24章 異界回廊 54
モンスターの大群が迫るドワーフの里。
里長ライアノス氏の家で話をしながら待つことしばし。日が落ちかけてきたところで、見張りのドワーフが里長の家に駆けこんできた。
「里長、モンスターどもの姿が見えましたぜ! 地面を覆いつくすほどのすごい数でさ!」
「おし、じゃあ行くとするか! ソウシさん、聞いたな?」
「ええ、行きましょう」
ライアノス氏とともに、里の通りを歩いて城門に向かう。
「戦える奴は全員得物を持って出てこぉい!」
とライアノス氏が叫ぶと、あちこちの家からハンマーや斧やメイスやらを持ったドワーフが続々と集まってくる。彼らが持つ武器は普通の人間では持てないような重量級のものばかりで、まるで全員が冒険者のようである。
先ほどライアノス氏と話をしていて知ったのだが、ドワーフ族は『覚醒』していなくても、Fランク冒険者くらいの身体能力を持っているらしい。ただスキルを持っているわけではないのでEランクには及ばないのだとか。
基本の身体能力が高いのでドワーフの冒険者は強いはずなのだが、鉱山ダンジョンで活動したり副業で鍛冶をしたりする者も多く、冒険者ランクにも興味がないためランクはあまり上がらないらしい。少しもったいない気もするが、種族としての生き方に口は挟めないだろう。
200人くらいの武装ドワーフたちとともに城門を出て街道沿いを少し歩いていくと、遠くにモンスターたちの姿が見えてきた。その数は俺たちが上空から見たものと変わらないように思える。ゴブリンやオーク、フィッシュマンやワーウルフなどの人型がほとんどで、人間の軍隊が攻め込んで来たようにも見えなくもない。
「さて、どうするのがよいかのう。我らはソウシ殿の指示に従うぞ」
隣に立つライアノス氏が肩を叩いてくる。確かにここは俺が指揮するべきところか。
「とりあえず中央は自分が、左右も広い範囲を『ソールの導き』でカバーします。ただ必ず討ち漏らしが出ますので、それを皆さんで倒してください」
「そんなんでいいのか? 真正面からぶつかっても構わんぞ」
「いえ、それには及びません。むしろ我々の前に出ないように気を付けてください。魔法やスキルに巻き込まれると非常に危険ですので」
「うむ、それは気を付けんといかんの。こういう喧嘩は好きな奴が多いからな、がははっ!」
豪快に笑うライアノス氏だが、多数のモンスターを前にしても恐れている様子はない。後ろに並ぶドワーフたちも、冒険者はもちろん一般人も武器を構えてやる気まんまんな様子である。もしかしたら戦いの後の宴に心を馳せているのかもしれない。
「では、我々は前に出ます」
「英雄の戦いと、そしてワシが作った武具の威力を見せてもらおうかのう」
「期待は裏切りませんよ」
と答えつつ、俺も随分と自信家になったものだと苦笑が漏れる。もっとも正面の群れは、あの正体不明のサボテンモンスターを除けば相手にならないものばかりなのも確かである。
俺はフレイニルたちの方に向き直った。
「俺はこのまま正面を行く。ラーニ、カルマ、サクラヒメは右に、マリシエール、ライラノーラ、マリアネは左に広がってくれ。フレイニル、スフェーニア、シズナ、ゲシューラは後方で援護、フレイニルは最初に『神霊の猛り』『神の後光』を頼む。シズナは『精霊』で守りを固めてくれ。ゴブリンなど弱いやつは多少とりこぼしても構わない。ランクの高いモンスターを優先で倒してくれ」
「はいソウシさま」「りょーかい!」「任せるのじゃ」「かしこまりましたわ」
皆の返事が返ってきて、それぞれ指示通りに動き始める。特にシズナが『精霊』を呼び出すと、地面から身長三メートルを超えるミスリル巨人が11体出てくるのだが、その姿にドワーフたちから歓声が上がっていた。
特にライアノス氏の、「うおお!? なんじゃこのミスリルの人形は!? ゴーレムか!? それにしては動きが軽いのう! 『ソールの導き』にはなんという業を使う者がいるんじゃ!」という声がよく響いてくる。
さらにフレイニルが、集団をパワーアップさせる魔法『神霊の猛り』を発動、周囲が光に包まれる。ドワーフたちは自分たちの身体の調子が良くなったのが確認できたのか、さらに騒いでいた。なお、俺の『将の器』スキルの影響もあるはずなので、彼らの力は下手をすると5割増しくらいになっているかもしれない。
