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ゾンビだらけの終末世界でおれたちわりと無双界隈  作者: 卯月


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第62話 スライムモーニング

 翌朝。

 腹の上でなにかがピョンピョン飛び跳ねている。

 蓄積ちくせきされていくボディブローの苦しみでおれは目覚めた。


「ピキー! ピキー!」


 ボヨン! ボヨン!


「んあ……なんだよもう朝か……」


 まだ眠い。昨夜紫織と長話をしたせいで、あの後なかなか寝付けなかったのだ。


「ピー!」

「ああわかったよ……」


 おれの上でプルプルふるえてうるさい声を出しているのは、紫織が大量に生み出したスライム軍団の一匹だった。

 こんなの戦力になるとも思えなかったんだが、彼女がゾロゾロ連れてきてしまったんだよな。


「ピッピ、ピッピ」


 早く起きろと言っているようだ。

 しかたなく眠い目をこすりながら起床きしょうすることにした。

 廊下ろうかに出ると、にわで木刀をふっている鉄男さんに出会う。


「おう、おはよう」

「おはよーっす……」


 ゾンビのようにノタノタとした歩みでリビングに行くと、紫織とスライムたちが部屋の掃除そうじをしていた。


「おはよー……」

「あっおはようございまーす!」


 紫織は早朝だというのに元気な返事を寄こす。

 昨夜の会話などまるで存在しなかったかのように元気いっぱい、バタバタと動きまわっていた。

 紫織のまわりではスライムたちが、積もり積もった床や家具のホコリを溶かして吸いこんでいく。

 スライムたちが通過した箇所かしょはツヤツヤのピカピカだ。

 意外と便利な奴らだなー。壁や天井にも貼り付けるから、ルンバより数段優秀だ。


「あのー、こいつに起こされて来たんだけど」


 おれは自分を叩き起こしてくれた一匹を指さして紫織に言う。


「アッはい、そこの寝坊助ねぼすけがいると掃除できないんで、移動してほしくって」


 なんのこっちゃ、と彼女が指さす『そこ』とやらを見ると、毛布にくるまった等身大の丸い物体がころがっていた。

 もしかしなくてもジルヴァだなこれは。

 スライムたちが意外と便利な奴らなら、こっちは意外と不便なやつだ。

 超上級天使『水銀のメルクリウス』であるこいつは、スライムたちにとって怖すぎて近づくこともできない存在らしい。だからおれにしたように体当たりで起こすという事ができない。

 しかし紫織がすろうが何しようが起きないのはルームメイトとしてとっくの昔に経験済み。

 そこでおれたち(・・)を呼ぶことにしたらしい。


「おい、なんだなんだ?」

「ピー!」


 我がチームのもう一人の男、鉄男さんもいいタイミングでスライムに連れて来られた。


「なんだ一体?」

これ(・・)を他へ移動してほしいそうです」


 ジルヴァ入りの丸まった毛布を指差すと、鉄男さんもやれやれとため息をついた。

 彼女は高身長の成人女性だが男二人がかりならさほど重くはない。

 日当たりのよいまぶしい場所に置いておけば目覚めるのも早かろうということで、廊下ろうかまで運んでころがしておく作戦をとった。


 くかー。と寝息を立てながら能天気な寝顔をさらしているジルヴァ。

 彼女を二人がかりで運びながら、おれは鉄男さんに自分の想いを語る。


「おれ、自分ではかなり冷めてる男だと思ってたんですけど……、コイツ見てるとそれでも女に幻想げんそう抱いてたんだなーって気づかされるんです」

「ふうん?」

「なんかこう、女ってナチュラルにありのままで男よりしっかりしているもんだって、そう思いこんでいたみたいなんですよね」

「あーはいはい。母親以外に女がいない家庭のあるあるだ、それ」

「そうなんすか」

「ああ、ある程度成長した女しか見てないからそう思うんだ。しかも学校とか会社みたいな外の空間で出会っているわけだろ? 家の中で楽にしている姉とか妹を見ていたらそんな勘違かんちがいはしない」

「なるほどー。女側も似たような勘違いってあるんですかね?」

「かもな」


 おれたちはゆっくりとジルヴァを寝かせて、同時にフーッと息をつく。


「さて、今日の予定はどうなっているんです?」

「とりあえず両親の墓参りだ。そのあと被害者に会って情報収集をしておきたい。敵を知り己を知れば、っていうだろ」


 有名な孫子の一節だ。敵を知り己を知れば百戦危うからず。

 事前に知らされている情報では大きなアリみたいな何かに若者がさらわれていく、っていう話だった。

 そいつらがどのていど強いのか。

 どのていどの数がいるのか。

 さらわれた人々はまだ生きているのか。

 調べて分かることならどんなことでも知っておきたい。


「うーん……」


 話し合っているおれたちの足元で、ジルヴァが寝息をたてながらモゾモゾ姿勢を変えている。まだまだこの寝坊助ねぼすけは起きそうにない。


「とりあえずこの人が起きてからだな」

「はい」


 たがいに顔を見あわせて笑う。


「ところで、道場にはいかないんですか? あそこのおじょうさんがきっと会いたがっていると思いますよ」


 めずらしく鉄男さんの顔がポッと赤くなった。


「誤解しないでほしいんだが。彼女は師匠の一人娘で、いわゆる妹弟子というだけだ」

「でも、彼女はあなたに会えてとっても嬉しそうでしたよ。おれそういうことは分かるんです」


 おれはアゴに手をあて、キメ顔を作る。


「人の心は分からないんですが、頭の中は読めるんですよ、おれ」

「迷惑な男だな……」


 鉄男さんに軽くにらまれてしまった。

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