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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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25章 大いなる災い 02

 俺たち『ソールの導き』が未踏の南部大森林地帯を調査するという件は、アルデバロン帝国のアイネイアース皇帝陛下だけでなく、ヴァーミリアン王国のゼイクリッド国王陛下、メカリナン国のリューシャ女王陛下、そしてオーズ国の大巫女ミオナ様にまで周知されることになった。


 俺たちが『大いなる災い』対策として南部大森林地帯を調査するというのはそれくらい大きな話である――というのは、最初に相談に行った皇帝陛下に指摘されたことである。


「私の方から連絡を差し上げてもよいのですが、各国ともソウシ殿の口から直接聞きたいでしょうから、『通話の魔道具』経由ででも構いませんのでソウシ殿がお伝えした方がよろしいでしょう」


 とのことで、帝室の『通話の魔道具』を通して各国の長と直接話をすることになった。なお国を閉ざしていたオーズ国も、さすがに今は『通話の魔道具』によるやりとりに応じてくれるようになっている。


 その中で、南部大森林地帯へはメカリナン国の南端にあるラーガンツ侯爵領からがもっともアプローチしやすいだろうという情報も得られた。


 オーズ国の首都ガルオーズも近いのだが、そちらは間に山脈が横たわっているのだそうだ。


 さて、そんなわけで、ひと月以上は余裕で野営できるほどの物資を買い込んで旅装を調え、森林調査を思い立った日から数えて8日後に出発の日を迎えた。


 なおドロツィッテも、『異界の門』の冒険者の使用については一通り準備を終えたそうだ。各地のギルド職員が実際に『異界の門』に入って様子を確かめ、実際に現役の冒険者にも使ってもらうなど、短期間だが研修までも行ったらしい。


「非常事態にはサブマスターが中心になって対応するようにシステムも組んだ。もとから少しずつ用意はしていたし、私がいなくても問題ないようにしてある。だから私も『ソールの導き』の一員として、未踏の南部大森林調査には参加させてもらうよ」


 絶対についてくるとは思ったが、ドロツィッテのその熱意には圧倒される。


 さて、そうなると気になるのはガルーダモスである。帝都の外にてシズナに『招精の笛』でガルーダモスを呼んでもらい、まずは大森林に付き合ってもらえるか聞いてもらった。


「残念ながら『精霊獣』さまはあの森林地帯の奥には入れないそうじゃ。昔から強力なモンスターの縄張りになっているそうじゃぞ。もし入るなら重々気を付けよとのことじゃ」


「大森林地帯がモンスターの縄張りというのは納得するしかない話だな。とすると、俺たちはメカリナン国に行き、そこから南下してラーガンツ領から南部大森林に入ることになるか」


「近くまでは『精霊獣』さまが送ってくださるそうじゃ」


 そううまくはいかないだろうと予想はしていたので、俺には特に落胆はなかった。


 フレイニルとラーニが、


「森林ですと、木に覆われていて空からは地上の様子が見えないでしょうし、結局は歩くことになりますから仕方ありませんね」


「そうそう。それにやっぱり探検するならこの足で歩かないと楽しくないし。わたしは森を歩くの嫌いじゃないから全然問題ないわよ」


 と口にして、他のメンバーも、むしろ歩いて大森林を探索する方が楽しいだろうという意見でまとまった。


「本来なら大森林なんて調べるだけで1年以上かかるものだけれどね、『ソールの導き』の各人が持つ鋭い感覚と、なによりソウシさんの『天運』があれば、きっと問題の発生源にはたどり着けるさ」


 というドロツィッテの能天気ともとれる意見に妙な説得力を感じつつ、俺たちはガルーダモスの背に乗った。


 メカリナン国のリューシャ女王と宰相のミュエラにはすでに話は通してあるので、直接ラーガンツ侯爵領まで飛んだ。


 ラーガンツ侯爵領はいうまでもなくミュエラが治める領地である。そして、俺が初めて『異界の門』に吸い込まれてメカリナン国に流れ着いた時、色々と世話になった場所でもある。


