第56話 オタク最大の欠点
おれの基地には二度と手に入らない精密機械や、大量殺人にも使える銃火器などがたくさんある。
どんな性格かもわからない十人の来客(しかも子供たちもいる)に自由行動を認めるわけにもいかず、居住スペースだけ使ってもらうことにした。
来客たちも不平不満は言わず、与えられた範囲のものでとりあえず満足してくれたようだ。
っていっても、ぶっちゃけおれが彼らに提供したのは広い談話室、蛍光灯の明るさ、適度な空調。
飲食物はビスケットとインスタントコーヒー。
そして娯楽として、大型スクリーンでジブリアニメのDVDを見せた。個人的に一番好きな『千と千尋の神隠し』な。
子供たちはありのまま素直にアニメを楽しんでいたが、大人たちは懐かしさのあまり泣きだしちゃった。
楽しんでもらおうと思ったのにむしろ悲しませちゃって、おれは世界を滅ぼしたヨン様……じゃなかったヨミ様とやらの愚行がいかに罪深いかをふたたび知るのだった。
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……で、別のベクトルで被害者になった紫織のフォローにも挑戦してみた。
正直こっちはまるで自信がない。なにをどうすれば元気が出るんだ? 女心とかマジでわかんないんだけど。
兄を戦力としていいように利用していたくせに、ウイルスに感染したらあっさり追い出した冷酷な故郷。
そしてその故郷に絶望してみずから飛び出した紫織。
いまさら「助けてくれ」なんて言われても、紫織としては納得できるわけないよな。大人の対応をしている鉄男さんのほうがむしろお人よしすぎるんじゃないか?
紫織は野菜の栽培室にいた。
基本的に真面目で、それだけにストレスを内にためて我慢するタイプなのが彼女だ。
ムスッとした不機嫌顔で、しかし丁寧に野菜の世話をしていた。
「ここにいたんだ」
「……どうも」
あまり友好的ではない挨拶を交わしたあと、おれたちは無言になる。
「……」
「……」
早くもこまった。なにも言うことが思いつかない。
「なにか用ですか?」
「いや別に、用ってわけでもないんだけど……」
「けど、なんですか?」
「いやその……」
重苦しい沈黙。
「……」
紫織は『ダメだこの男』っていう視線をおれに送ってきた。
おれがここに来た理由はなんとなくつたわったらしい。
けどまともなことをなんにも言えないでいるから、呆れられた。
でも難しくねえ!? こんなとき世の男たちはどんな言葉をかけるんだよ!?
元気出せって言って元気が出る状況でもないでしょ。
君は間違ってないとか言っても大した効果は得られないような気がするし。
無関係なジョークとか言ったら、下手すりゃ怒らせちゃうし。
いっそおれがついてる、とか言って彼女を抱きしめるか? それこそ適当な誤魔化しでしかなくねえ?
わからん! なんて言えばいいの!? それとも必要なのは言葉じゃなくて何らかの行動なのか!?
まるで錆びたブリキのおもちゃみたいにギクシャクしているおれを見かねてか、紫織のほうから口をひらいた。
「兄さんが、一回実家にもどって墓参りに行こうっていうんです」
「あ、うん。それはいいと思う」
「っていってもあの人たちだけ残して出かけるわけにもいかないじゃないですか」
「……あーそれもそうだね」
お客さんの十人。
あの人たちを残したままで基地をカラッポにするっていうのは、たしかに不安だよね。
悪い人が混ざっていて施設を荒らしたり物資を盗んだりするかもしれない。
「その辺をどうするか、考えといてもらえますか」
それだけ言って紫織は野菜室を出ていく。
「了解……」
おれは紫織の背中にそう言うことしかできなかった。
人生って難しい。




