第103話 仲間はまだ戦っているのに
ハア……ハア……ハア……。
も、もう無理。
マジで限界。
たび重なる全力ダッシュのはてに、おれと仲間たちはようやく帰り道の入り口までたどり着いた。
ここからがまた長いんだけど、それでも命の危険がないってだけでもずいぶん気が楽だ。
周囲には街から脱出できた住民たちが大勢いる。
彼らは地面にへたり込み、これからどうやって生活していけばいいのかと絶望していた。
彼らの視線の先には暴れまわる巨虫ガルガントの姿が。
ここからじゃ小さすぎて見えないが、まだジルヴァが戦っているのだろう。同じ場所をウロウロと動き回る巨虫の動きからそんなイメージがわく。
「おーい、おーいカズヤー」
ちょっと離れた場所からおれを呼ぶ声が。
見れば三騎士との戦いで負傷し、先に戦線離脱していた仲間たちが集まっていた。
中心に全身火傷を負った大原鉄男さんが。
「鉄男さん」「お兄ちゃん!」
おれを追い抜いて妹の紫織が駆け寄っていく。
まだ走る元気があるのか。十代ってすごいね。
おれもノロノロとした歩みで鉄男さんに近づいていく。
「生きていたか」
「どうにかね」
おれと鉄男さんは疲れた笑みをかわす。
「これ、返しますよ。結局使わなかったんで」
おれは腰にさしていたレーザーブレードを鉄男さんに差し出す。
「いいよ、持っとけ」
「おれが持っててもなあ」
「今は俺の方がひどい」
鉄男さんは火傷した手でレーザーブレードを押し返してくる。
たしかに今の彼はとても戦える状態ではない。しかたなくおれは自分の腰に差し直した。
「ジルヴァさんは大丈夫なのか」
「さあ……。もう祈るしかないですよ」
おれたちは街中で動き回る巨虫ガルガントの姿を眼で追った。
動きに変化はない、まだ戦っているようだ。
超上級天使同士の戦いは本当にレベルが違いすぎて、自分なんかが参加していいような場とは思えない。
あの場所に自分たちがいけば間違いなくジルヴァの邪魔になる。
参加しないことが最善なんて、情けないかぎりだ。
「カッコ悪いですよね、仲間を置き去りにしてみんなで逃げてくるなんて……」
だんだん見ているのも辛くなって、おれは下を向いてしまう。
「ケッ。マヌケがシケたツラしやがるとマジで救いようがねえな」
「ああ?」
横からおれを貶す男の声。
そこには木に寄りかかっているウマ野郎の姿。
中級天使ジャミスと、その背におぶさる『夢と幻』のアリスがいた。
「お前ら、なんでまだ居るんだ?」
「なんとなく流れでここにいるだけだよ、このお方しだいだ」
ジャミスは手ではなく前足でアリスを指(?)さした。
アリスのほうは。
「もうおいかけっこはおわり~?」
なんてのん気につぶやいている。
「ったくまた転職活動とか冗談じゃねえぜ」
「次は非常食にされないよう気をつけるんだな」
「ケッ」
おれの皮肉にジャミスはノドを鳴らす。
少なくとも『女王』アナスタジアの所で働く気はもうないようだ。
馬車馬のように働かされるのがブラック労働。なら非常時に食料あつかいされる労働環境はなんと呼ぶべきか。
エクストリームブラック? アルティメットブラック?
なんにせよ天使の世界も楽ではないらしい。
この世のどこかに楽園はないのだろうか。願わずにはいられない。
―――などと現実逃避じみた思考に心を泳がせながら休憩していると。
「ああー! スラちゃんたちー!」
紫織が黄色い歓声をあげた。
『ピー!』『ピピー!』
街のあちこちから小さなスライムたちがピョンピョンはねて近づいてくる。
かなりの数だ。
戦いで傷つき、ガルガントに吹き飛ばされ、逃げている途中ではぐれ。
それでもこうして紫織を慕って追いかけてくる。
たいした奴らだ。
こんな手のひらサイズの小さなやつらが、力を合わせると上級天使すら押しつぶす巨体に合体できるなんてな。
「―――ん!?」
おれの脳裏に稲妻が閃いた。
大量のスライム軍団。
廃墟となった街。
腰に差さっているレーザーブレード。
そしておれの『エリクサー』。
「―――勝てる」
「あ?」
横でジャミスがなにか言ったが、おれは考えるのに夢中で聞こえない。
「勝てるかもしれないぞ、あのガルガントに!」




