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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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24章 異界回廊 48

 翌日、俺たちは帝城へと向かった。


 この大陸最大の帝国の城は、翼を左右に広げたような形の、壮大としか言いようのない白亜の建築物である。


 その威容は何度見ても圧倒されるものがあるが、今回俺はそれどころではなかった。


 なぜなら、玄関前まで皇帝陛下その人が迎えに出てきていたからだ。


 妹マリシエールを横に連れて、なごやかな顔で立っている若き皇帝アイネイアース。長い銀髪を腰まで流した美形の青年で、年齢はまだ30に届いていないはずである。


 俺は馬車を下りて彼の前まで歩いて行き、深く頭を下げた。


「陛下自らのお出迎えをいただき光栄に存じます。侯爵ソウシ・オクノ、陛下の前にまかり越してございます」


「世界を救った稀代の英雄を玉座の上で迎えることなどできませんよ。さあ、まずはお入りください。城でゆっくりとお話をお聞かせいただきたいのです」


 皇帝陛下自らの案内で、俺たちは会談の間に通された。


 皇帝陛下もそのまま席に着き、使用人たちがお茶などを用意する。


 会談の準備が整うと、まずは世間話を2、3してから、これまでのいきさつを報告した。


『冥府の燭台』を追って帝都から南下して、獣人の里に行き、それからアルマンド公爵領へ向かったこと。公爵領で『冥府の燭台』の本部を叩き、さらにメカリナン国で『異界』へ赴き、そこで『冥府の燭台』の幹部を倒し、『神』が作った『悪魔発生装置』を破壊したこと。そして今、『大いなる災い』対策として『異界回廊』を設置している最中であること。


 すでに何度も話をしているので説明もすっかり板についてしまっている。マリシエールから一度話は聞いているはずだが、皇帝陛下はそれでも興味深そうに何度も相づちを打ちながら聞いていた。


 俺が話し終わると、皇帝陛下は深くうなずきながら息を大きく吐き出し、そして目をまっすぐに向けてきた。


「……まさに神話伝承のお話をそのまま聞いているようですね。こちらにも『悪魔』は多数出現しましたし、それが急に止まったのも確認をしております。『冥府の燭台』についてはファルクラム侯爵などで大きな犠牲も出ておりますし、それを討伐したとなれば、オクノ侯爵と『ソールの導き』の功績は計り知れないものがありますね」


「ありがとうございます。しかしすべては皇帝陛下を始め、多くの方たちの助力をいただいていればこそです」


「ふふふっ、その言いようは変わりませんね、オクノ侯爵は」


 目を細めて笑う皇帝陛下だが、すぐに真面目な顔に戻って言葉を続けた。


「しかし困りました、オクノ侯爵たちが成し遂げたことはあまりに大きく、今までの慣例で処理できるようなものではありません。我が国としてもその功には応えたいと思うのですが、臣下を集めてもどうすべきかがまとまらないのです。そこでお聞きしたいのですが、オクノ侯爵はなにか望むものはありますか?」


 この話は必ず来るとは思っていたが、いきなり直球で聞かれてしまって、俺は少し面食らわざるを得なかった。


 もっとも、メカリナン国でもヴァーミリアン王国でも同じであったので、答えは決まっている。


「陛下、我らはまだこの大陸に迫る災厄への対応の途中ですので、そういったお話はすべてを終えた後でよろしいかと存じます」


「なるほど、確かにそうかもしれませんね。『大いなる厄災』、そちらでも侯爵たちは活躍をされるでしょうからね。しかしそうなると、侯爵たちの功は天にも届くほどになってしまいそうです」


 少し困ったような顔をする皇帝陛下。


 確かに、あまりに功績を上げ過ぎた臣下ほど扱いに困るものはないだろう。俺としてもその気持ちは斟酌しんしゃくするに余りあるが、俺としてはしなければならないことをしているだけなのでどうしようもない。


 ゆえに、


「これはまだ私個人の考えですが、いずれはどこかの土地に落ち着こうと思っております。実は昨日、『黄昏の庭』へも行くという話が出まして、私は総督の地位もいただいておりますし、そちらに居を構えることなども考えております」


 と、将来的に自分は大人しくしているつもりだと伝えておくしかない。『黄昏の庭』に居を構えるというのはあくまで可能性の一つでしかないが、『英雄』が引退する先としてはやはり捨てがたい。


