け出していただけるのでしょうか。あの子はまだ八歳だったんです。まだきっと生きているはずなんです。どうか、どうか……」
「最善を尽くします」
まかせておけ、と断言できるほうがカッコイイんだろうけど、そこまでおれは傲慢になれない。
まだまだ情報不足だしな。
「相手の強さとか知りたいんですけど、ぶっちゃけどんなもんなんですか? 硬さとか、速さとか」
「いやそれはもう。まるで自動車が突っ込んでくるような感じで……!」
男性は身震いしながらそんな風に語る。
高さ二メートル級のアリが全力疾走してきたらそんな印象になるか。
こりゃ正面衝突はムリだな。一瞬で死にそうだ。
「硬さとかは? それも自動車なみですか?」
「いやおそらくそんな感じではないかと……」
無理もない事だが曖昧な話しか聞けない。
もうちょっと詳しく知りたいなあ。生きるか死ぬかの問題だし。
ちょっとおれが困っていると、鉄男さんが助け舟を出してくれた。
「敵の死骸とかが見れる場所はないか? 一匹も倒せず一方的にやられているわけでもないだろう?」
「あ、それなら北の街はずれにいけば」
おれと鉄男さんは同時にうなずき、顔を見あわせる。
「百聞は一見に如かず」
「だな」
男二人、同時に立ちあがる。ジルヴァもそれにつづく。
しかし紫織は座ったまま立たなかった。
「私は、もうちょっとここにいようかな」
友達たちとの関係回復に挑戦してみよう。
そういう顔をしていた。
最近ちょっと情緒不安定になっていたけど、やっぱりこの子は真面目な努力家だ。
「そうか、わかった。おれたちだけで行ってくるよ」
おれたち三人は情報収集のため北の街はずれに行くことにした。