 いつもの通り郊外に着陸してもらい、そこでガルーダモスとは別れた。


「『精霊獣』さまによると、南の方によからぬ気配が多数感じられるそうじゃ」


 とシズナがガルーダモスの言葉を伝えてくれたが、それによって気持ちが引き締まる。


 事前に侯爵邸に寄ってくれと言われているので行くと、女侯爵であるミュエラが出迎えてくれた。亜麻色のロングヘアを後頭部で縛った妙齢の美人である彼女は、20代でメカリナン国の宰相を務める才媛である。


「まさかわざわざ王都からこちらにやって来たのか?」


「ソウシ殿の顔を見たくてな」


 などと真面目な顔で言い返してくるミュエラは、俺の婚約者の一人でもある。


「俺もミュエラの顔を見られるのは嬉しいな。だがそれだけではないんだろう?」


「ふっ、もう少し戯れに付き合ってもいいだろうに。とりあえず中に。今日は我が館に泊まっていってくれ」


 ラーガンツ侯爵邸は俺にはすでに懐かしい場所だ。


 部屋に案内された後に、呼ばれてミュエラの執務室に行く。


 なお、侯爵邸にいるミュエラの家臣や使用人たちは俺とミュエラの関係を知っているはずだ。そのせいか、俺に対する態度が微妙に客人に対するそれとは違う気がした。いや具体的にどう違うかと言われると困るのだが。


 執務室でミュエラと隣同士にソファに座る。たまにしか会えない間柄なので、これくらいはしないといけないだろう。


「それで、なにかあるのか? まさか大森林調査についていくとかそういう話じゃないんだろう?」


「ついて行きたいが、さすがに宰相の身でそれはできん。そうではなくて、『異界の門』をここにも作ってもらいたいのだ」


「ああ……もし南の大森林に何かあったらここは真っ先に襲われるからな。確かに作っておいた方がいいな」


「我が領でもあるし、領民たちが心配でな。リューシャ様の了解も取ってあるのだがどうだろうか?」


 ミュエラが多少なりとも丁重な言い方をするのは、『異界の門』を開くのに多くの魔石を使う、すなわち多大な費用がかかるからだろう。だがミュエラはすでに俺にとって身内なので、そこはもう考えないことにしてある。さすがに、ミュエラの治める領なら俺の領も同然、とまでは考えないが。


「もちろんそういう話ならやるさ。場所は決まっているのか?」


「それは大丈夫だ。街の外に丁度いい建物があってな。そちらに設置してもらいたい」


「わかった、では明日の朝やろう。それから、帝国に現れた『大いなる災い』に関係がありそうな種族の話は聞いたか?」


 俺が『緑の種族』の話題を出すと、ミュエラは「聞いている」と答えた後に首を横に振った。


「実は、ジゼルファ公が王城に保管されていた多くの書物や資料を焼いてしまったようなのだ。古い歴史書などがほとんど残っていなくてな。残っているものは研究者に調べさせたが、それらしい記述は見つからなかった」


 ジゼルファ公というのは、自らの兄であり、リューシャ女王の父でもあった先王をしいして自ら王位についた人物である。


 俺がメカリナン国に流れ着いた時にはそのジゼルファ公がこの国を治めていたのだが、リューシャ女王擁するミュエラら反対勢力によって弾劾され王位を降ろされた。というより、今ミュエラが「ジゼルファ公」と呼ぶように、王位についたことすら『なかった』ことにされている。


 俺から見てもジゼルファ公は王としての資質に問題があったように見えたが、まさか歴史的価値のある書物まで焼くというのは目に余る行為である。自らの正当性が揺らぐ資料を消去したかったのか、それとも裏で手を引いていた『冥府の燭台』の手引きによるものなのか。それも今となっては闇の中だろう。


「そうか……。まあ、そちらは冒険者ギルドやアルデバロン帝国の方でも期待薄らしいから、資料が残っていても見つからなかった可能性は高いだろう。それより資料が焼かれたというのは王家にとってもこの国にとっても大きなことじゃないのか?」


「その通りだ。メカリナン国以前にこの地に興った国々の通史も多くが失われてしまった。研究者が記憶を頼りに再編を試みているが、完全に元には戻らないだろう」


 苦い顔をしながら、ミュエラは溜息をついた。


 残念ながらそちらについて俺にできることはない。できるのは、この国が『大いなる災い』によって受けるであろう被害をできるだけ小さくすることだけだ。


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