 ゆえにこれは、俺としては波風を立てないつもりの言葉だったのだが、逆に皇帝陛下は身を乗り出してきた。


「なんと、侯爵はゆくゆくは『黄昏の庭』へと赴かれるつもりなのですね!?」


「はい。ゲシューラも一度帰りたいと言っておりまして、『大いなる厄災』の件が片付いた後に向かうつもりでおります」


「それはとても興味深いですね。もしかして『異界回廊』を設置すれば、『黄昏の庭』とも自由に行き来ができるようになるのでしょうか?」


「それは、恐らく可能だと思われます。しかし、さすがにそれは他国の了承が得られないでしょうから、今のところ開くつもりはありませんが……」


「しかし、以前に大陸に渡ってきていたような、危険な考えの『黄昏の眷族』は減ったと聞いていますが」


「人間と同じで常に例外的な者は現れますので……。ただ、『異界の門』を閉じる方法が見つかれば試しに開くこともあるかもしれません」


「ああ、それはぜひ願いたいですね。実は、『異界回廊』が開通したら、私はあちこちの国に行こうと考えているのです。皇帝としても私個人としても、やはり見分は広めておきたいものですから。もちろん『黄昏の庭』もこの目で見たいという気持ちは強くあります」


 そう言った時の皇帝陛下の顔は好奇心に満ちた少年のようで、俺としても「そうだよな」と共感するしかない。隣に座っているマリシエールは苦笑いを浮かべているので、実際皇帝陛下が外国に出るとなったら大変なことになりそうだが。


「しかしオクノ侯爵のお考えはわかりました。この帝国も領土だけは広く、土地も余り気味ですから侯爵に差し上げられる場所はいくつかあります。もし必要なら言ってください。申し訳のない話ですが、要らないと言われても押し付けることがあるかもしれません」


 と、一転して苦い表情をする皇帝陛下。


 恐らく裏で大臣や有力貴族たちに突き上げを食らっているのだろうなというのは察するに余りある。


 俺と直接やり取りをしている人間ならともかく、噂しか知らなければ、俺という存在はあまりに恐ろしいものに映るだろう。土地でも与えて大人しくさせておいてくれと、そんな話があちこちでされてもおかしくはない。


 それを思うと、俺としても、


「その方が皇帝陛下にとってご都合がよいのであれば、謹んでお受けいたします」


 と答えるしかない。これについてはメンバーとも話し合っていて、ある程度仕方ないだろうと合意を得ていることである。


「ありがとうございます。オクノ侯爵には助けられてばかりですね」


「私もマリシエール殿下には助けていただいておりますから。同行を認めてくださった陛下には感謝しております」


「ふふっ、そういうことにしておきましょうか。マリシエールも、『ソールの導き』では本当に信じられないような経験ばかりしたと自慢気に語っていましたよ。そうだろう、マリシエール?」


「ええ、本当にそうですわ。ですから、この先もソウシ様にはついて参ります。『大いなる厄災』もありますし、『黄昏の庭』も兄上より先に見て参りますので」


「それは本当に羨ましいよ。オクノ侯爵、今後もマリシエールをよろしく頼みますね」


 と、多少意味深な様子で念を押してくる皇帝陛下。


 まあマリシエールとの関係についても、もはや避け得るところではない。心は決まっているので、俺も「お任せください」と答えるが、そうするとマリシエールはニッコリと微笑んでくる。


「さて、じゃあ次に『異界の門』の件についてかな。こちらが本命のはずなんだけど、話はとても簡単でね――」


 その後にされた『異界の門』設置の話だが、やはり設置することについては決まっていて、場所もとりあえず帝都に一つ、サクラヒメの故郷であるザンザギル領に一つ、それから北のファルクラム領に一つ、それと南の国境の町ガッシェラに一つ、最後に西のドーラゼル領に一つと、計5カ所に開くことを頼まれた。


 怪しげな門を開くことに抵抗があるかと思ったが、すでに王国の『異界の門』についての情報が来ていて、想像以上に有用なものだと判断がなされているらしい。帝国の情報収集力の高さは恐るべきものである。


 ともかく久しぶりの皇帝陛下との対面だったが、おおむね良好な関係を築けているという感じはした。まあ、マリシエールを俺が預かっているのだから当然ではあるのだが。


 なお、マリシエールが話をしたようで、その場でアイスクリームとパフェのレシピ伝授を頼まれ、こちらも結局厨房で作ることになってしまった。


 アイスやパフェはヴァーミリアン王家同様絶賛されていたので、帝国でも広まることになりそうだ。

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