24章 異界回廊 53
ザンザギル領に急に出現したモンスターの群れ。
総勢3000匹はいると思われるモンスターは、謎の球形モンスターに率いられるようにして北上していたが、街道に行きあたると、東西に半々に分かれて、街道沿いに進軍を始めた。
俺はガルーダモスの背から見下ろしながら、気になったことを口にした。
「モンスターが街道というものを理解できるのは不思議だな。人間のにおいでも追っているんだろうか」
ふとした疑問を口にすると、スフェーニアがそれにうなずいた。
「言われてみれば不自然な動きですね。街道は歩きやすい場所に作られていますからそこを通るのは当然かもしれませんが、それでも迷うことなく街道を辿ろうとするのは理由がありそうな気もします」
「あの奇妙なモンスターが司令塔を担っているなら、その理由もあのモンスターにありそうだな。ますます生け捕りする必要が出てきたか」
「あまり近づきたくないモンスターですが……」
眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をするスフェーニア。まあその気持ちはよくわかる。
「ともかく侯爵とドロツィッテには報告を入れよう」
『通話の魔道具』をザンザギル侯爵、ドロツィッテ両方同時につながるように呼び出す。なんとこの魔道具は、複数カ所で同時に通信できるという優れものだった。
モンスターが領都とドワーフの里へ向かっていることを報告すると、侯爵とドロツィッテはそれぞれ、
『同じ数のモンスターが向かっているのであれば、オクノ侯爵殿たちはドワーフの里へ救援に向かっていただきたい。鉱山はともかく、里にいる冒険者は数が少ないのだ』
『そうだね。今急いで鉱山から里へ冒険者を向かわせているけど、多くは鉱山に入ったままで連絡が取れなくてね。しかも今里にいる冒険者は30人くらいで、B、Cランクは合わせて3パーティしかいないそうだ。どう考えても守り切れないから、ソウシさんたちはそちらに向かってくれ』
と応答した。
「わかった、こっちは里に向かう。モンスターの群れの動きだが、ゴブリンが歩いているので速度は遅い。領都にもドワーフの里にも着くのに半日以上はかかりそうだ」
『承知した。こちらは有利な場所を選んで迎え撃つことにいたす』
『領都はAランク冒険者が複数いるから、報告にあったモンスターなら1500匹いても問題ないよ。こちらは気にしないでドワーフの里を守ってくれ』
ということで、俺たちは一路、東のドワーフの里へと向かった。
といっても、『ガルーダモス』の羽根なら1時間もかからない。
空から見下ろすドワーフの里は、赤茶けた荒野の中にポツンとあるオアシスのようだった。
円形の城壁に囲まれた全体が石造りの町で、建物の多くには太い煙突がついている。もちろん100以上あるだろうそれら煙突からは今も煙が立ち上っている。
街道は里の西側の城門につながっているが、今その城門の前には、100人を超えるドワーフが並んでいるのが確認できた。
『望遠の魔道具』で見ると、そのドワーフたちの中には里長ライアノス氏の姿が確認できる。そしてすでに何人かは、こちらの姿に気付いたようにこちらを指さしていた。
また騒ぎになるような気もしたが、彼らの近くに『ガルーダモス』を着地させた。
俺たちがガルーダモスから下りていくと、案の定、ライアノス氏を先頭にすごい勢いでドワーフたちが走って来た。
「おおおおお!? やはりソウシ殿たちではないか! 話には聞いていたが、まさか空を飛ぶ魔物に乗って現れるとは、こりゃたまげたなどというものではないわい!」
里長のライアノス氏は、一際体格がいいドワーフだ。顔は茶色の量が多い髪と豊かな髭と太い眉で覆われていて年齢不詳だが、人間で言うと50歳くらいの顔には見える。ただエルフ同様彼らも人間と寿命が違うそうなので、見た目の年齢はあてにならない。
ともかくそのライアノス氏は、俺の前にやって来ると背中をバンバンと叩き、それから『ガルーダモス』を興味深そうにしげしげと眺めた。
「ソウシ殿よ、こいつは一体どんなモンスターなんでえ?」
「ガルーダモスと言いまして、モンスターではなく『聖獣』だそうです。オーズ国にゆかりのある存在なのですが、今回色々と理由があって力を貸してもらっています」
「『聖獣』じゃと!? ということは神様の使いみたいなもんか?」
「それに近い存在だと思います」
「へえぇ。色々噂は聞いてたが、それ以上にとんでもねえ男になってるようだな! しかも美人がさらに増えてるし、さすが力がある男は違うわな。がははっ!」
さらにバンバンと背中を強く叩いてくるライアノス氏。
その音に驚いたわけでもないだろうが、ガルーダモスは大きく羽ばたくと、上空で旋回して去っていった。
「それより里長、こちらに1,000匹以上のモンスターが迫っています。私たちはその対応をするために参りました」
「おう、そうそう。ワシらもその話を聞いてここで集まっていたところよ。冒険者じゃない者でも、ワシらドワーフならゴブリンやオークぐらいなら叩き潰せるからのう」
「それは心強いですね。ただ、モンスターはゆっくりと進んでいましたので、早くてもこちらに来るのは夕刻ごろになるでしょう」
「夜の戦いになるのは避けたいのう。さっさとモンスターどもを蹴散らして宴をせねばならんし」
そう言って髭をしごきながらニカッと笑うライアノス氏に、ドワーフ族の強さを感じてしまう。もしかしたら俺たちがいなくても大丈夫だったのではないだろうか。
「とにかく、今から構えていると疲れてしまいます。見張りを残して一度里へ戻ったほうがいいと思います」
「なんじゃ、どこかいい場所に陣取って待ち受けなくてもいいのか……と言っても、このあたりは平らじゃから意味はないかの」
「ええ。我々がいれば1500匹程度のモンスターは相手になりません。里長に打ってもらったメイスもありますから」
「おお! そうじゃった! アレを使うところが見られるのじゃな! これはちと楽しみになってきたぞ。里に戻って酒の用意をしておかねばな!」
ライアノス氏はそう言うと、見張りを指示して、俺たちを先導して里へと入っていった。




