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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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24章 異界回廊 47

 帝都の我が家。


 馬車が庭に入っていくと、家の玄関から3人の中年女性が現れた。


 全員が俺の使用人であり、いずれも皇帝陛下から紹介された信用ある人たちである。3人の長はミルグレットさんといって、家の維持管理に関わることは基本的に彼女に一任している。


 ちなみに彼女たちには、俺たちが帰ることは事前に連絡が行っている。


 俺たちが馬車から下りていくと、ミルグレットさんたちは深く礼をした。


「お帰りなさいませお館様。私たち3人、心よりお待ち申し上げておりました」


「家の管理お疲れ様です。なにか変わったことはありましたか?」


「いえ、庭師を三度入れたのと、税金の徴収があったのみで、それ以外は特にはございませんでした」


「結構ですね。では久々の家で休むとしましょう」


 我が家――と呼ぶのはいまだに抵抗があるのだが――は、部屋だけで30以上ある、3階建ての立派なものである。『ソールの導き』全員12人で住んでも余裕があるくらいだが、貴族は客を家に泊めることもあるので、部屋は余るくらいでないといけないそうだ。そのおかげで、新たに仲間になったライラノーラの部屋もすぐに準備が整う。


 なお、帝国伯爵であるドロツィッテは近くにある自分の館へ一度帰っていった。向こうは向こうで長い間家を空けていたのでやることがあるはずだ。


 皇妹マリシエールも帝城が実家(?)となるので、一人でそちらへと向かった。彼女も俺たちがいないところで兄である皇帝アイネイアースに報告をしたいこともあるだろう。


 久しぶりの我が家のリビングで、俺はソファにもたれて大きく息を吐き出した。まだすべきことは残っているが、それでも自分の家に戻ったという感慨が湧いてくるのは抑えられない。なんだかんだ言って、外にいるとわずかばかりでも心を使っているのだと実感する。


 顔を仰向けにして、広いわりにクモの巣一つない天井を眺めていると、俺の隣に座っていたフレイニルが声を掛けてきた。


「ソウシさま、お疲れですか?」


「ん? いや、家はやっぱり落ち着くと思ってな。フレイはどうだ、落ち着く感じはするか?」


「はい、私もとても落ち着く感じがします。この家には2カ月くらいしか住んでいなかったのに、不思議と自分の家という感じがします」


「確かにそれくらいしかここで生活していないんだよな。思えば贅沢な話だが、貴族としてはそれが普通か」


「そうですね。父のアルマンド公爵も王都には別邸を構えていますし。そういう意味では、ソウシさまはこの家のほかに、ヴァーミリアン王国とメカリナン国の王都にも家があってもいいと思います」


「そうだな……」


 実際その3国の侯爵である以上、それぞれの国の都に別邸を持つのはむしろ義務と言えるのかもしれない。


 もちろんこのレベルの家は維持するだけで驚くほどの費用がかかる。しかし俺が今持っている国家予算に匹敵する財産を考えれば、逆に家を買うことで少し金を市場に回したほうがいいのかもしれない。


「『異界回廊』があれば各国間の移動も楽になるし、『大いなる災い』の件が片付いたら、そのあたり一度よく考えてみるか」


「はい。しかしソウシさまはやはり、どこか土地を拓いてご自分の国をお作りになるのがいいと思うのです。あの『精霊樹の苗』が根付く土地が、きっとどこかにあるはずです」


「だといいんだけどな」


 似たようは話は以前もしたような気がするが、今回の『大いなる災い』が終われば、先延ばしにもできなくなる。


『狡兎死して走狗煮らる』なんて言葉があったが、災いが収まって平和が訪れれば、俺という存在は必ず各国の首長にとっては疎ましくなる。


 もちろんそうならないための立ち回りはしてきているつもりだし、『ソールの導き』のメンバーがそのための防波堤になるだろうということもわかっている。だがそれでも、やはりどこかに土地を見つけて、そこで大人しくする――対外的にそう見せる必要は出てくるだろう。


