24章 異界回廊 56
翌朝、俺たちはいつもの通り馬車を仕立ててドワーフの里の城門前にいた。『緑の種族』を捕らえた檻は新しく出した荷馬車に載せ、全5台編成である。なお、檻を載せた荷馬車には監視として俺が乗ることにした。
ライアノス氏と大勢のドワーフたちに見送られ、俺たちは領都ザンザギリアムに出発した。
なお、見送りのドワーフたちの中には、昨日の夜鉱山からやってきたドワーフの冒険者も交じっていた。彼らは今回の戦いに参加できなかったことを残念がっていたが、今後の里の守りは大丈夫だと言ってくれた。
さて、街道には昨日のモンスター騒ぎで誰もおらず、俺たちの馬車はかなりのスピードで走ることができた。檻を載せた荷馬車もゲシューラの改良が入っていて、頑丈になっている上に乗り心地も一般の馬車に比べるとはるかにいい。
檻の中の『緑の種族』は、ずっと座ったままほとんど動かない。逃げる素振りも見せないのは諦めているのか、機をうかがっているのか、それすらわからない。
実はこちらから何度も話しかけたりしているのだが、最初こそキュ、キュと声を出していたが、意思の疎通ができないと感じたのか、それ以降はまったく反応しなくなった。
それから奇妙なことに、この『緑の種族』は、水や果物は口から摂取するのだが、排泄をしないようであった。領都ザンザギリアムに着くまで1日半かかったのだが、それまでに一度も排泄をする素振りを見せなかった。
もちろんマリアネが『鑑定』は試したのだが、『緑の種族』に関しては情報が見えないということだった。それはとりもなおさず、『緑の種族』がモンスターではなく、奇しくも俺が名付けた通りなんらかの『種族』であることを示していた。
領都に着いた俺たちは、そのまま真っすぐにザンザギル侯爵邸へと向かった。
馬車が玄関前に停車すると、侯爵たちに交じってドロツィッテが迎えに出てきて、挨拶もそこそこに『緑の種族』を運ぶ馬車の荷台に上がってきた。
ドロツィッテは、檻の向こうで無反応に座っている『緑の種族』をしばらく観察して、それから深く息を吐き出した。
「確かに、これは全く見たことのない種族だね。私の記憶にも、このような種族に関する記録はなかったと思う」
「とすると、完全に新発見の種族ということになるか」
「帝室や王家の研究員などにも当たってみるけど、過去の厄災関係の資料は冒険者ギルドが一番集めているはずだから、帝室や王家でなにか見つかる可能性は低いかもしれない。あとはやっぱりエルフくらいかな、頼れるのは」
「それならスフェーニア経由で彼女の父上に調査を頼んでみるか」
「それならギルドの『通話の魔導具』経由で頼んでもらおう。情報はなるべく多く欲しいからね」
その場でスフェーニアを呼んで了解を取る。『通話の魔導具』は侯爵邸のものを使わせてもらえることになり、スフェーニアはそのままカエデノハ夫人とともに侯爵邸へと向かって行った。
「ところでドロツィッテ、この生き物……俺は『緑の種族』と名付けたんだが、こいつはどうする?」
「『緑の種族』か。見つけたのはソウシさんだから、ソウシさんの命名に従おうか。それでこの種族だけど、彼は帝都に運ぶことになるかな。帝都の研究機関がこの大陸では間違いなく最先端をいっているからね」
「そうか……。そうすると、早速『異界回廊』を使うことになるな」
「ここから1日で帝都に着くのは本当に大きいね。帝室にはザンザギル侯爵経由で連絡してもらうから、明日には迎えが来るだろう」
「頼む」
『緑の種族』については、この時点で俺たちの手を離れた。
『緑の種族』の身柄はこの場でザンザギル侯爵家に引き渡され、後は彼らに任せることになる。驚きの発見というか遭遇であったが、自分の手を離れて少しほっとしている自分がいる。
檻ごと運ばれる『緑の種族』を見送りながら、フレイニルもどこか安心した顔をしていた。彼女は邪なものを感受する力が強いので、どことなく『緑の種族』に感じるところがあったのだろう。
ともかく、これで『大いなる厄災』なるものが、ただのモンスターの大量発生程度の単純なものではないということが見えてきた。
ここで気になるのは、今回大陸の北にあるここザンザギル領にモンスターの群れが現れたということだ。これは、『厄災は南から来る』というライラノーラの言葉と矛盾する現象だが、それもあの『緑の種族』が何らかのカギを握っているのだろうか。
ともかく、モンスターの群れが南から来るとは限らないということになれば、『異界回廊』の重要性はさらに高まるだろう。
『大いなる厄災』が来るまで、あとひと月半くらいはあるはずなのだが、それまでも少し忙しくなりそうだ。




