24章 異界回廊 55
ドワーフの里での防衛戦。
千体以上いたモンスターの群れは、後衛陣の2発目の魔法が炸裂すると、その数はもう200匹を割るくらいになっていた。注意すべきは奇妙なサボテンモンスターだが、2匹は魔法に巻き込まれて倒されたようだ。
先ほど『圧潰波』で吹き飛ばされた個体だけが、依然としてひっくり返ったままもがいている。
俺はメイスで群がるモンスターを叩き潰しながら、その一体に近づいていった。
近くで見ると、球形サボテンのような本体はそれだけで直径が4メートルくらいある。表面には管状の器官が無数に突き出していて、それがサボテンの針に見えていたようだ。
宙を掻いている脚は虫のそれに質感が近く、見ていて気持ちのいいものではない。
時々近寄ってくるモンスターを殴り倒しながら、俺はそのサボテンモンスターをつぶさに観察してみた。
どうも、このモンスターはその形状以外にも妙な不自然さを感じる。なんというか、動きが機械的というか、今動かしている脚も転倒状態を回復しようとしているのではなく、ただ直前の歩行を続けているだけに見えるのだ。
そして、球形の本体部分を見ているうちに、その表面の一部分がまるで開閉する扉のように、円形に分割されているのに気付いた。その分割されている部分は、転倒した衝撃によってだろうか、少し隙間ができていた。
「気になるな……」
ドロツィッテに捕獲しろと言われているのだが、どうもその構造が気になって仕方がない。俺は少し悩んだ末、その隙間に手をかけて、円形の扉にも見える部分をゆっくりと引き剥がしてみた。
意外にもと言うべきかそれとも予想通りと言うべきか、円形の外皮は簡単に剥がれ、その中身が露わになった。
そして、俺は言葉を失った。
そのサボテンモンスターの中は空洞になっていて、そこに人型の、別の生き物が入っていたのである。
結局、モンスターの群れはその後すぐに『ソールの導き』のメンバーとドワーフたちによって駆逐された。
一部Cランクモンスターもいたのだが、俺たちにかかれば雑魚であることに変わりはない。とはいっても、一般のドワーフたちにとっては危険すぎる敵である。俺たちがいなかったら大きな被害が出ていただろう。
問題は千五百もの死骸だが、これはドワーフたちとシズナの『精霊』が早速片付け始めていた。ちなみにどう処理するのかと思ったら、使えそうな素材と魔石はドワーフ総出で剥ぎ取って、それ以外は一カ所に集めて燃やすのだそうだ。なお魔石と素材はドワーフのものにして欲しいと里長のライアノス氏には伝えてある。
問題は、サボテンモンスターの中にいた人型の生き物だ。
3体のサボテンモンスターのうち2体は中身ごと魔法でばらばらになっていて判別不能だったが、俺が捕獲した一体は生きていた。
実はモンスターを生け捕りにすることもあるかと思って、モンスター用の檻を『アイテムボックス』に入れてあった。そこで俺は気を失っているらしい人型の生き物をサボテンモンスターから引っ張り出して、その檻の中に入れた。
檻に入れるとしばらくして回復したらしく、そいつは身体を起こして周囲を見回していた。
見た目は、身長150センチくらいの人型の生き物である。全身はのっぺりとした緑色の表皮に覆われていて、それが衣服なのか肌なのかの判別すらつかない。ただ、首から上は緑色が薄まって白に近い表皮になるので、首から下のそれは衣服に見えなくもない。
頭部に頭髪はなく、昆虫の複眼のような大きな目が左右一対ついている。口に当たる部分は横に広い嘴のような形状になっていて、それが微妙に開閉している。小さな声でなにかしゃべっているようにも見えるが、俺たちにはキュ、キュ、という鳥かなにかの鳴き声にしか聞こえない。
「しかし一体なんだいこいつは? 見たことのない種族だね」
そいつを眺めながら、カルマが皆が思っているであろう疑問を口にした。なお、檻の周りには『ソールの導き』のメンバーと、ドワーフのライアノス氏がいる。
スフェーニアとマリアネも口々に、
「私もこのような者がいるというのは聞いたことがありません。『聖樹の洞』にいる父なら調べられるかもしれませんが……」
「私も今まで読んだ記録にはこのような種族に関する記述はなかったと思います。ただ、グランドマスターならあるいは何か知っているかもしれませんね」
と言うので、やはり初めて発見された種族のようだ。
『黄昏の眷族』であるゲシューラと吸血鬼のライラノーラにも確認を取ったが、
「『黄昏の眷族』にこのような姿のものはおらぬ。こやつ自身に力を感じぬし、『黄昏の眷族』ではないであろう」
「わたくしの記憶にもありませんわね。『神』が関わったことのない種族か、それとも『神』がこの地を去った後に現れた種族でしょう」
ということで、その場では結論は出そうになかった。
しばらくその奇妙な生き物を眺めていると、『通話の魔道具』の呼び出し音が鳴った。
相手はもちろんドロツィッテだ。
『ソウシさん、そちらも終わったんだね』
「ああ、特に被害なしで終わった。そっちはどうだ?」
『こちらも怪我人がそれなりに出たけど被害は軽微だね』
「さすがだな。ところで、例の球形のモンスターだが、そっちは捕獲はできたか?」
『それなんだけど、3体とも魔法で倒してしまってバラバラになったり燃えたりで原型を留めてなくてね。そっちはどうだい?』
「一体を捕獲した。それでその球形モンスターなんだが、中に人型の、別の生き物が入っていたんだ。新しい種族にも見えるが、言葉も通じないので正体不明だ。ドロツィッテには心当たりはないか? 見た目は――」
生き物の特徴を詳細に伝えると、ドロツィッテはしばし沈黙したあと返答した。
『……いや、私もそのような生き物や種族の話は聞いたことがないね。ともかく一度見てみたい。その生き物を連れてくることは可能かい?』
「ああ、檻に入れてあるので馬車で運ぼう。明後日にはそちらに着く」
『楽しみにしているよ。必ず連れ帰ってくれ』
通話を終え、再び檻の中に目を移す。
緑色の生き物――仮に『緑の種族』と呼ぼう――はほとんど動くことをしておらず、顔の向きも正面を向いたままである。なんとなく俺のことをじっと見ているような気がしたが、複眼のような目には瞳がないのでそれもわからない。
フレイニルが隣に来て、俺の手を取ってくる。その手はかすかに震えていて、どうもフレイニルは、この『緑の種族』を少し怖がっているようだ。確かに不気味な見た目であるし、知的生命体であるように見えるのも不安を掻き立てる。
「ソウシさま、今日はこの後、こちらに一泊して、明日はこちらの方を運んで領都まで戻るのですね?」
「そうなるな。多分ドワーフは今夜は宴会をやるだろうし、休めないかもしれないが」
「あ、確かにそうですね。しかしこちらの方は、食べ物などはどうしたら良いのでしょうか?」
「とりあえず食べられそうなものと水を与えておくしかないだろう」
その夜は予定通り、ドワーフの里の中で宴会が行われた。俺たちも一応参加はしたが、明日出発ということで俺と酒好きのカルマ以外は早々に宿に入った。
例の『緑の種族』については、ドワーフの冒険者が一晩交代で見張っていてくれるということで、里の入口に檻を運び、水と食事を与えておいた。
俺も寝る前に様子を見に行ったが、水と果物だけを口にした後があり、『緑の種族』は横になって寝ていた。といっても、複眼のような眼は閉じることがないので、実際に寝ていたのかは不明である。




