第101話 独善も 極めてみれば それなりの
仲間たちの一斉射撃をうけて動きを止めた巨虫ガルガント。
死んじゃいねえと思うが、けっこうダメージは与えたはずだ。
動かぬ巨虫の背から、身を潜ませていた『女王』アナスタジアが姿をあらわす。
「どこまでも邪魔をしてくれる……、堕落しかしらぬ愚かな女のくせに……!!」
女王の視線は裏切り者のジルヴァにそそがれる。
憤怒と憎悪のすさまじい熱量が直接伝わってくるような気さえした。
「あんたは真面目に生きすぎなのよ。バカ真面目」
言い返すジルヴァの表情がいつもより硬い。
事情は知らんが、この二人にはなにか因縁があるようだ。
「組織がブッ壊れてからもう何十年経ってんのよ? 真面目に支配者やってんのなんて、アンタくらいのもんじゃないのぉ?」
「だからこそ妾がこの世を正しく導かねばならぬのではないか! 不真面目で時間を浪費するだけのバカ者どものかわりに!」
女王はみずからが破壊した街並みのむこう、城の方向を手で示した。
「すでに成果は上がりはじめておる! 妾の膝下で人類はよりよい繁殖を始めておるぞ!」
どうやら選び抜いて保護しているエリート層の人間たちのことを言っているらしい。
そういえば彼らはガルガントのエサになることもなく無事でいるんだな。
あそこの人間たちは女王にとっても今後の希望ってわけだ。
だが、ジルヴァはなんともいえない表情で長い髪をうっとうしそうにかきわけた。
「あんなの見てくれが良いだけの家畜じゃないの。あんなのが本当に人間だって言えるわけ?」
「人類が好き勝手に生きた結果がこの世界である! ゆえに我々が旧社会を滅ぼしたのではないか! そんな根本的なことから言わせるほど堕落したか!」
はーっ。
ジルヴァは深いため息をつき、あきらめの表情になった。
『女王』アナスタジアの弁舌は堂々としていて淀みがない。
きっと完璧に頭の中で理屈が完成しているのだろう。
何度も何度も頭の中で整理整頓をくり返し、強固で高貴なものとして磨き上げられているのだ。
彼女はZ-ウィルスで世界を滅ぼしたことを正義だと心から信じている。
そして自分で築いたこのディストピアも正しいと信じている。
独善というのも、ここまで高めるとある種のすごさを感じるな。
『女王』アナスタジアは真面目な努力家で、明晰な頭脳と強靭な精神力をあわせ持っているのが、はたから見ているだけで伝わってくる。
だが彼女は信じられないほど傲慢で独り善がりだ。
主義主張をしていいのは自分一人だけ。
他の者は自分の命令にすべて従え。
なぜなら自分は正しいのだから!
わりとこんな感じのことを本気で考えているのではなかろうか?
「アンタの思想は黄泉より偏ってるわね。黄泉には少なくとも他者の意見に耳を貸す度量があった」
黄泉。
本当の名は泉黄金。
Z-ウィルスを生み出し世界を破壊した悪魔の科学者だ。
こいつらはかつて黄泉の部下だった女たち。
女王はその黄泉と比較されて薄く笑った。
「しかし黄泉様はもはや言葉を発することもできぬ有り様ではないか。黄泉様は偉大な先駆者であったが時代は変わるもの。支配者は原理原則にとらわれることなく現実に対応せねばならぬ」
「ああ言えばこう言う……!」
なにを言っても通じない相手にジルヴァはだんだんイラついてきたようだ。
逆に女王は長々とセリフを並べることに頭脳を使って少し冷静になっている。
怠惰で人情味のあるジルヴァこと、『水銀』のメルクリウス。
勤勉で独善的な『女王』アナスタジア。
どこまでも正反対だなこの二人は。
「結局、貴様は処刑する以外に選択肢がないということよな。あふれんばかりの才能に恵まれながら遊び歩くだけの無駄な生き物。それが貴様よメルクリウス」
「独り善がりな思いこみで無差別に迷惑をかけまくるバカ女よりマシなんじゃないかしらね、ミチコ」
すでに捨てた昔の名前で呼ばれて、女王の瞳にふたたび怒りの炎が宿る。
まさに一触即発という瞬間だったが、あえておれは二人のあいだに割って入った。
「あー! ちょっと、ちょっと待ってもらえませんかねお二人とも!」
場の空気をぶち壊すおれの行動に、味方のジルヴァまでにらんできた。
「なによカズヤ。あんたの悪ふざけが通用する相手じゃないって分からないの?」
おれはごく小さな声でジルヴァにささやいた。
「だけどおれあの人からまだZ-ウィルスをもらってないんだよ。『エリクサー』のレベルアップのために、何とかしてくれ」
「ええ~!?」
おれからの無理難題に、ジルヴァは心底いやそうな顔をした。




