第104話 最凶の帰還
「ああ? テメエ本気で言ってんのか? あのクソでけえアリんこに勝てるってぇ?」
ジャミスがあきれ顔で大声を出す。
ウマ面のくせに表情豊かなのは不思議だ。
「ああ。もしかしたら、だけどな……」
ジャミスの無神経な声がデカすぎたせいで周りの仲間たちがおれに注目してしまう。
「だけど、上手くいったとしても、犠牲が出てしまう」
おれの視線は周囲をピョンピョンはねているスライムたちに向けられる。
「それをやっちまったら、どんなにうまくいってもこいつら全員が犠牲になる」
「カズヤさん! いきなりなんの話ですか!」
スライムたちの主、紫織がただならぬ気配に警戒心をみせた。
彼女は手元にいたスライムの一匹をギュッと抱きしめる。
「この子たちはもう十分にがんばったでしょ!」
「あ、ああ。そうだね。そうだよ、うん」
紫織の言い分はもっともだ。
スライムたちはもう十分活躍した。
さらに酷使して全滅させるのはあまりに非人道的すぎる。
それと言いそびれてしまったが、この手段はおれの身もヤバい。
自分の身体を壊すヤバい武器を使うことになるからだ。
「………」
紫織はまだジッ、と疑惑の視線をおれに送っている。
そうだよ。もう無理に戦わなくったっていいはずだ。
なんだかんだと理屈をこねてこんな最終段階までズルズル戦ってきてしまったが、さすがにもういいはずだ。
『女王』アナスタジアの王国は女王本人の手によってトドメが刺され完全崩壊。
おれたちが住む関東地方が侵略される心配はなくなった。
あとはジルヴァさえ帰ってくればそれで終わり。
それでもういいだろう。いいという事にしてくれ。
最後のほうは判断というより祈りのような気分だった。
もしかしたら頭のどこかで気づいていたのかもしれない。
今の状況と、過去の記憶の中で、辻褄が合わない部分があることを。
もう一人、危険すぎる敵が残っていることを。
「あー!」
空にむかってはなたれる少女の声。
ジャミスの背にずっとしがみついている『夢と幻』のアリスの声だ。
常にボケーッとしていてなにも考えていない様子の彼女が、すぐ真上を見て手を振っている。
上に何かが、いや誰かがいる。
手を振るアリスに明るい声が降り注いだ。
「おいーっす!」
あいさつしながら空から急降下してきたのは小さな妖精の少年。
いや妖精のような見た目の小型天使だった。
こいつの個性的な姿にはちょっと見覚えがある。
名前はなんと言ったか。ピノとかピコとか、そんなだったような。
「アリス様! こんな所で人間たちと観戦ですかー!」
「ようせいさんだ~げんきになったのね~!」
「はいっ、メルクリウス様にもらったクスリですっかり元通りですよ~!」
小さな妖精ははじけるような笑顔でドンと胸をたたいた。
その姿を見ておれの背筋がサーっと冷たくなる。
この小っちゃいのが怖いのではない。
こいつはただの付き人だ。
おれの人生の中で最悪の、もっともどうしようもなく強い敵の付き人。
おそるおそる空を見上げる。
やはり居た。
紫色のオーラをただよわせた、狂暴そのものといった雰囲気の鎧男。
超上級天使のなかでも最強とよばれる男、『偽聖剣』のジーク。
よりにもよってこんな疲労困憊のタイミングで遭遇するなんて。
『偽聖剣』のジークは鋼鉄の翼をはばたかせ、乱暴に急降下してくる。
ドンッ!
いつものように無遠慮に騒音と衝撃波をまきちらしながら、奴はおれの目の前に着地した。
「少し留守にしているうちに、ずいぶんと楽しんだようだな」
「ジークだーやっほー」
超上級天使二人が会話をはじめる。
おれは最凶を前にして身動き一つできなかった。
こいつの手刀はどんな名刀よりも切れる凶器だ。
逃げようとした瞬間に身体を真っ二つにされるのではないかと、そんな気さえした。