 フレイニルの頭を撫でながらそんなことを考えていると、ゲシューラがやってきて、珍しく俺の隣に座ってきた。


 下半身が蛇である彼女の場合、ソファに座るのも最初難儀していたが、今は上手く下半身をくねらせて座ることができるようになっていた。


「ゲシューラにはこの家でゆっくり好きなことをしてもらいたいんだが、引っ張り回すことになって済まないな」


 といつも思っていることを口にすると、ゲシューラは首を横に振った。


「いや、前にも言ったがソウシたちとの旅は飽きぬから、これはこれで良い。野営時などには多少時間も取れるしな」


「確かに、短い時間を使って色々研究はしているみたいだな」


「うむ。ただソウシといると作りたいものが次々と出てくるのが困る。やはりいずれは、まとまった時間を物を作るのに充てたいとは思う」


「そうだな」


 と俺がうなずいていると、フレイニルが俺越しにゲシューラに話しかけた。


「ゲシューラさんが今作りたいものはなんですか?」


「そうだな……。ソウシが前に言っていた、回転運動を生み出す魔道具を応用したものは作りたい。自動車、であったか」


「馬がなくても走る馬車ですね。今乗っている馬車もとてもいいものだと思いますが、それをさらに発展させるのですね」


「うむ。ただソウシの話を聞く限り、自動車は作るのにはかなり時間がかかりそうだ。使えるようなものを作るだけでも最低でも1年くらいは見ないとならぬだろう」


「1年でできる可能性があるのは逆に凄いんだがな」


「走る、曲がる、止まるであったか。最低限の性能だけ考えればそれくらいで作れよう。後はこの間話があったアイスクリーム製造機か。これは冷凍の魔道具と回転運動を組み合わせれば容易に作れよう」


「そちらはとても楽しみですね。マルガロットお姉様も喜ぶと思います」


 フレイニルもアイスクリームは大層気に入っているようで、ニッコリと微笑んだ。


 と、そこでゲシューラが、俺の顔を覗き込むようにして見上げてきた。


「ときにソウシよ。此度の『異界回廊』の敷設と、『大いなる災い』の対策、そちらが終わったら一度『黄昏の庭』に行きたいのだ」


「ああ……そうか、『黄昏の庭』のことは俺も忘れていたな。それは俺も行くことはできるか?」


「無論だ。すでにソウシは『黄昏の眷族』の長と認識されているはずだからな。もっとも、だからといって『黄昏の眷族』がソウシをもてなすようなことはせぬと思うが」


「そんなことは望んでないから問題ない。そうだな、『黄昏の庭』行きは予定に入れておこう」


「私もぜひ行ってみたいです、ソウシさま」


「皆もそう言うだろうな。特にドロツィッテは騒ぎそうだ」


「ふふっ、そうですね」


 どこかに落ち着こうなどと考えていたところだったが、『黄昏の庭』は確かに行かなければならない土地だ。なにしろ俺は『黄昏の庭』の総督という肩書も得ているのだ。自分が管理する土地に行かないという話はないだろう。


 しかもよく考えたら、総督であるということは、


「『黄昏の庭』に居を構えるのもありか……?」


 などということも考えられる。


 しかしそれについては、ゲシューラが首を横に振った。


「いや、ソウシよ。『黄昏の庭』はニンゲンが住むに適した土地ではないぞ。基本的には一年中寒いゆえな」


「火山があって比較的温かいという話じゃなかったか?」


「それでも暮らしやすいわけではない。まあ、それは行けばわかるであろう」


 なんにしろ少し先の目的が新たにできたのは心が浮き立つものがある。『大いなる厄災』が終わってすぐに身を落ち着けようと思ったが、それは少し先のことになりそうだ。

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煮らるは烹らるの方が良さそう
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