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ゾンビだらけの終末世界でおれたちわりと無双界隈  作者: 卯月


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第60話 剣で語りあう漢たち

 鉄男さんと藤堂先生による師弟対決。

 剣道に関してはド素人のおれによる見解は……『速すぎてよく分からない』というふたもないものだった。

 動いた、と思ったその時には行動がもう終わっていて、次の段階に進んでいる。

 まるでボクシングの軽量級タイトルマッチのような速度。

 たがいの竹刀しないが軽く面や小手をこすった程度では一本にならないらしく、『今の決着では?』とおれが思っても両者の戦いはつづく。


「キエエエエエ!」

「キェアアア!」


 両者からはなたれる怪鳥のような気合。

 声の出し方が似ていて、いかにも師弟なんだなあと思わせる。


 パン! パン!

 竹刀と竹刀がぶつかり合うかわいた音が響きわたる。

 やはり速すぎて動きが分からない。

 剣道式のフェイントなのか剣先けんさきがつねに細かく動きつづけていて、ただでさえ速いのにより実像が分かりにくい。

 離れて見ているのにこの分かりにくさ。当の本人たちはどうして分かるんだろうな?

 おれには分からない。少なくとも今のおれには。

 目の前の剣士二人がなにをしているのか、表面的な部分を目で追うことすらままならない。

 もっと深い部分で起こっている駆け引きなんて、想像もつかなかった。

 しかし、決着は思いもよらない、だが驚くほど明確な形でついた。


 パン!


 藤堂先生の竹刀が、鉄男さんの竹刀をおおきく跳ね上げた。

 跳ね上げられた竹刀は空を飛び、なんと天井に突き刺さった。


(ウソォ!?)


 声を出さなかったのは我ながらグッジョブだ。

 場の厳粛げんしゅくな空気がおれをだまらせてくれた。

 ……そういえば聞いたことがある。いや厳密にはおれのクローン元である泉銀二の脳内の記憶だ。

 高校二年生の時だったかな、クラスメイトに剣道部のやつが二人いたんだ。

 そいつらが言うには、ウソみたいに強い警察関係の偉いじいさんが今みたいな状況を作るのを見たんだと。

 天井に竹刀が突き刺さるというビックリ現象。

 しかも他にも似たような穴がまだあったって。


 信じられねえようなことが現実にはあるんだなあ~。

 と、おれが脳内の記憶をたどっているうちに試合は終わっていた。


「雑味が多い」


 藤堂先生は鉄男さんの腕前うでまえを短くそう評価した。


「実戦と同じだけ稽古けいこをしなさい。本質を失う」

「はいっ」


 質問もなし、反論もなし。

 鉄男さんは全肯定ぜんこうていするかのように即座に、そしてぐ頭を下げた。

 しかし本質を失うってのは、なんだ?

 かたがくずれるとか変なクセがつくって意味かな?

 この終末世界じゃ正々堂々と道場で戦う機会なんてそう無いわけで。

 荒れはてた路上でゾンビなんかと戦っていたら、そりゃ剣道家としてはゆがむかもしれない。

 そもそもくつをはいて戦うからな、清潔な床の上を裸足はだしで戦うってぇのは、おれたちにとっちゃもはや特殊ルールなわけよ。


 さて一戦終えて一息ついたところで、遅ればせながら藤堂道場のお二人にも『エリクサー』による予防接種をおこなった。

 具体的にはコップ一杯の水におれの血液を一滴まぜて飲んでもらう。

 嫌だろうけど、これでゾンビにまれても安心だ。


「こんなまじないのようなことで本当に良いのかね?」

「はい先生。自分も彼の血に救われました」


 鉄男さんの力説りきせつが二人の疑問をおさえてくれた。

 まあ「おれの血を飲め」なんて言われたら普通はおかしなカルト宗教みたいにしか思わないよな。

 そうこうしているうちに他の道場生たちもゾロゾロと姿を見せてきた。

 すでに大原兄妹が帰ってきたことが伝わっているらしく、「大原さん!」「無事だったんですね!」などと大声を出して再会を喜んでいた。 

 彼らにも『エリクサー』による予防接種をほどこす。

 剣道家の彼らは近接戦闘でゾンビを倒す超危険な仕事をしているからな。知らず知らずのうちに感染しているリスクがあるから、『エリクサー』は必須だ。


 さらにさらに紫織を求めて若い女の子たちもやってくる。

 紫織のほうも彼女たちに対してストレートに悪感情をぶつけたりはせず、ややくもった笑顔で再会を喜んでいた。

 道場はなんだかパーティー会場のようなにぎやかさになる。

 日が暮れて解散となるまで楽しげな小宴しょうえんはつづいた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 おれたちは空き家になっていた大原家に移動。

 大急ぎでかんたんな掃除をすませ、就寝しゅうしんする。

 しかし深夜にふと目が覚めてしまい、おれはトイレに行く。

 帰りぎわ、庭で突っ立っている紫織の姿を見かけた。

 

「紫織ちゃん、こんな時間になにを」


 彼女はパジャマ姿だったが手には愛用のハンドガンがにぎられている。

 どういうつもりなのか、夜空のお月様にむかって銃口を向けていた。

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