俺たち前衛は後衛から20メートルくらい前に出る。『精霊』に守られた後衛陣のさらに後ろに、ドワーフたちが左右に広がっている。彼らはある意味里を守る最終防衛ラインである。
モンスターの群れの先頭が、200メートルくらいまで近づいてきていた。しかし、人間を見れば本能剥きだしで動くはずのモンスターは、先走るものもなく、淡々と前進を続けている。この時点で不思議だが、あのサボテンモンスターの能力ということになるのだろうか。
距離が詰まりあと100メートル。そこでモンスターの群れに変化が起きた。サボテンモンスターが、体表に並ぶ突起から煙のようなものを吹き出したのだ。
するとモンスターたちが次々と叫び声を上げ、一斉にこちらに走り出して来た。
「魔法、先制します!」
スフェーニアが叫ぶと、まずはフレイニルの神属性魔法『神の後光』によって周囲がうっすらと光に包まれる。その弱体化の効果によって、モンスターたちの動きが目に見えて鈍る。
続いてスフェーニアとシズナ、ゲシューラが放った風属性魔法『サイクロンエッジ』による竜巻が合計10本巻き起こり、それだけで数百のモンスターがズタズタに引き裂かれて消えていった。
「おお、なんという魔法じゃあ! これが大陸最強の冒険者パーティの力か!」
「うおおおおっ!!!」
後ろでドワーフたちが盛り上がっている。
モンスターたちは、多くの仲間が吹き飛ばされてもなお突進を続けている。俺の正面の奴らが、すぐそこまで迫ってくる。
俺はそこで、『万物を均すもの』を身体の後ろに引き付けて、そして一気に横に薙いだ。
『圧潰波』スキルによって生じた不可視の力の波、それが音速を超えるスピードで放射状に広がっていき、その軌道上にあるもの全てを押し潰した。巻き込まれたモンスターは瞬時に原型を失い、皮と肉と骨と体液と、すべてがいっしょくたになって見えない壁に押しのけられていく。
一振りで100匹近いモンスターが消し飛ぶと、再びドワーフたちから歓声と驚愕の声が巻き上がる。放っておくとこっちに走り出してきそうな勢いだ。
「あれは『衝撃波』か!? 城壁すら一撃で吹き飛ばすんじゃねえか!?」
「おめえの『衝撃波』と全然違うじゃねえか」
「ソウシさんと比べるなや! あんなんあり得ねえからな!」
などと話をしているのは冒険者たちだろう。
両翼ではラーニやマリシエールたちも接敵していた。彼女らの剣や薙刀や短剣は殺到するモンスターをまったく近寄らせず、次々と屍の山を築いていく。
特にザコ相手で凄まじいのはサクラヒメだ。薙刀を使い、『繚乱』で分身し、『幻刃』で5重の刃を出現させての戦闘スタイルはあまりに強烈で、彼女の制空権に入ったモンスターは、まるで細断機にでも巻き込まれたように細切れになっていく。このザンザギル領の令嬢であることもあり、
「領主様のお嬢さんあんな強いんか! こりゃこの領はますます安泰だな!」
などとドワーフたちも注目しているようだ。
俺はもう一撃『圧潰波』を放ってさらに百匹を磨り潰した。
その時例のサボテンモンスターが、射程ギリギリのところで力の波に巻き込まれて吹き飛んだ。原型を留めたままで転がってひっくり返り、6本の脚で宙を掻いてもがき始めている。あれなら生け捕りにできるかもしれない。
さて、殺到してきたモンスターの群れだが、前衛陣の間を抜けて後衛陣の方へと向かって行くものもかなりの数がいた。それも11体の『精霊』のおかげで後衛陣までは届かないが、ゴブリンなど小回りの利くモンスターが30匹ほどドワーフたちのところまでたどり着いたようだ。
「おおっ! 来たぞっ! 叩き潰せぇっ!!」
「うおおおおぉぉっ!」
しかしドワーフたちが一斉に武器を振り上げて一匹に対して数人がかりで襲い掛かり、ゴブリンたちをあっという間に駆逐してしまった。その戦い方は堂に入っていて、ドワーフという種族の強さが垣間見えた。
ただ、やはり怪我人は出てしまう。何人かがゴブリンの棍棒や石斧の打撃を食らって仲間に介抱されていた。
「回復します!」
そこにフレイニルが命属性魔法を『範囲拡大』スキル併用で発動する。淡い光がドワーフたちを包みこみ、怪我人たちのうめき声が驚きの声に変わった。
「おおっ、あっという間に傷が治っちまったぞ!」
「女神じゃあ、女神様じゃあ!」
もはやなにをしても騒ぐ元にしかなっていないようだが、この分なら多少モンスターが行っても大丈夫だろう。むしろ今後のことを考えると、彼ら自身もモンスターと戦っておいたほうがいいはずだ。




