02 捨て駒
2話です。
私ー『春紫苑』は帝国の暗部の密偵である。
生まれた頃から帝国に忠誠を誓い、暗殺、諜報、密偵など、国の影の刃として後ろ暗いことを行ってきた。
そして今回も、隣国である王国の国力を削ぐために舞闘会に参加せよ、との
皇帝からの勅命で王国に潜入したわけだ。
忠誠を誓ったと言ったが、私は組織の末端のほうであり、
替えはいくらでもいる。戦闘力もそこまで高くない。
そんな私に声をかけた理由は、
この任務は、『どんな実力者でも帝国に帰ることが難しいから』である。
それもそうだ、この王妃を決める舞闘会は幼い頃から武芸を叩き込まれた武家の令嬢から実戦で鍛えた女傭兵までもが参加する。それらの武人たちと王妃の座を奪い合うのだ。負けたら死ぬことだって十分にある。
それはもちろんだが、これは王妃を決める場でもあり、
また、優秀な人材を引き抜く場でもあるのだ。
下手に善戦したら身元を調べ出され、正体がばれてしまう。
熟練の暗殺者を送るのはリスクが高すぎるのだ。
だが、私は皇帝直下の暗殺者とはいえ、程度が知れている。
ようは捨て駒として選ばれたのだ。
こうして私は偽の身分を作成し、無事王国の離島にある古城に辿り着いた。
そして城の偵察をしていた際に迷子の少女と出会い、
気まぐれで助けて共に城に向かったのだ。
城に入り彼女と共に参加受付を行うこととなった私は、
なんとなく白詰草を選ぼうとしたが、迷子の少女が白詰草に決めたため私の名は春紫苑となった。
私はここから『春紫苑』として、この闘いで王国の力を最低限削ぎ、
祖国の繁栄に尽力するのだ。
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「春紫苑さんっ!」
白詰草が私に声をかける。
春紫苑……か。可愛らしい名前だ。元の花も、花弁の細かい儚い小花だった。
きっと私の硬派な見た目とは不釣り合いだろう。
血腥いことばかりしてきた私には似合わない名に苦笑する。
「この闘い、お互い頑張りましょう!」
明るい笑みの白詰草に私はニコリと微笑む動作をした。
彼女はどこにでもいそうな田舎の少女だ。
きっと、戦場帰りの戦士や暗殺者、武家の娘が多く参加する闘いでは
すぐに敗れ、最悪命を落とすだろう。
ならばせめてこの場では親切にしてやろう。
運良く生き残ったら何かに使えるかもしれない。
そんな目論見をしながら白詰草に憐憫の目を向けていると受付が声をかけてきた。
「白詰草さま、春紫苑さま、お待たせいたしました。
続いて舞闘会で着用するドレスを見繕わせていただきます。」
「奥に控えるメイドが案内いたしますので少々お待ちくださいませ。」
彼が鈴を鳴らすと、両隣から音もなくメイドが現れた。
クラシックな装いのメイドで、こちらも執事と同じように、
細かな装飾のあしらわれた顔を覆う仮面を着けていた。
メイドは深くお辞儀をした後、
それではご案内いたします。と私たちに声をかけ、そそくさと歩き始めた。
豪華な廊下をメイドの後ろについていきながら右に左にと曲がっていると
やがて豪奢な扉が現れた。
メイドが扉を引くと上品な香の匂いと化粧品の匂いが広がった。
一歩と進み、部屋の中に入る。
部屋の中に入ると花のような匂いがさらに強くなる。
見渡すとあたり一面に豪奢なドレスとトルソー、そして無数の花が並んでいた。
白詰草は頬を赤らめて辺りを見渡している。
本当にこの部屋は眩暈がするほど色彩で溢れていた。
二人のメイドが扉を閉める。そして私たちの前まで歩み、口を開いた。
『ここは花の間。美しい花には棘があるように、煌びやかなものには罠があるものです。』
どうか、
『惑わされぬようしてくださいまし。』
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