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ゾンビだらけの終末世界でおれたちわりと無双界隈  作者: 卯月


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第59話 臭くて粋な秘密の部屋

 とりあえず鉄男さんは道場主どうじょうぬし藤堂とうどう惟道これみち先生に生きていたことを報告。

 ざっくりとではあるが世界を滅ぼしたZ-ウィルスに対抗する手段を得たことも同時に説明する。

 普通の流れだったらさっそく『エリクサー』による予防接種をはじめるシーンだったが、そこは武人ぶじんみたいなものが許さなかった。


「よろしい。まずは着替えてきなさい」


 そういって藤堂先生は立ち上がった。久しぶりに稽古けいこをつけてやろうというのだ。

 えっでも今のこの流れで? 死んだと思っていた弟子が生きていたという、感動の再会シーンで?

 いや先生、もうちょっとこう、人間らしい温かみを見せてくれても良いんじゃないですかねえ?

 ……などと思っておれがドン引きしていると、なぜか鉄男さんのほうもその気になった。


「はいっ」


 勢いよく返事をした鉄男さんの横顔が、なんか凛々(りり)しい。

 んー。軟弱なんじゃくなおれにはよぅ分からんのだが、ひょっとしてこれは武士道ぶしどうってやつなんだろうかね?

 再会したからまず稽古けいこ。稽古というかもはや勝負、ってそれ一般的な感性じゃないよね?

 おとこの世界……なんだろうか?


 鉄男さんは師に一礼して更衣室こういしつにむかう。

 おれもなんとなくついて行った。


「どうしたんだ?」

「いや、なんとなく」

「はあ?」


 ついてくるおれの姿を不思議がる鉄男さん。

 おれ自身にもうまく説明できない。好奇心だろうか。


 板張りの廊下ろうか。日本庭園。

 目の前にひろがる純和風の世界をながめているうちに、すぐ更衣室に着く。

 戸を開けた瞬間にはなをつく異臭いしゅう。典型的な体育会系部室のにおいだ。

 和風建築の中に金属製のロッカーがならんでいて、そこだけ違和感があった。


「くっ」


 反射的に鉄男さんは目頭めがしらをおさえた。


「とっとと捨ててくれりゃあいいのに……」

「?」


 おれは彼がなにを言ったのか分からなかった。

 鉄男さんは迷うことなく「大原」と名札のついたロッカーを開け、着替えをはじめる。

 そして掛けてあった防具を手に取り、身につけていく。

 一連の動作があまりに自然すぎて、しばらくなにも気づけなかった。

 そして時間をかけて考え、理解した瞬間おれも泣きそうになる。

 道場にかよう人たちにとって鉄男さんは『死んだはずの人』だ。

 それなのに昔と変わらぬままロッカーを残し、防具の手入れもしていたなんて。

 これは道場に通う人たちが鉄男さんをいかに大切に想っていたかのあかし

 捨てるに捨てられなかった人情のあかしなのだ。


 まったくもう、こういうことはちゃんと言葉にして伝えろよなあのじいさん! 大事なことなんだぞ!


 体育会系ってやつらはこういう点が本当に不器用で。

 その不器用さに隠れた部分に気づけることをいき、気づけないことを野暮やぼとか言いやがるんだ。

 面倒くせえ。自分でちゃんと言いやがれってんだよ。

 そんな風に心の中で責めているうちに、鉄男さんの着替えは完了した。


「ふー」


 深呼吸をひとつ。

 胴と小手を身につけ、面を小脇こわきに。

 いつも以上に凛々(りり)しい鉄男さんが完成した。

 だが。


「……なんか久々でしっくりんなあ」


 などとボヤいている。すこし緊張している様子だった。


「行くか」


 いざ出陣。

 という表現が似合う後ろ姿をおれに見せ、鉄男さんは剣道場にもどる。


 ふたたび現れた鉄男さんの姿を見て、女性陣は息をのんだ。

 道場のお嬢さん(名前まだ知らない)なんて、ポーっとほほをそめて体温が二度くらい上がってそう。

 紫織は昔をなつかかしむように、ジルヴァは異国文化を楽しむような目つきでそれぞれ見つめていた。

 ほどなくして藤堂とうどう惟道これみち先生も準備を整えて姿を見せる。

 二人が面をつけ向き合うと、道場は怖いくらいの緊張感で張りつめた。

 手にしているのは竹刀しない。それなのにまるで真剣をつかった勝負のような怖さを感じてしまう。


 蹲踞そんきょの姿勢からスッと立ち上がり、稽古けいこがはじまった。

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