第51話 悲報。おれのオリジナルはクソニートでクソオタクで超デブで病死してた。
「ゼロワン、っていうのはフルネームなわけ?」
冗談まじりでもなく、からかっている風でもなく、ジルヴァは真面目な顔で聞いてきた。
「いや、フルネームっていうか、頭の中にいる『ノヴァ』にそう言われただけで……。本当の名前は知らねーんだわ……」
「……」
ジルヴァはなんだか難しい顔で考えはじめてしまう。
「質問を変えるわ。ゼロの前になにか数字はつかないの? ワンとかツーとかないわけ? 101とか201とかが本当の名前なんじゃない?」
「い、いやあ? ゼロワンがコードネームだったよ? 初期設定の名前っていうのかな?」
な、なんでこんなことを聞くんだ?
その質問になんの意味があるんだよ?
「マジで……?」
ジルヴァは謎に深刻そうな雰囲気を出し、両手で顔をおおって沈黙してしまった。
このいい加減な女がこんな態度になるのは初めてのことで、おれは困惑してしまう。
「おれの名前がゼロワンだと、なんか困るわけ……?」
「いやアタシには全然関係ないんだけどさ~。どうでもいいっちゃいいんだけどさ~」
ジルヴァはまだ顔をおおう両手を動かさない。
なーんだっつーのよ、本当に?
「よしっ」
ジルヴァはようやく顔をあげた。
そして急に声が明るくなる。
「あんた、もうヒーローごっこは卒業しなさい」
「えっ」
「もう十分かっこつけて楽しんだでしょ。危ないことはもうやめて薬の研究者にでもなりなさいよ」
「いきなりどした!?」
「人にはそれぞれ才能ってのがあるのよ。あんたはその『エリクサー』があるんだから戦争やるのは他人にまかせちゃいなさい」
「……どういうことだよ?」
変な作り笑いをうかべて引退をすすめてくるジルヴァ。
こいつはこいつなりに何かを想ってのことだろう。わりと本気でおれを心配してくれているような気がする。
しかし、さすがに説明不足すぎて「ああそうですか」とは答えられねえよな。
もちろん納得できないおれの顔を見て、ジルヴァは深いため息をついた。
「あんた、自分がどういう存在なのかわかってるわけ?」
「つまりそれ『お前はわかっている』ってことだよな?」
ハアッ。
ジルヴァは何度目かのため息をついた。
「あんたはね。『とある男』の、たぶん千人目のクローンよ」
「えっ」
「さっき本当の名前を知らないとか言ったわね。それきっと『知らない』んじゃなくて『初めから無い』ってのが真実だと思うわよ」
「えっ」
おれが誰かのクローンで、本当の名前は初めから無い……?
ジルヴァは鉄柵にあらためてもたれかかり、おれから視線をはずす。
そして自分の過去を語りだした。
「あたしね、日本に来る前は中国大陸にいたのよ。そこで700番台のあんたを殺したことがあんの」
返答にこまるおれ。
ジルヴァは横目でチラリと視線を送ってくる。
「あたしが昔は敵だったってこと、今さら言うまでもないわよね?」
「あ、ああ、まあな。しかし中国にもおれが居たのか。意外すぎてどう反応したらいいのか……」
「うん、700番台のそいつはもっともーっとゴリマッチョで、頭おかしいんじゃないのってくらい馬鹿でかい大剣を振りまわす戦士だったわ。あんたきっとそういうのも好きよね?」
「ああうん、まあ可能であればな」
ガッツとかクラウドとか斬馬刀とか斬艦刀とか。
非現実的ではあるものの興味はある。
興味がある、っていうだけでは終われなかった『おれ』が、海の向こうにいたってか?
「それでぇ、昔は世界中にチラホラいたのよあんた。んで最近まったく見なくなったなーと思っていたらごく最近、カズヤに出会ったわけ」
「へ、へえ……」
リアクションに困る。
会ったこともない大量生産のおれ。しかもすでに死人。
正直リアリティ感じないわー。全然悲しめないわー。
「多分だけどね、あんた1000体くらい作られて世界中にバラまかれたのよ」
「なぜ?」
「あんたのオリジナルが、どーしようもないクソオタクのゲーマーだったからよ」
なんだかよく分からないが彼女は軽蔑の目線をおれに送ってきた。
「『ゲームの世界に入れないなら、世界をゲームだと見なせばいい!』とかなんとか、そんなしょーもない戯言が実現しちゃった結果よ。あんた今けっこう人生楽しんでるわよね? 良かったじゃないの?」
「だけどおれ以外の999人は、全部死んじまったと言うんだろ?」
おれってスペランカーだったの?
「生存している個体がいたとしても、戦場にはいないわね。普通の仕事をしているか、オリジナルの真似してニートでもやってんじゃないかしら」
「……おれは失敗率99,9%のダメ人間か」
「そんなに気を落とさないでよ。なんの分野でも超一流っていうのは数万人に一人くらいしかいないものよ。1000人じゃ数が少なすぎるんだって」
フーッ。
今度はおれがため息をつく番だった。
とんでもなく荒唐無稽な話なのに、妙に心の中にしっくり馴染んでくる。
この世界はゲームであってゲームじゃない。
おれがゲームだと思いこまされていただけ。まあほぼ信じていなかったけど。
ゲームだと思えるように環境を整えられた人間を用意して社会に送り出してみた。それがおれの正体。
ゼロワンという名前だから、これから新しい仲間が増えていくものだと勝手に思い込んでいた。
しかし真実は真逆。
おれは最後の一人だったのだ。
「この際だ、おれのオリジナルが誰なのかも教えてくれよ。知ってんだろ? まだ生きてんのかそのクソヤローは?」
「死んだわ。肥満が原因の心筋梗塞で」
「は!? ゾンビ関係ないんかい!?」
「ヒキニートからしたら外にいる人間がゾンビに変わったって同じことでしょ」
「えええ……?」
悲報。おれのオリジナルはクソニートでクソオタクで超デブで病死してた。
「泉銀二、それがオリジナルの名前よ」
「泉銀二……、ふーんそうなのか……。そいつはなんでクローン1000体も作れたんだ。資金と技術はどっから盗んだんだよ」
「やってあげたのは彼の兄よ」
「へえー。優しいお兄さんだねー」
ヒクッ。
ジルヴァはおれの言葉に顔をひきつらせた。
「アレが優しい……? そろそろ気付きなさいよ、脳は使わないと劣化するのよ」
「はー?」
「Z-ウィルスを作ったやつの名前はなーんだ?」
「なんでクイズが始まんだよ? えーっとたしかヨン様とかいう……」
「ヨン様じゃなくてヨミ様! なんで韓流スターみたいな名前になってんのよ! 泉黄金! それがあんたの兄貴の名よ!」
「な、なんだってー!」
悲報。おれの(オリジナルの)兄貴は世界を壊した極悪人だった。




